146:視察(二日目)
本日投稿1話目
18時頃に2話目を投稿予定です
ここが王都ではないと知って恥ずかしさに打ちのめされているウィミーさんと御一行とサンダン王国の商人二人
「人口は少なそうだなとは思ったんですよ、でもホテルなんてオベルダンもサンダンも王都にしかないですし…この石畳だって見たこともない素材で」
色々と言い訳してて面白い
「それでしたらこれから行く先だともっと楽しめると思いますよ」
クラクションを鳴らしてマイクロバスがやって来る
「来ましたね、今日はこちらに乗って移動していただきます」
「なんですかアレ…」
やって来たのはスクールバス、子供たちを学園に送った後にそのままこっちまで来てもらったのだ運転手はデンさん
「こちらは車というコンクルザディアの乗り物で最大で二十九人まで乗ることが出来ます」
「馬は何処に?それとも魔法なのですか…」
まあそういう反応になるよね、でも今までのフェデンのおっさんとか建築家とかに比べると理性的な反応でとても助かる
「どちらでもなく機械ですね、仕組みに関しては機密ということでお願いいたします」
機密って言葉便利だなぁ~言いたくないことは全部機密って言えば良いんだもの
けどそれも経験が有っての国の方針だからね、今までって結構日本人の気質というか『機密』の一言で片付けるのが相手に悪い気がしてたけど、これから先を考えればこの方が良い
押し黙ってしまった御一行だけどバスに乗ればまた椅子の材質や床材にまで目を通して商人としてはしゃぎ始めたので問題ないでしょう
数日前に襲撃を受けたばかりな事も有って念の為に城壁などには見張りも増員してある、狙われるとしたら門を出る今か道中だろうがドローンも偵察飛行中で抜かりはない
「それではこのバスはシンバ駐屯地を経由して我がコンクルザディア王都へと向かいます、安全運転には十分配慮しますが止むを得ず急停止することがございますので席からは立ち上がらないようにお願いいたします」
路線バスでよく聞くアナウンスの真似だけど人生初乗車の皆さんは真剣に聞いてくれて気持ちがいいね
右手を御覧くださいってやりたいけど…残念ながらエピリズとシンバ駐屯地までの間に観光名所は何一つない、しばらくはただ景色を眺めるだけそれでも車内での会話は弾んでいる
「全く揺れませんね…」
「この車もだがこの道の影響も大きい所だろう」
「ホテルもそうでしたがこのガラスどうやって出来ているんでしょう?一枚ですよ一枚」
「あのご老人は魔法か何かを送り込んで動かしているのだろうか?」
「魔法ではないらしいです」
「益々知りたくなる」
「ですよね」
そんな感じで話し合っていると駐屯地の城壁が近づいてきた
「なんか見えてきたぞ」
「あれもコンクリートという物の様だがエピリズの物とはまた違う形をしているな」
駐屯地の城門を抜けると馬達がお出迎え
「結構な数が居るんだな」
「ガープスあれを見て」
「何処です?」
「あれよあの小屋の下」
なにか見つけたのかと思って俺も見てみたそこには何段かに積まれた袋入りセメント
「あれが気になりますか?」
「ええ、あれは私たちがエピリズの存在に近づく切っ掛けの一つなんです」
なんか面白そうだな
「セメントがですか…内容を聞いても?」
最初はサンダン王国の新しい商品に違和感を抱いたことが切っ掛けだったのだという
彼女の持論では、道具とは必要とされる土台が有って生まれる、土台とはその国や地域の産業であったり国の方向性であったり様々、そのうえ形になるまでに時間が掛かり商人ならばそれなりに事前に情報が入って来る
それなのにサンダン王国の商人たちが持って来る新たな道具からはそれまでのサンダン王国の匂いを感じられなかった
なにか突然完成された物が出回ってきたと感じたのだそうだ、そして調べ始めた矢先にこのセメント
正確にはセメントではなく袋の方だったが、サンダン王国の王都に卸したセメントの空袋が何かの拍子、おそらく風にでも乗って飛ばされそれを見つけたと
その材質から全く新しい素材から生まれた紙なのではないか、これも彼女の持論から言えば『土台』が感じられない存在であり、サンダン王国以外の国の存在を確信するに至ったのだと
商人としての嗅覚が凄いな、益々彼女にはコンクルザディアで働いて欲しいのだが…
駐屯地の正面玄関に到着し中に入ろうとするが歩哨の兵士を見たウィミーさんから質問を受ける
「あの、エピリズでも見かけましたが兵士の方が持っている杖は何なのでしょうか?」
「あれも機械もっというと機械式の武器になります、あれに関してはこのあと説明いたしますのでまずは施設の案内をさせてください」
「はい…」
知りたいものが盛り沢山だろうがここは従ってもらおう
「あれは魔力灯か?これだけの数を同時に光らせるなんて…」
それは電気です
駐屯地内にある学校の廊下を通りノウミさんの執務室…ではなく医療棟へと向かう
「子供が沢山…これは何をしているのですか?」
「学校という我が国の教育機関になりますね、ここで読み書きや算術、体力系の実技も有ります」
「ではここに居るのは皆貴族の令息の方々なのですね」
「いいえ、生徒は我が国の王子王女と要職者の子息、サンダン王国からの留学生の二人を除く大半は皆平民の子供たちです」
「平民!?平民が王族や貴族と一緒の部屋で学ぶのですか?あり得ない…」
「少し授業を見て行きましょうか」
「良いのですか?」
「ええ我が国の教育を理解して頂くためにもご覧になって頂きたい」
中に入って授業中のユカリ先生に目配せをすれば察してくれた
「今日は他の国の方々があなた達のお勉強を見に来てくれました、頑張って問題を解いてみましょうね」
ノリも良くて非常に助かります
『ガープスあれは算術板よね』
『だと思いますが桁が多すぎませんか?』
彼らの言葉だと何を言っているのか理解できないが視線の先からいってそろばんの事を言っているのだろう
「我が国ではそろばんという名前で普及していますね」
「そろばんですか…この歳で何桁まで計算させるつもりなの…恐ろしくなってきたわ」
「そうだろう、我々も初めて見せられた時はどれほど驚いたことか」
同じ体験をした仲間意識からかサンダン王国の商人も会話に加わってくる
「は~い、それでは問題を読み上げますよ二桁七口の加算問題です、願いましては~」
ユカリ先生が出題するのだが口頭のみで次々と数が読み上げられ、子供たちがパチパチとそろばんを弾く姿に目を丸くするウィミーさん一同
「はい、先生出来ました!」
お!カールはそろばん得意なのか
「はいカールくん正解は?」
「334です!」
「良く出来ました、みんなも同じ答えになったかしら?解らなかった人のためにも一から計算をしてみましょうね」
黒板の前に置かれた説明用の巨大なそろばんを使って解説を始めるユカリ先生
そう言えば日本語で数字を言われても解らないのではないかと疑念が湧いたがウィミーさんには解ったようで
一言だけ
「嘘でしょ…」
と呟いていた
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