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139:オベルダンの商人

「どうなってんだこりゃ…」


エピリズの村を初めて見たオベルダン王国の商人たちは聳え立つ灰色の壁を見上げていた


あまりの高さと灰色の曇り空も相まって何処までも伸びている様に錯覚してしまう


======

三ヶ月前・猫獣族(びょうじゅうぞく)の治める国家オベルダン王国にて



オベルダンの商人たちの集まるサロン


ここで行われるのは情報交換という名の腹のさぐりあい


今日もある者は出し抜く為に、ある者は出し抜かれないようにと新鮮なネタを提供為合(しあ)うのだ


「ねえガープラさん、最近のサンダン王国の商品おかしくない?」

顔見知りとまでは行かないが何度か話したことの女、名前は確かウィミーだかティミーだっただろうか?最近になってこのサロンに出入りし始めた新参者だ、ネタを集めようと必死なのだろうがこの手のやつは必死になりすぎて足元をすくわれるんだ、少し勉強させてやるか


「おかしいって、どんな風に?」


知っていたとしても知らないふりをする、本当に興味があるものは簡単に悟られてはいけない、相手の望むものを知るというのは使い方次第で武器になる、逆の場合は弱みだ


この場合『おかしい』事は知っていても『どうおかしい』まで同じとは限らない、先に口を開いてただで情報くれてやる様では商人として生き残って行けない


確かに最近流れてくる話題はサンダン王国からのものばかりだが、目の前のこいつ(ウィミー)はどんな情報を持っているのか…まあまだまだ若くて半人前、この国でも珍しい女で商人なのだからそれなりに頭は切れるんだろうが他の商人と大して変わらんだろう


「例の軽くて硬い素材のことですよ」

それは知ってる、やはりその程度かと落胆しかけたが思わぬ事を言いだした


俺に近づき口元を手で隠して小声で

「それをテラン商会の奴らがあの乳母車を買ってバラしたらしいの」


こいつどっからそんな情報持ってきやがった…いやでまかせの可能性も有る、突付いてみるか

「乳母車ってあれか、伯爵様の所に孫が生まれた祝にサンダンから贈られてからお貴族様たちがこぞって買いまくってるやつ、値段が俺達の馬車並みだってのによくそんな高価なもんバラしたもんだ」


「何が出てきたと思う?」


勿体振りやがって…しかしこの様子なら驚くほどのものだったのだろう、そして言いたくて仕方がないのだ


「何が出てくるもなにも乳母車は乳母車だろ?」

俺はわざとらしく大したものじゃないんだろうと煽ってやれば待ってましたと口を開く女商人


「それがなこんな感じのバネと全部均一に同じ大きさで真球な鉄の玉が出てきたらしいのよ」

そう言って指をぐるぐると下から上に向かってそのバネとやらを再現してみせたがどんなバネなのか要領を得ない、それに同じ大きさの鉄の玉しかも真球だなんてにわかに信じがたい


そもそもそんな部品が乳母車に必要な意味も判らない


「何にそんなもん使ってんだ…」


思わず口から漏れた本音にニヤリと笑うウィミー


「ガープスさんコネが有りましたよね、私もお近づきになりたいなぁ~、コルテス商会のボウグスさん」


しまったと思いつつ

「そうだな、まあ伝えておくわ」

そっけない俺の態度に今度は


「これなんですけどね~」

さっき言っていたバネってやつをこれ見よがし見せつける、渦のような見たことのないバネ、上と下には輪っかが付いているのも見えた


「お前どうやって手に入れた、見せろ」

伸ばした手は虚しく空を切る


「さてどうしてでしょうね、それでどうなの?紹介してくれるのかしら?」

完敗だ…テラン商会の連中を除いて誰も損どころか利益に成る話、落とし所としても文句のつけようもない


「ああ商談成立だ、恐れ入ったよ」

見た目が若くて舐められることも自分の武器にしてやがる…こいつ大物に成るかもな



======


ガープラさんに話を持ちかけてから一ヶ月…私を取り巻く環境は目まぐるしく変わってしまっていた


腕利きの商人として認められコルテス商会からは最新の馬車まで与えられた


この馬車はサンダン王国から卸したもの、見たこともない複雑な技術が組み込まれ益々私の推測を後押しする


「ガープラ、どうだった?」

「ええ、ウィミーさんの言う通りエルフがサンダンの王宮に出入りしてましたよ、その他にもドワーフ、オーク、ホビットも絡んでるみたいですね」


「東門の方は?」

「それもウィミーさんの読んだ通り閉まってました、それもかなり厳重にね、ほんとその情報網どうなってるんです」


「勿論秘密よ、それよりなんかまだ呼び捨てにするのが慣れなくて…」

そうなのよ…お近づきになれれば良いぐらいの気持ちだったのにあっという間にコルテス商会との専属契約、ガープラさんも部下みたいな役割を演じてもらってるし


「気にすることはないですよ、ボウグスさんが決めたことだし俺も納得してる、自尊心とプライドを履き違えてチャンスを逃がすようじゃそれこそ商人失格ですから」


投資と囲い込みでいつの間にか商会でも一目を置かれる存在になっちゃったのよね、コルテス商会の威光を思う存分使わせて貰えているのだから文句もないけどさ


「あとこれ、何かは解りませんが結構重要だと俺は思うんですよ」

そう言って馬車から取り出したのはこれは紙?の袋?皮にしては薄すぎる


「ガープラ凄いわ、この袋きっと紙よ」

「紙ですか?全然紙に見えませんけど」


「きっと根本的に使ってる素材が違うのよ、それにこの文字も何が書いてあるのかさっぱりだけどすごい技術だと思わない?私には書いたと言うよりスタンプで押したみたいに見えるわ、この紙は何処で?」


「見つけたと言うより風で飛んでいたんですよ、サンダンの王国内では残念ながら一つも見つけられませんでしたけど」


「じゃあ、王国の外で見つけたのね」

「そうです、この紙でしたっけ?何か価値有りますかね」


ガープラさんはこれの価値がまだ判ってない

「ええ有るわよ、私ならこの情報の報酬に馬車…ううん家一軒まで出すわ、残念ながら私にその権限はないからボウグスさん次第だけど悪いようにはしないはずよ」


目の前の袋が家一軒と聞かされてガープラさんが震えだした

「まずはこれをボウグスさんにこれを見せに行きましょう話はそれからよ」


ガッチガチになってしまったガープラさんを伴いコルテス商会の重役室の扉をノックした

ブクマや評価をしていただけると作者が大変喜びます!続きを書く活力になりますので


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