135:親と子
「ねえお母様、私ね産まれた時のこと覚えてるの!」
小さな私はお母様の膝の上に座ってる
「あら!クリシュナも覚えててくれたの?嬉しいわぁ、私もあなたが産まれてきてくれた時のことは今でもはっきり覚えてるのよ」
お母様の笑顔に泣きそうになる
これはいつの頃?懐かしいエルフの里がそこに在る
「あのね~お母様はすっごい疲れてたけど私を見てほっとしてたの」
「うふふ、隣には誰が居たか覚えてる?」
「えっとね~、■■■■■■お姉様!」
「…本当に覚えてるのね正解よ、その後誰が来てくれたんだっけ?」
あれ、お姉様…メーベの事?でも違う気がする…でも顔と名前にもやが掛かったように思い出せない…なんで
「お父様~!」
「そうよ、うふふ」
「どうしたのお母様?」
「だってあの時のお父様ときたら、うふふ今思い出しても…」
お母様…逢いたいわ
私も母親になるの、この子を抱かせてあげたいの
光に包まれて消えていく、待ってもう少しだけもう終わってしまなんて嫌よ
光が収まった私の眼にはまだエルフの里を映していた
でも何かが違う、視線がさっきより高いのだこれはもう少し後の記憶?
「クリシュナこっちにいらっしゃい」
良かったお母様、私もっと話したいの…
お母様の後ろには誰かが居る、この記憶は?
「今日から一緒に暮らす■■■■■■の子、ユフィシェルナよ」
母様の後ろから恐る恐る私を覗き込むユフィ
私は怖がらせないように目線の高さを合わせて微笑みながら自己紹介をしたんだ
「お姉様の?私クリシュナよ」
それから私はこう言ったんだ
「お姉様の子なら私はあなたのお姉ちゃんね」
子供だった私の謎理論、でもそれを聞いたユフィシェルナは
「私のお姉ちゃんになってくれるの?」
そう…いや…そうじゃない、何か違う、思い出そうとするとその度に言葉が置き換わる、何なのこの記憶は私の本当の記憶は…
「ク…シュ…ちゃん!クリシュナちゃん聞こえる?しっかりして!」
「カナ…さん、私…」
「ええ、本当に少しの間だけど気を失っていたみたいね、大丈夫?」
「ううっ!」
急に感覚が戻って苦痛が押し寄せる
「もう少しよ頑張って」
もう記憶のことは吹き飛びカナさんの言葉にひたすら従って我が子と無事に逢うことだけを願った
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長い…陣痛が始まったのがお昼前だったのにもう日付が変わる
出産が人に依るのは十分すぎるほど本では知っている
でも何処かで自分の嫁さんと子供にはそんな事は起きずに平均的に産まれて母子ともに健康に決まっているそんな風に思っていた
手を組んでひたすら祈るだけで何も出来ない
怖い、頼むから無事で居てくれ…
「なんじゃお主らしくもないのシャキッとせんか」
「痛っ!」
頭に走った痛みに顔を上げれば目の前にはチョップをしたであろう格好をした精霊様
「え?精霊様、どうしてここに?シュナと子供の身になにか…」
「縁起でもないことを言うでないわ、そもそもお主の嫁もお腹の子も妾がずっと様子を見ておったのじゃぞ、それをビクビクと怯えるとは妾の力を見くびりおって愚か者め」
じゃあ大丈夫なのか?精霊様がシュナとお腹の子を護ってくれるのか?そう思った瞬間に腰が抜けて膝から崩れ落ちてしまう
「泣くな…」
「え?」
崩れ落ちて低くなった俺の頭を撫でながら掛けた短い言葉はとても優しくて…俺はやっと自分が泣いていることに気がついた
「ほれ、行って来い」
「行ってこいって…」
分娩室の中から『ここに居るの』と存在を知らせる産声がはっきりと聞こえてきた
頷く精霊様に頭を下げて部屋へと入ろうとして
「消毒!!」
マスクで眼しか見えないはずなのに鬼の形相のカナさんに追い返されてしまった
服を着替えて中に入る、汗びっしょりのシュナの隣にはちょんと尖った耳に少し褐色がかった肌の我が子が居る、俺とシュナの子だと思うと言葉にできないものが込み上げてくる
「あなた、女の子よ、判ってたかも知れないけど」
ちょっとテレた感じで微笑むシュナのおでこにキスをする
「ありがとう、良かった…ふだりともぶじで…」
感無量で涙が止まらなくなる俺の顔をカナさんがタオルで鼻水ごと拭き取った、苦しいやめてカナさん判ったから
「パパ抱いてあげて」
涙もやっと止まったタイミングでカナさんが慣れた手つきで我が子を抱きかかえて連れて来る
ちっちゃい…ちっちゃ過ぎて怖い
落ち着け、練習しただろサトルくんだって抱っこさせてもらったのに緊張してしまう
横抱きは腕を輪にする様にして…
俺の腕にすっぽりと収まる我が子、エルフの血を継ぐ耳、褐色の肌、目も口も鼻もその小さな手も何処を見ても全部奇跡の塊、やばいまた涙が込み上げてきた
以前から推測していた通り肌の色は少し褐色、ダークエルフと言われる種族は人とエルフのハーフという推測は合ってたっぽいけど、愛おしすぎてそんなのどうでもいい
「君の名前はシェリティナだよ…俺達の所に産まれてきてくれてありがとう…嬉しいよ」
結局また涙腺ダムが決壊してボロボロの俺を見てシュナがクスクスと笑っていた
「せめてもの…」
喜ぶ俺達にはその声は届かなかった
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