145:視察(一日目)
外出許可が出るまでの数日の間にオベルダンの商人たちに頼んだ仕事それは
モニター
ホテルの客のモニターとして遠慮はしなくていいので彼らから見た視点でどう見えるか、どんなサービスが欲しいか、なにが嫌かどんな物は勘違いしてしまうかをレポートに書いて提出して貰うというもの
報酬に関しては金銭の流通がないので困っていたのだが毎日マッサージを報酬に要望されたのでそれで手を打った、確かにマッサージは良いものだと思うがそこまで?というくらいの熱望ぶりにちょっと引きかけた
でも考えてみると旅自体の労力が全く違うのだ、車も電車も無い徒歩か馬が旅の手段で魔物も居れば盗賊も出てくる道を命がけで警戒しながらやってくる
実際今回の旅も人足として連れてきた奴隷は全員来る途中で身代わりにしてここまで来たと聞いた時は命の軽さを改めて思い知った
サンダン王国にも奴隷は居るがその扱いもだいぶ違う、サンダン王国では奴隷であっても割と大事にというか防衛力も兼ねているからか無茶はそこまでさせていない印象だったが、オベルダン王国ははっきりと使い捨てにしている印象を受ける、奴隷人口の多さであったり国の事情に依って違うのだろうがそれについて文句を言うつもりもない
そしてこの奴隷の扱いが難しい
以前サンダン王国の奴隷を購入して江戸時代の年季奉公のような形で掛かった金額の完済後は奴隷から平民へと簡単に考えていた
買った奴隷をどうしようがこっちの勝手
理屈で言えばそのはずでも、この世界の奴隷制を見ていると奴隷そのものが国のインフラという見方もできる、向こうの歴史を見ても世界中の国々がよく奴隷制を撤廃できたものだと考えなくもない
実際に特使としてサンダン王国に居るシェリルからも奴隷について
名目上は年季を勤め上げれば奴隷から解放されることになっているが、なにかに付けて年季が伸びたり奴隷も種族に依って待遇が違ったりと一筋縄では行っていないと聞いている
「…様?…クレイ様?」
「はい、何でしょう?」
今日は彼らにエピリズでの一時行動許可証が届くのを待っているところだったのだが、少々考え込んで反応が遅れてしまった
「私たちが何か粗相でもしてしまいましたでしょうか?」
「そんな事は有りませんがそう見えました?」
「なんとなく心配そうに見えたもので」
彼女たちが原因では有るけど…別に彼女たちじゃなくてもいずれはぶち当たる問題なのだから彼女たちに辛く当たっても意味はないしなぁ
「いえ、嫁と産まれたばかりの娘が居りまして逢いたいなぁと、あ!別に離れ離れとかじゃないですよ仕事が終われば毎日逢ってますし」
話は逸らさせてもらったが嘘ではない
「毎日…ですか?なんか想像と違うというか」
「え、俺…家族をほったらかしにするような冷たいに人に見えますか」
「違います、逆です逆!お貴族様って子育てしないっていうか、子供の顔を禄に見ないで育てると聞いていたのでお貴族様らしくないなと」
お貴族様にはお貴族様の子育てが有るだろうから子育てをしないって訳じゃないと思うけどね、というか
「私貴族に見えます?」
「違うんですか?」
「役職に就いてるし一応貴族なんですかね?」
「私に聞かれましても…」
そりゃそうだ、自国でもはっきりしていない事を他国の人が解る訳無いわな
「そう言えば、この声は何なのでしょうか?」
彼女は外から聞こえてくる…かれこれ十ヶ月も続いているエピリズの村の選挙活動
「え~と、これはですね…少々事情がありまして詳細についてはまだ話せないのです」
「城壁の外でもこの大きな音量に驚いたのです、これは魔法なのでしょうか?」
内容じゃなくてそっち?拡声器もこの世界にかかれば魔法になってしまうんだな
「お答え出来ない事が多くて申し訳ない」
言ってしまっても良いのかもしれないけど許可が出るまでは答えづらい早く許可証届かないかな
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やっと届いたウィミーさんを始めとした商人四人分と護衛四人の全員分のビジター許可証をまじまじと見つめる彼ら
「これって…」
形式としてはサンダン王国の商人に発行される身分証明証と同じで首に下げてもらうタイプの物
「私の顔が付いてます!それにこの入れ物も透明ですしかも柔らかいです!これは持って帰っても良いんですか?」
日本の100均で売ってるIDホルダーなのだがすごいテンションでぐいぐい来る
これあげても良いのかな?サンダン王国の商人にもあげてるし良いかな
「構いませんよ、しかしそんなに凄いですかそれ?」
「物としてもですが、帰った後の国との交渉に説得力を生めます」
なるほどね、百聞は一見に如かず
「それでは準備も整いましたのでエピリズの案内をさせていただきます。本日はよろしくお願い致します」
俺の日本語を聞いてウィミーさんが通訳をしてくれるのでとても楽だ、一応オベルダンの商人だけでなくサンダン王国の商人二人も一緒に参加している、これは通商条約を結んでいるサンダン王国側への配慮
条約を結んでいない国に不必要な情報開示はしませんからね!というアピールでも有り
今日巡る場所と内容に関してもサンダン王国側には事前に連絡済みだ
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代官所・ギルド・生鮮市場・商店街・広場(出店)・賭博場(闘鶏)・大衆浴場
一通りを見た後の彼らの感想が感動よりも
どうすれば自国と取引させられるか、自国で同じ商売をするにはどうすればいいか
商売基準で見ているところに個人的に好感が持てる
商売というのは義理人情が無いとは言わないが、儲かるか儲からないかというシンプルではっきりとした基準が有る分わかり易い
一日目の視察を終えてホテルに帰ってきてからも彼らはずっと商売の話で盛り上がっていた
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「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「二日目もよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします」
メンバーは昨日と同じで今日は駐屯地の視察を予定している
「あの、昨日でこの国は粗方見たと思うのですが今日はどちらに行かれるのでしょうか?」
「いえ昨日はこの村を見ただけですよ王都は別にありますので」
「え?」
「え?」
話が噛み合わない
「あのエピリズというのはコンクルザディアの王都ではないのですか?」
「いえここはコンクルザディアの治める一つの村です」
二つ目はまだないけどね
頭が追いつかないみたいだけど見てもらえば彼らなら理解できるはず…
それに要相談では有るが俺個人としてはヘッドハンティング出来るのならばしたいという気持ちが生まれ始めていた
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