15:突貫工事
食堂にはオークの巨体から床が抜ける事を心配して20人ずつの交代制で食事にありついた
まだ、ここに留まれると思っていないものも居るようで気の粗くなっているものも居て緊張感のある食事だったが少量とはいえ胃に物が入り徐々に落ち着きを取り戻していく
外ではオーク達に見えないところで従業員達を集めて工場長が事情を話している、定時を早くし体力の消耗を防ぐつもりらしいが、コンクリートは比喩ではなく生物、時間になったから途中ではいさよならとはいかない、どうしても最低限形にしてからでないと終われないのだ、従業員達の不満は口に出さなくても溜まる何処までやっていけるのか
今年は彼ら人の用意した肥料のお陰で例年より食料に余裕があるはずだった目算は崩れた、そしてこれからやってくる雨季、近くを通る川幅は大きく氾濫の可能性は低くても排水が間に合うかという問題がある、実りの季節に思った量が取れなければオークだけでなくドワーフや私達高尾に住むもの全部が危ない
全種族と全部門のトップが集まりアイデアを出し合う恐縮しているオークに親方さん達が
「困った時はお互い様、兄ちゃんたち馬力がありそうだ、色々と手伝ってくれよな!」
そういってにっと笑いオーク達の肩を叩く
「勿論です!」
とやる気を見せるオーク達、こういうのを発破をかけると言うのだっけ
まずは排水に関してのアイデアが集中して出た、何が何でも雨季までに排水路を整備する、これには全員が納得し間に合わせるための工場のスケジュールをざっと目算を出す
「排水もだがハウス栽培もしてみても良いんじゃないか?骨組みになる素材もたくさんあるし透明なシートもある」
「ハウス栽培ですか…」
「ハウス栽培とはなんぞや」
ドワーフの族長が代表して聞いてくれた、オークも私達も知らない物だ
日本ではよく使われるものらしく季節が合って無くても作物が育つらしいがよくわからない
増えることは有っても減ることはないのだからとやってみることになった
「排水と農業はそれで行くとしてそのゴブリンだったかそいつ等の対策はどうすうるよ」
狙いははっきりしないが何らかの意図を持ってオーク達の食料を狙ったのは確実、野放しにしておけばここにきたオーク達の食料を狙ってくるかもしれない
「彼らが昇ってこれない高さの壁は必要かと」
「彼らはずる賢いので警備の目も光らせないと、壁で囲ったとしても排水路を狙われる可能性があるので排水路にも策が必要かと」
問題点が山のように出てくる、無理なのではないかと考えそうになるが彼らは諦めていない
「オークの皆さんにも家を用意するのは無理でも居住区というかエリアを用意しなくてはいけませんね」
提案は続く
「排水についてなんだがそのオークの居住区の方を先に方を付けたい」
本来の担当は杭打ちの親方が発言する、隣に座るショベルカー乗りの親父さんもうんうんと同意している
「間に合いますか?」
工場長さんは難しいのではと思案顔
「本領は出せんだろうが力を貸してくれるんだろう」
杭打ち親方が笑顔で聞けばオークも笑顔で頷き返した
会議が終わると同時に各自動き出す、雨季までの残された時間は少ない、図面を引く間もショベルカーが土を掘りブルトーザーは資材を運ぶ
力自慢のオーク達も初めて見る重機達の力に
「こりゃおったまげた」
「俺達の何人分だこりゃあ」
驚きつつも出来る限り土を掘り、工場から資材を運び出す
人・ドワーフ・エルフ・オーク四種族合同の突貫工事が始まった
翌日、時刻はお昼前
ごしごしと従業員さん達の手で磨き洗われる一枚の本来は緩い地盤で重機の下敷きに使われる鉄板
「クレイさん、本当にこれ出しても大丈夫かなぁ」
巨体のオーク達を前に大将さんは及び腰、大将さんが気にしているのは食材
「怒ったりしません?」
大将のお店のメインは焼き『とん』なまじっか似てるが故にオークに豚を出して激怒されないか心配しているのだ
「問題ありませんよ、私達も食べてますしオークも森の猪を食べますから」
直接答えてもらったほうが早そうだ、オークのリーダーを呼んでくると
「ひっ」
逆に怯えさせてしまった
「これは美味しそうな肉だ店主が用意してくださったのか、痛み入る」
リーダーはその体躯に見合った堂々とした礼をする、その姿に見惚れたように見上げる大将さん
大将さんの性格からいってきっと武将っぽいとかそんな事を思ってそう
磨かれた鉄板が台座に置かれ、大雑把というか大胆な鉄板焼焼きの準備が整う頃には気を取り直してくれた大将さん
「鉄板焼は本職じゃないんですけどね」
そんな事を言いながら手慣れた感じでカンカンくるくるとヘラを弄って見せる
焼きとん屋さんは一年間の休業、その代わり工場でのケータリングを担ってもらう運びになった
デリアはスクーターに食材を乗せお店と工場を行ったり来たりで大忙し
オークにとっては少量でも一体一日で何往復するのだろう
そして少量でも味はピカ一の大将さんだ、オーク達の鼻腔をさぞくすぐることだろう
空腹だろうに心做しかオーク達の足取りが軽いような気がする
堀も掘ったり三日三晩かなりの広さのものだ、よく見れば奥に向かって傾斜がついておりその端、一番奥にはより深く掘られた溝の部分がある、どうするつもりなのか
既に用意してあった砂利と砕石が土の上に撒かれブルトーザーが慣らしていく、慣らしが終わると今度はバックで15tフォークが降りてくる
その爪には鋼管と呼ばれる10メートルの鋼鉄の筒、向き直ったフォークリフトは傾斜の上から鋼管を落っことす
傾斜を転がり落ちる鋼管が奥の壁に当たった後、溝に嵌るぴったりだ
何本もの鋼管が落とされ溶接で繋げられる、鋼管の先は川へと繋がっており幾つもの穴が開いている、傾斜をつけて砂利を敷いたのも密度の低い砂利を水が伝い鋼管へと流れ込み川へ排水される仕組みなのだ
たったの数日でこれを成し遂げ、掘り出した土を三日かけて戻し今度はビニールハウス作り
二人一組のオークが真っ直ぐな鉄筋を豪快にひん曲げビニールハウスの骨を作っていく
ブスリブスリとアーチを作る骨材を地面に突き刺し、背骨に相当する真っ直ぐな鉄筋をオークに肩車されたクレイさんが番線と呼ばれる針金をくの字に曲がった工具でくるくると器用に巻き付け仮止めしていく
その上から透明なビニールを乗せていった
「なるほどこれは温かい、冬場は此処で眠りたいくらいですが作物をこの環境で育てるのですな?」
オークも私達も実物を見てやっとビニールハウスがいかなものか実感することが出来た、確かに温かい
本来はもっと小さいらしいのだがオークでも育てられるよにと大きめに作られたビニールハウスには早速数種類の野菜が植えられた
実際にどれくらい収穫できるかは雨季の終わりを待たなければならないが食料が増えるかもしれないという希望は皆の気持ちを明るくした
「なんだよ、戦いになってねぇじゃねぇか!」
「うるせえな、お前もこの案がいいって言ってたじゃねぇか」
「黙れ役立たず共、無駄に時間を使っただけでなくオーク共を奴らの仲間にしてしまったではないか」
山の上で罵り合う声を一括した者は忌々しげにコンクリートに守られた町を睨みつけていた