136:パパとママとしっかり者の姉
我が子を抱いて泣くクレイさんに微笑むと
気力も体力も限界の私は眠りに落ちた
次に目が覚めた時はたっぷり寝た気がしたけど実際には一時間も眠ってなかった、起こしてくれたのは大音量の我が子シェリティナの鳴き声
「休ませてあげたいんだけどごめんね、シェリティナが待ってるから」
そうでした、身体を起こそうとしたけど仮眠でスッキリ出来た意識とは違って全身は重たくてカナさんと産婆さん、ここでは助産師さんという名前らしいけど彼女たちに手を貸してもらって身体を起こしてもらう
クレイさんがシェリティナをやんわりとだけど腕でしっかりホールドしていて我が子は大音量で泣いているのに…目の下にクマを作った顔なのに幸せそうに身体をゆらりゆらりと揺らしながら近づいて私にシェリティナを私の胸元に預けてくれる
不思議ねまだ眼は開いてないはずなのにおっぱいが自分の命を繋ぐものだって理解しているんだから…
「あの、クレイさん…ちょっと恥ずかしいんだけど、クレイさん?」
「、、、」
あらら笑顔のまま寝ちゃってる、ずっと外で待っててくれたんだもんねお疲れ様
シェリティナは私の胸を一生懸命に吸っているけど母乳は出てない
「これ本当に不思議なのよね」
カナさんもそうだったと教えてくれたことだけどスムーズに母乳が出るようになるタイミングが有る、その為に起こされたのよね
お乳を吸われたままうとうとし始めちゃうけど産婆さんたちが姿勢をサポートしてくれるからそのまま寝ちゃって良いんだって
私が次に目を覚ました時には母乳が出ててびっくりしちゃった
三度目の授乳、産婆さん達とカナさんが席を外してくれて初めての私達三人の家族水入らずの時間が出来た
「可愛い」
「どっちがです?」
ちょっと意地悪な質問をしてみたのに
「可愛いよ~」
「えっと…」
「可愛い」
クレイさんが壊れちゃった…でもまあいっか…また私達は…眠っちゃってて…
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「退院おめでとう御座います」
「ありがとうございますお世話になりました」
産婆さん達に見送られて一週間静養した駐屯地を後にする
帰りの車は超が付く程のクレイさんの安全運転、ちょっと遅すぎじゃない?馬車に抜かれた
「クレイさん、そこまでゆっくりじゃなくても」
「無いから!」
「何が?」
「チャイルドシート!帰ったら絶対に作らせるから」
大将さんの車には付いてる子供専用の椅子ね、でも親ばかで職権乱用にならない?
王都に帰ってくるのもなんだか久しぶりに感じる、たったの一週間でしか無いのにね
城門の前に着くとクラクションを鳴らさずにクレイさんは車を降りて警備の兵隊さんとやり取りしてる、何かあったのかしら?
戻ってきたクレイさんに聞いてみたら
「シェリティナが驚いて泣いちゃうかも知れないじゃん」
泣くかも知れないけど過保護過ぎやしませんか旦那様…
工場に借りた車を返してお礼と顔見せに事務所の階段を上がる
「姫様クレイ様、シェリティナ様おかえりなさい」
ツァーミが出迎えてくれたけど眼はシェリティナに釘付け名前に関しては事前に念話で伝えてある、心配していた我が子の肌の色を気にしている様子はない
里を裏切り多くの仲間の命を奪ったダークエルフと同じ肌の色、ツァーミ達に冷たい目で見られたらと思うと不安だった
「姫様、シェリティナ様はシェリティナ様でございますよ」
念話ではなくクレイさんにも聞こえるように言葉で言ってくれたツァーミの気持ちが嬉しい
「ありがとうツァーミ」
「はい、とてもかわいらしくて姫様の赤子の頃を思い出します」
私と一緒に生き残ったエルフは皆私よりも年上だから小さい頃を知っている
「さあ国王様も工場長様も奥でお待ちです」
「ええ、行ってくるわ」
応接室の扉をノックして中に声を掛ける
「失礼しますクレイです」
「入りたまえ」
中にはツァーミの言う通り国王様と工場長さん…それと
「「「ママおかえりなさい」」」
仔たぬきの子供達のサプライズにびっくり
「疲れただろう、堅苦しいことは抜きにしてリラックスするといい、ささ座って」
一瞬で威厳が消えて赤ちゃんが見たいだけのおじいちゃんとおじさんモードの国王様と工場長さん
「名前はなんと?」
「シェリティナと言います女の子です」
「シェリティナちゃんですか、良い響きですね名前の由来とかはあるんですか?」
「由来は私の亡き母ティナリエの名と、エルフ語で太陽を示すシェリテルーロから取りました」
クレイさんと相談して太陽を選んだのはこれからの私達カンディアーナ部族にとって明るく照らす子になって欲しいという想いから
「そうでしたか、お母様もお喜びでしょう」
「ええ、それにお母様も太陽の様に暖かい方でしたから…母の様になって欲しいと言う願いも込められています」
「ねーねーママ、私達もシェリティナちゃん抱っこしたい…だめ?」
普段はおとなしいヒルデが珍しく興奮気味ににお願いしてきた
「そうねぇ、まだ首が座ってないから抱っこの練習してからならいいわよ」
「やった!どう抱っこすればいいの?ママ教えて!」
子供達の体格では横抱きは難しいだろうとソファに座ったままで縦抱きさせる練習をさせてからシェリティナを抱っこさせる
「可愛いぃ~」
「あなた達が赤ちゃんの頃も可愛かったわよ」
まだこの子達も二歳のはずなんだけど種族的に「成長が速くてもっと大きい子だと勘違いしちゃう
男の子組はクレイさんをちっちゃくしたみたいな反応でおっかなびっくり、一番はしゃぎそうなアーミンに至っては抱っこしたままじーっとシェリティナの顔を覗き込んで一言も発しない
顔見せを済ませて家へと帰る
「ここがシェリティナのお家ですよ~」
玄関を開けると家を管理してくれていたメーベが待っていた
「姫様、おかえりなさい」
「ただいまメーベ」
「今日からはお二人とシェリティナ様のお手伝いをさせていただきますのでよろしくお願いします」
「ありがとう」
本で習ったことで赤ちゃんの夜泣きでぼろぼろになる夫婦も居る、と書いてあったから姉の様に思っているメーベが居てくれるのはとても助かる
「さっ姫様クレイ様まずは」
「まずは?」
「何か有ればお呼びしますのでお休み下さい、カナさんより重湯の作り方を教わっておりますので授乳も適度にお休み下さい」
テキパキとして事務的に聞こえるけどあの顔は…あれは私が小さい時に見たしっかり者の姉の顔だった
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