147:望む世界
ちょっとした授業参観を終えて医務棟へ向かう
ウィミーさんが険しい表情で質問してきた
「先程は平民も学んでいると仰いましたが、この学校という場所にはどうやって平民が入っているのですか?何か所有するものや人身など担保に必要な物が有りますよね」
「基本的にはこの学校に入る前に保育園という施設に通ってもらいます、そこで基礎的なものを学んだ子は優先的に入れますね、今のところは本人の自由意志と言っても親御さんの都合が有るので入学してくれれば優遇措置を取るようにしていますね」
「すいません、ちょっと何を言っているのか解りません、どういう事です?」
困惑し始めちゃったぞ…
「え?ですから子供を働き手として見ている親御さんを説得するために入学してもらえれば生徒の昼食の免除や農地を与えたり税の免除などをしてですね」
益々表情が険しくなっていくウィミーさん…
「なぜ教育を施す側が施しを受ける側に対価を支払うのです?普通逆でしょう!」
少しエキサイトしてきちゃったな…そうか彼女にとって学問とは学ぶ為に授業料が必要なものであって無料どころか優遇されているのが理解できない…というか許せないのかもしれない
「これは詳しく話すのには時間が必要な話なのでこの場ではざっくりとしかお教えできませんが、私たちがこの世界に転移してくる前の社会では義務教育と言って文字通り国民は子供に教育を受けさせなければならないという義務が存在していました」
「教育が義務…」
「はい、全く無料というわけでは有りませんがウィミーさんが考えるような担保は必要無く誰しもが通うものです」
「何のためにそんな事をするのです、そんな事をすれば民が知恵をつけて国にとって良いことなど一つも無いでは有りませんか」
「手厳しいですね…ですが私たちの居た国はそれが当たり前でそれで国も回っていました、その常識で生きて来ましたから、この世界の常識に寄り添うことは有っても私たちの常識が無くなることはないのですよ」
「滅ぼされるとしてもですか?」
「負ければそうでしょうけどね、それに私たちの居た日本にはこんな言葉があるんですよ、『風が吹けば桶屋が儲かる』って言うんですけど」
「意味が解りませんよ」
「そうですかね、現に風に飛ばされたセメントの袋でウィミーさん儲かりそうじゃないですか、この言葉の意味的には『一見しただけでは関係の無い様な事が思っても見なかったところに影響を及ぼす』って感じですかね」
「最悪自分達が滅んでも始まってしまった事は止まらない、世界は変わって行くという事ですか?」
「そう言われるとバタフライエフェクトの方が…失礼何でも有りません、話を戻すと滅びる気は更々有りませんがウィミーさん的には僕らが滅ぶ未来と繁栄する未来どちらが都合いいですか?」
質問に質問で返すのはあまり好きじゃないんだけどウィミーさんがどっち側に立ちたいのか確認しておきたかった
「それは…」
「おっと、到着しました、予定では執務室で挨拶をするはずだったのですが状況的にこちらの部屋になってしまいすいません」
ノックをして声を掛ける
「ノウミさん失礼しますクレイです」
シュナとミュレッタも居ることを知っているので返事が返ってくるまでは入室しない、いきなり開けて授乳中で赤の他人に嫁の胸見られるとか嫌だからね
「どうぞ」
中にはベッドで横になっているミュレッタと隣で布に包まれた赤子を抱くノウミさん
もう一つのベッドには腰を掛けてシェリティナをあやしているシュナ
「この様な様子で申し訳ない私はノウミ、この駐屯地を預かる責任者だ」
「妻のミュレッタと申します、夫には執務室にと申し上げたのですが…」
「オベルダン王国の商人のウィミーと申します。こちらこそこの様なタイミングでのご挨拶になり申し訳ございません
代表者だけが互いに頭を下げる程度の挨拶
非公式の席且つ状況も状況なので礼儀に関しては不問と伝えてあるからこれで問題ない
「それとこちらが私の妻クリシュナと娘のシェリティナです」
こちらも双方軽く会釈をしてから
「この都度はクレイ様を始めとした皆様に…」
ん?ウィミーさんの挨拶が止まってしまった
「失礼しました!皆様に助けて頂きありがとうございました」
慌てて言い直すウィミーさんだが取り繕えていない、俺がシュナの眼をしっかりと見つめると彼女が頷いてくれて俺も覚悟を決めて話し始める
「私達の子供が気になるのですね?」
単刀直入に聞いてみる
「申し訳有りません…そのシェリティナ…様は」
「正真正銘エルフの私の妻クリシュナと人間である私クレイの間の子供です、人とエルフのハーフはこの様な肌の色になるようですな」
「そのようなことが…」
動揺しているのはウィミーさんだけではない、オベルダン側もサンダン王国の商人も明らかに動揺している
「はい、ですからこの世界における貴方がたが『ダークエルフ』と呼ばれている種族は人とエルフの子孫であり『ハーフエルフ』と言うのが正確ではないかと私は考えております」
だぁ?
我が子もそれがなにか?とでも言っているかのようににこっと微笑んだ、可愛いな
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「ダー…ハーフエルフですが、二組の人間とエルフの夫婦の子が同じ肌の色という偶然はありえないのでしょうか?」
シュナ達と別れて演習場へと徒歩で向かいながらウィミーさんが問いかけてきた
「あり得るでしょうね、サンプルが少ないのですから」
「それでしたらあの様な言い方をされなくても」
「それは出来ません、私の子が肌の色が違うというだけで不当な扱いを受けるようなことが有ってはなりませんから、それにこれは私達夫婦だけの考えではなく国としてのスタンスですので」
「肌の色はその象徴でしかありません、ダークエルフは実際に歴史上様々な厄災をもたらしてきたのです」
彼女の必死さを見れば冗談でもなんでもないのは解る、解るが
「それが私の子供個人と何が関係があるのですか?悪事を働いたら裁かれるのは当然でしょう、ですが生まれた瞬間から存在そのものが悪だと言われて認めることなんて出来るわけ無いでしょう」
「しかしダークエルフの存在を表に出せばそれは嫌悪の対象として見られます、まして国の中枢に席を置く者の子がダークエルフなら確実に政治問題になります、ですからその…育てるにしても表には…」
「コンクルザディアはこの子達…この国でこれから生まれてくる人や他種族との間に生まれてくる子供達はオークであれホビットであれ、ただのハーフとして承認して行きます、もし我が国の子供たちが存在しているだけで不当な扱いを受けるのならば容赦しません、この件をあなた方にお伝えしたのは、これからあなたが付き合って行こうとしている国の姿を見せておくべきだと思ったからです」
「容赦しないなんてどうやって…」
彼女自身バックボーンに何かあるのかもしれないが、国交を結んだわけでもない他国の者にここまで真剣に向き合おうとしてくれている事には感謝する
「さあ演習場に着きました、どうやって迎え撃つつもりかはその眼でお確かめください」
フェデンのおっさんに見せた頃と比べて格段に練度の上がった兵士と兵器を見ていただこうじゃないか
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