131:オリーブ羊と特使様
最近じわじわと1話あたりの文字数が3000文字程度になってきて、肉付けというか文章を膨らませられるようになってきたのかそれとも無駄に文字数が増えているのかだけなのか悩む作者です
コンクルザディアの丘の下、通称二の丸に作られた仮の囲いの中でも彼らは怯えることもなく餌でも探しているのかうろうろとしていた
「こういうのが『キモかわいい』って言うんでしょうか」
クレイさんが連れ帰ってきた生き物達を見て私の口から出た言葉がこれ
オリーブっぽい実で覆われた身体から生えたような足でポテポテと歩く姿とやけにゴツい顔と野太い鳴き声のミスマッチがなんとも言えないキモさと可愛さを兼ね備えていて言いえて妙なのよ
「かわいい部分が解らない」
クレイさんはそうでもないみたい
「だってこれの実を食べると思うと得体が知れなくない?」
「あの、私その得体のしれないものを既にかじったんですけど…」
「ごめんて、でもあの時は普通にオリーブだと思ってたからさ、それに止めてもシュナ聞かなかったじゃん」
ぐぅ…
「それでこの子達の実にはオリーブと同じ効果は有るんですか?特に美容液」
「いや流石に連れてきたばかりだからまだ判んないよ」
「そっか…これ…その…全部毟るんですか」
それはちょっと可哀想な気がする
手をバタバタと振って否定するクレイさん
「シュナちょっと落ち着こう、生態が不明だから少しずつ、少しずつね」
「なんですかその言い方!私が無慈悲みたいじゃないですか、確認で聞いただけなのに」
私がむぅ~っと膨れていると
「ごめんごめんニホンゴムズカシイネ~」
それを日本人の旦那が言うのかい、でも
結構ある、日本語って日本人でもよく間違えるのよね、間違えるというよりは捉え違えと言ったほうが良いのかもしれないけど
全く同じ言葉でもニュアンスが違ったりするから難しい
「あ!今落ちました」
ぽろっと実が落ちた、ある程度成熟すると勝手に落ちるみたいね
「落っこちたのは黒っぽいやつだからそこまで行くとって感じかな、色が明るいのに落ちたのは何処かにぶつけたとかなのかもしれない」
なるほど、それなら熟してないのが落ちてても変じゃない気がする
私達以外にも住人たちが物珍しいといった感じで見物してる
「どいて!どきなさい!」
誰だろうか、人垣をかき分けてこちらにやってくる
「クレイ殿!これは国家間の取り決めにないこと、勝手に我が国の生き物を連れ帰るなど」
うわ~なんか怒ってる、でも取り決めに無いんだったら持ってきたとしても怒られないんじゃないの?
「魚に関しては取り決め通り問題は有りませんがこの様な前例のない生き物なら尚更事前に我が国に連絡をしていただきませんと!この件は我が国に連絡させていただきますぞ」
そういうことか魚はOKだしたけど他は出してないでしょ、という話なら筋が通ってる
この怒ってる人…エピール族の方は誰だっけ?そうだ交換特使として来たストラゼ特使たしかフルネームはストラゼ・テルガナさん
「…特使さん、一応港町に駐在している王国の役人さんには連絡を入れてから連れてきておりますのでご安心を」
「いいえ安心出来ません、連絡を入れたのが事実だとしてもそれに対する回答は受け取っておられないでしょう返答を待ってから連れて帰って来るのが常識でしょう」
即答で真っ二つ…それよりもクレイさん特使の名前覚えてなかったわね、意外なんだけどクレイさんって人の名前を覚えないというか頻繁に会っていないとすぐに忘れてしまうんだと言ってた
でも相手は何故かクレイさんの事をはっきり覚えてて気まずいんだとか
「あ~確かに、これは申し訳ない…特使様のおっしゃるとおりです」
「なにか急がなければならない正当な理由が有るのでしたらやぶさかでも有りませんが」
あ…
「いえ、特に理由はありません」
「まったく、これだから成り上がりは」
他の人には聞こえないような小声
「ちょっ!」
「本当に申し訳有りませんでした」
私を遮ってクレイさんが頭を下げてしまった…どうして?
「そこまでにしておくんだストラゼ特使」
あれ?どっから来たの
「これはフェデン殿…何故ここに」
「クレイ殿がシンバ駐屯地から交換で来られているシェリル特使に連絡を入れてくれてな、そこの動物か魔物を連れてくる許可は既に出してある、問題は無い」
トラックをお願いした時に同時に駐屯地に言付けもお願いしておけば確かにミュレッタからの念話で連絡は可能だと思う、フェデンさんが今ここに居るのも時間的に見ても頷ける
でもそれなら…
「クレイ殿!それならばそう言って頂ければ良いのだ、何故その様な」
うん、私もそう思った
「大方、聴衆の前でカッカしている者を落ち着かせようとでもしていたのではないか?ストラゼ特使、彼らは我らと違って謝ることに大して特に気にもせんぞ、そなたの役目は技術だけでなく文化などを学び我が国に活かす事だ」
「それは判っておりますが…」
気に入らないと顔に書いてある
「クレイ殿もクレイ殿だ、我が国、特に貴族相手には簡単に謝るでない、特使が言ったようにはっきりと伝えていれば彼も納得していただろう、寛容なのが美徳なのかもしれないが他国相手には気をつけなさい」
「ご指導ありがとうございます」
「さてこの話は終わりだクレイ殿これが例の動物?か、いや魔力が多いのなら魔物の可能性が高い思うが確かに判断に迷うな」
ふんっ、と鼻を鳴らして帰ってしまう
「特使様見ていかなくて良いんですか~」
「クリシュナ殿放って置いて大丈夫ですよ、気難しい男では有るがものの通りは判っている男だそこは私が保証する」
フェデンさんの言葉に安堵するけど、まだなにか起きそうな気もする…
「随分とどんくさそうだがこれでよく今まで滅ばなかったものだ」
どんくさい…そうかも知れないけどもうちょっと言い方ってものが…
「この実で外敵から身を守っていたんじゃないですかね」
「と言うと?」
「これは俺が想像しただけで根拠はないんですけど、向こうの世界の生き物で似たように弱いのに生き残ってる種が居るんですけど」
「ほう、それでどうやって生き残っておるのだ?」
「食べるよりも生かしておいた方が得だと思わせるんですよ、多いのは自分では掃除出来ない身体の一部を掃除させるとかですかね、そうやって病気に罹りにくくしたり寄生虫を退治してくれたり、食べてしまえば一時のエネルギーにしかなりませんが生かしておけばずっと自分の利益になる」
「なるほどな、私が想像するよりも生き物の世界は複雑だ」
「ええ、僕らと大して変わりませんよ、研究に関しては共同研究、研究結果も共有でよろしかったですね?」
「まったく…その態度でストラゼと対していれば問題も起こらなかっただろうに」
「すいませんね、初対面とかよく知らない人がキレてるのって苦手なんですよ、面倒くさいからとりあえず謝っとけの精神、俺の悪い一面ですね」
多分それだけじゃない、いつものクレイさんなら特使にもしっかり根回ししてから行動したはず、そうしなかったのは私達の所へ速く帰ってきたかったから
少し申し訳ない気持ちと、彼の想いが解って嬉しい気持ち
「お父さんお疲れ様」
彼の袖を掴んで伝える
「え?なに急に」
「なんでもない」
そう言って素敵な旦那様に顔を向けてはにかんだ
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