14:戦いか交渉か
目を覚ませばベッドの上
あれ?私どうしたんだっけ?映画の話が楽しくて…クレイさんと…
楽しく飲んで話して、その後のことは…
覚えてない、えっと今日は休みで工場へはいかなくてもいい、いやだからこそ昨日はデートだったわけで…頭も痛いし考えがまとまらない
日本酒は危険だ、口当たりは良く少ない量だからと油断していたらいつの間にか酔っ払っていて…
遠慮がちなノックがしてメーベが水を持って入ってくる
「お目覚めですか?」
「ええ、昨日は私どうやって」
「まさか何も覚えていないのですか?」
メーベの反応を見るに私はなにかしてしまったのだろうか、一体何を?
「人のことはいえませんが、姫様はお酒を控えたほうがよろしいかと」
そんなに?
「ベロベロに酔ったあげく…」
聞きたくないかも
ピンポンが何度も押された頭に響く、押され方からして急ぎの要件かもしれない、こんな時に限って…私が悪いのだけど
「少々お待ちを、さ、姫様支度をして下さい」
吐きそう、支度を済まし玄関へ行けばクレイさんが待っていた、
「…おはようございます、すいませんがオーク…だと思うのですが現れまして」
今、目をそらされた?何したのよ私、それにオークまで…頭がぐちゃぐちゃになりそう
車に乗り場内、ドワーフの居住区を抜けて門の前へ、のぞき窓から確認すればたしかにオークだしかもだいぶ気が立っいる、その数は百は居るだろうか
「オークがここまで来るとは森でなにか有ったと考えるのが妥当じゃろうて」
先に来ていたドワーフの族長が髭を撫でながら言う
「どう対応すべきか迷っていまして、間違っても種族間の戦争にはしたくない」
そうはいっても向こうがその気なら闘うしか無いのだけれど日本人は本当に戦いを避けたがるのね
昔、私達の里の近くにオークが現れたことが有った、飢えたはぐれオークは狂乱状態で話し合うことも出来ず戦闘になった、オークはその怪力で暴れまわり里の者も負傷者が出て仕方なく屠った、死を前にして理性を取り戻し生まれ故郷を伝え眠りについた、彼の伝えに沿って亡くなったことを伝えれば遺体を引き取りに来て里への被害に謝罪もした、決して理性のない種族ではないのだ
彼らオークたちは里というものを持たない
家族単位で森に住み他の家族と出逢えば互いに助け合う事はあっても戦いになることはない、そうやって自由気ままに生きている、はぐれオークというのは冒険を求めたか里を追い出されたか…理由は当人に依るだろうが、基本的には私達エルフと暮らしぶりは変わらないのだ里があり集団で暮らすか、家族単位か、広大な森の中ではめったに会うこともなく領地を争い合うということもない、そもそも領地という感覚がよくわからないのだ、生活の拠点であっても森は全ての生き物のものと言うのが私達の感覚だ、人族の歴史を垣間見ても理解しがたい考え方
だが今はコンクリートの壁を隔てて平和、いや闘いが起きるのを防いでるだけだが守られていると実感している
家族単位で生きるはずのオークがこうして百を超える数で壁の向こうにいる、彼らの手には棍棒や弓おだやかな交渉を望んでいるとは思えない、飢えが進めば理性を失い戦闘は必至、今がギリギリのライン
「もう遅いかもしれませんが、食べ物…食べ物を与えて落ち着かせてから話をしてみるといいかもしれません」
「しかしあの数じゃぞ飢えを満たすのに足りるかどうか」
「それでも良いのです、闘う意志ではなく交渉する意志があると示すのが重要ですから」
「なるほど」
私達の食事は彼らがここに住むとならなければとりあえずはなんとかなる、今は彼らの飢餓状態を何とかすることが日本人の戦いを避けるという希望を叶える可能性のある方法だ、ガンガンする頭で思いつくのはこれが精一杯
「族長、私達もかき集めてきます、そちらの方でも出来る限りの食料をお願いします」
ドワーフの族長も人族の丘の仕組みは理解しているのだろう、食うに困ることはないと判断して総出で食料を集める
選んでいる暇など無い、調理されていない野菜や肉に残しておいた食いかけのものもお菓子も食べられると判断したものをかき集め荷車に乗せピックアップトラックに牽引してバックの状態で門を出る
さすがはトレーラーのドライバー、まっちゃんさんは荷車を牽引しているというのにバックでまっすぐにオーク達の集まる場所へと進んでいく
バックのピーピーという音にオークたちが反応している、中間の距離を超えてもまっちゃんさんはまだ進む、ジリジリとした時間が続くそれ以上はと思ったところで車が止まり荷車を外して戻ってきた
オークたちは動かなかった…が一人二人と荷車に近づき気がつけば群がりむさぼり食う姿を確認できた、あの様子から見てもギリギリだったに違いない
結局その日はにらみ合い互いに動かず日が変わった
朝になると四名のオークたちが門の前までやってきて膝をついた
理性有る対応とりあえずは話し合いができそうだ
族長、私、工場長さん、クレイさんと護衛に銃を構えたノウミさんとメーベ
相手はたった四人といえどもその巨体は威圧感がある
「まずは昨日の施しに感謝を」
オークは膝を折り頭を下げる
「単刀直入に言います森に何が有ったのですか」
オークたちが言うには、コブリン達に森の恵を奪われたと、最初のうちはよくあるこそ泥程度と思っていたがやり口は巧妙で囮を使ったり騒動を起こしておびき出されているうちに奪われたりと小狡いの域を超えて計画的で家には留まれず食べ物を求めて森を彷徨いここまで来たと
口には出さないが彼らがここにとどまりたいのは明白、飢えれば必ず闘いになる
百人ものオークが留まるとすれば食糧事情は一気に逼迫するだろう、どうすれば…
「すこしよろしいかな」
口を開いたのは工場長さんだ
「1年間」
その言葉にオークたちの目が見開いた、1年もの間彼らを留めるというのか!それは無理では
「1年間最低限の食事で我慢して欲しい」
何を言っているのか解らなかった
「そうすれば食糧事情は徐々にですが改善に向かうはずです」
オークたちも反応できない、今言われている言葉の意味が受け止められないのだ
「そんな無茶な!我らが飢えてしまう」
族長も反対の声を上げる
「無論ドワーフの食料に手を付けるつもりは有りません、そしてオークの皆さんもしもの時は同族を…覚悟は有りますか」
どうしても足りなくなれば減らせということだ…それでも甘すぎる、確かに丘の中の食べ物は使っても元に戻るだが足りるのだろうか、日本人とは皆こうなのか?しかしクレイさんやノウミさんが驚いているところを見るとそうではないのかもしれないが二人も止めることはしない
「乗り越えましょう、一緒に」
そう言って手を差し出す工場長さん、オークにこれが人族の友好の証だと伝え手を握るように教える
オークは信じられないものを見たような顔で手を握ると助かったのだと涙を流した
「元は80人乗従業員が食べていた食堂、一日一食分だがなんとかなるさ」
工場長は自分に言い聞かせるように呟いた