142:トラブルの無い出会いは無いらしい
一体何が?と思考する間も無く仰向けに突然転んだ、ふっ飛ばされたと言った方が合っている
まったく息が出来ず空気を求めても肺が言うことを聞かない、耳もやられたのか音も聞こえなかったが突然なにかに掴まれてぶん投げられた
俺を投げただろうスワンザが見えたが門が閉められスワンザは外に残ったまま
一気に肺が酸素を求めても今度は咳き込んでしまってまともに呼吸が出来ない
「なにが…」
「…殿!クレイ殿!お身体は!撃たれた場所は!?」
ベルザードの言葉でやっと自分が撃たれたのだと気づいた、くっそいてぇ…肋折れた?
念の為に着けていた防弾ベストがなければ死んでた
『メーベ、今どうなってるスワンザは?』
話すのもしんどいがそれどころじゃない、レシーバーを握って現状確認を急ぐ
『今のところスワンザは無事です、クレイ様は』
『肋は折れたかもしれないが防弾ベストのお陰で生きてるよ、そっちから俺を撃った敵は確認できてる?』
『いえ、森の中からでしたので確認できてません』
『スワンザと獣人達は?』
『獣人達は何が起きたのかも判らない様子、ひとまず森に下がらせました、スワンザは甲冑を着込んでいるので隙間を狙われなければ…』
『スワンザにジグザグに動いて戻ってくるように伝えて』
『しかし動くのは』
『動かなきゃ殺される、敵はきっと俺達の三八式の様にスコープ付きのライフルだ、スコープから狙っているのならジグザグに走っている方が捉えられない』
発砲音と弾が甲冑に当たる音
『スワンザの距離を教えてくれ!タイミングを見て扉を開ける』
『危険です!先ほど狙われたばかりなんですよ』
『時間がない早く伝えるんだ』
「スワンザ!ジグザグに走って門まで戻ってちょうだい」
城壁の上から大声でスワンザに伝えるメーベ
また発砲音、今度は当たった音はしない
『残り10m!』
門ののぞき窓から確認してスワンザの位置を確認しする
今だ!
と急いで門を開ければ同時になだれ込むスワンザ
門を閉め直しスワンザの甲冑をべたべたと触って怪我がないか確認した
「良かった何処からも血は出ていない」
「クレイ兄さん大丈夫だから」
俺があまりにもベタベタ確認するもんだから喋りが素に戻ってる
『クレイ様、オベルダンの商人たちはどうしますか』
『とりあえず放置、先に敵の位置を確認しないとどうにもならない』
『了解です』
『今から俺もそっちに戻ってドローンで探索してみる、メーベもコンパウンドボウから三八式に切り替えスコープは2.5倍使って周りが見えるように』
5倍でなく低倍率の2.5倍を使うのは狙撃じゃなくて見つけ出す以上に自分の安全を確保するため、一眼のファインダーを覗き込むとそれ以外が見えなくなる様に倍率を上げれば視界は狭くなる、相手がこちらを狙っていても気付かずに撃たれるなんていう本末転倒は避けなければならない
俺は胸の痛みを堪えながら城壁の上に戻る
「どうだ?」
「駄目です、見つけられません…」
悔しそうなメーベの声だが、俺はもう別の事あの商人たちをどうやってこちら側まで無事に連れて来れるか考えていた
商人に頼んで矢文を書かせコンパウンドボウで彼らの近くに打ち込む、これで理解するはず
「メーベ、ランチャー使って」
「この新しい銃ですよね、何のために?」
俺はメーベには答えずにレシーバーを渡しておいたスワンザに通信を入れる
『スワンザ、ロープ付きの矢を商人たちの近くに撃ち込む用意!カウント0で打ち込んで、その後は小銃に切り替えて森に撃ち込む準備』
『了解』
ここで区切って今度はメーベに指示
「メーベはスワンザが矢を打つと同時に敵が潜んでそうな所に白いシェルをぶち込んで」
「白ですか?これは煙幕弾でしたね」
「そう、倒すのは諦めていいから例の商人たちが門まで来れるように煙幕を張って欲しい」
「危険です、商人が敵側の可能性も有ります」
「敵なら敵で拘束させたうえで情報を引き出したい、それに商人たちが今攻撃してきているやつの仲間なら銃についてもなにか知っている可能性が高い、逃がしたりすれば商人たちは口封じにきっと殺される、それだけは避けたい」
「解りました、後の責任はクレイ様に押し付けます」
押し付けるって…そりゃあ責任取るけど車の中での当てつけか?
「おう!それで良いからから早くやってくれ」
売り言葉に買い言葉、メーベとはこれくらいのやり取りがちょうど良い
「『5・4・3……今!』」
ほぼ同時にロープ付きの矢と森目掛けてポンポンと煙幕弾が打ち込まれ始める辺りはあっという間に霧に包まれたように真っ白な状況
「メーベ!スワンザ!適当で構わない森目掛けて撃ちまくれ」
「『了解』」
弾がもったいないなんて言ってられない、ゲリラ撃ちで構わない、こっちも当たると思ってないが発砲音の続く中で万が一を考えないやつはそうそう居ない
[今だ!門の中に!]
と拡声器を使って見えなくてもそこら中に聞こえる様に大音量でサンダン王国の商人からオベルダンの言語で指示を出させる
掛け声が聞こえる距離に居るのだろう、当然敵からもゲリラ撃ちされるが問題ない
この掛け声は前もって矢文に書いた嘘の掛け声
[無理だ、戻れ!]
こっちが本当の合図
メーベ達は今度は空目掛けて銃を撃つ、その間に彼らを迎え入れる
銃も銃弾も知らない商人たちには何か大変なことが起きているとしか判らないだろうが、むしろ好都合
なんとか彼らを無傷で確保することが出来た、メーベに念話で駐屯地に連絡…俺が撃たれたことは伏せて状況を説明させたが
その頃にはミュレッタとノウミさんの子は産まれていたのだがそれ以上に向こうから返ってきた言葉にメーベが驚愕の顔で俺に伝える
「ミュレッタの子供は男の子だそうです…」
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