126:配車係と狙撃手
「シュナ~、もうご飯だよ」
「はぁ~い、もう一回だけクリアしたら」
「さっきもそう言ったよね」
「ああぁ~、次こそはハイスコア取れると思ったのに」
クレイさんにタブレットを取り上げられてしまった
「始めたばかりじゃハイスコア取れるかなんて判んないでしょ没収」
「判りますよ!最初の配置凄い良かったですもん!」
メーベから聞かされていた予想よりも早くお腹が大きくなり、運動がしづらくなった私の暇つぶしににクレイさんが渡してきたタブレットに入っていたソリティアというゲーム、おふらいんでも出来るからと教えてくれたけど、そもそもおんらいんを知らないのだからそう言われましてもって感じ
「はいはい、愛情のこもった亭主の晩ごはん食べてお腹の子に元気になってもらいましょうね~」
うっ…お腹の子を持ち出されると罪悪感が…食べますちゃんと食べます
今日の晩ごはん
「クレイさんは好きなもの食べて良いんですよ?」
私と同じ物を必ず食べるクレイさん…バランスはもちろん良いのだけれど男の人の食事としては物足りない量だと思うけど
「シュナ絶対俺が違うもの食べてたら食べたくなるでしょ、特にお魚」
鋭いなぁ~、こないだ夜中に冷蔵庫漁ってたのがバレてからはクレイさんを頑なにしちゃった前科が有るので言い返せない、これは話題を変えよう
「そう言えばおんらいんとおふらいんって結局今でもよく解んないんだけど」
「そうだなぁ、シュナたちに判りやすくって形だとやっぱり念話かな、他の種族はオフラインでエルフならオンラインってこれじゃまだ解んないよね」
そうなのだそれならおふらいんはただの念話が使えないという文字の違いだけでしかない
「概念的にはもっと大きいものかな、念話は言葉の通り『話』だけどインターネットのオンラインは目の前にない物も見たり、聞いたり、手に入れられたり出来るんだ」
「見たり聞いたりは何となく分かるんですけど『手に入れられる』というのが解りませんね、ん!このポテトサラダ美味しいです」
「そりゃどうも、物って言うと形あるものだと思うかもしれないけど、例えばそのゲームや書籍だって概念的にはという物と捉えられるんだ」
「そうかもしれないけど…」
「ソフトやアプリもそのタブレットに入ってないと使えないでしょ?」
「当たり前じゃないですか、入っているから遊べるんじゃないですか?」
益々頭がこんがらがりそう
「それがオフラインでも使えるってことなんだ、そこで最初の念話に繋がるんだよ、オンラインは例えばシンバ駐屯地にゲームが入っているパソコンが端末の役割をしてそのゲームをここで繋げて遊ぶのがタブレットでタブレット自体は繋がってるだけ」
「念話で言うところの情報を持っているのがミュレッタでそれを聞くのが私ってことですか?」
「そうそう、簡単に言うつもりがもっと難しくなっちゃったかな?でもなんで急にそんな事聞いたの?」
話題ずらしでは有るんだけど他にも…
「このスマホやパソコンで本来のやり取りを出来ないかなって思ったんです」
「インターネット?」
「です」
「流石俺もそこまで仕組み解んないけど…あまり無理しないでね」
あれ?なんか心配させちゃってる、なんで?
「もちろん無理なんてしませんよ!あ~美味しかったぁクレイさんありがとう、でも無理しちゃいけないのはクレイさんもですからね」
そう言ってテーブルの上のクレイさんの手を握れば握り返してくれた
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「クレイ様この場合はどうすれば?」
「この場合はエリィはどの車に載せられるか計算して貰って、ベリーは指令書にその情報を記載して」
今日は朝から配車係見習いのエリィとホビットのベリーが家に来ている、そろそろ各種業務でいっぱいいっぱいのクレイさんの代わりに配車業務を担ってもらう人を探していたのだ
二人は本来軍属で狙撃手と観測手をしているはずだがノウミさんからも訓練を欠かさないことでOKサインは貰っている
というのも二人は軍では浮いていて規律を重んじる軍隊にはあまり向いていなかった
「狙撃手って皆が皆そうではないけど往々にしてそういうタイプの人が居るって聞いたことが有るよ、狙撃ってその任務の特性上、忍耐強さが求められる上に自分のタイミングで決断を下さないといけない事も有るから、その…なんというか個性的な人が選ばれやすいみたい」
本物って言ったらおかしいけど向こうの世界の狙撃手が選ばれる選考基準には射撃の腕前はもちろんのこと高度の計算能力とか物理学という学問の方が大切だったりするらしい
ちなみにうちの軍隊のレベルはそこまでの水準には達していないのだとか、銃の精度以上に光学機器がその領域に達していないんだって…これは頑張らないと
狙撃手と配車係、一見すると共通点がまったく見えてこないけど計算能力は
運ぶ資材の形状、長さ、幅、重さ
に対して必要とされる
トラックや一台一台タイプによって違うトレーラーの積める資材の最短最長、最大幅、積載重量
こういった物を計算するのに必須で忍耐力は
ずばりドライバーさんや工場とのコミュニケーション!
日によって違う資材、楽な物も有れば大変な物もある、配車係はそれをできる限り平均的、公平的に組もうとするが物によってはどうやってもしわ寄せがいく、ドライバーさんに粘り強く説得!
どうやっても無理な時は工場にしつこく時間や台数の変更交渉するのに忍耐力!
とクレイさんが思い出したのか遠い目をして話してくれた、こっちではそんな姿を見たことがないので想像がつかないけど大変だったんだね旦那様…
「クレイ様出来ました」
エリィが車を決めてベリーがそれを記載した指令書をクレイさんに見せる
「ん~これはアウト、エリィ重さは問題ないけどこの長さだとヘッドポールには載せられないんだ」
「え…、あ!本当だ見落としてました、ヘッドポールは7mより長くないと載せられなかったのですね」
「そう長さって長い分には気にするんだけど短いのは載せられると思い込みが有るから気をつけてね」
「なるほどです」
「自分の指令書の方はどうですか?」
「ベリーの指令書の方はとりあえず大丈夫だけど出来ればこの項目は重量じゃなくて形状と大きさの方を先に記入してくれるとドライバーさんは計算がしやすいと思う、ドライバーさん達は積む時の荷姿を指令書から計算するからね」
「これを見ただけで…ですか」
「逆にこれを見ただけで計算が出来ないと指令書の意味がない」
「確かに…」
数字と記号の羅列にしか見えない指令書からではまだ新人のベリーにはまだ製品がぱっと思い浮かべられないのは仕方がないことでは有る
「今時期は忙しくないから工場に協力をお願いして、仮の積み込み指示書を作ってもらってそれを指令書にする、出来た指令書を見ながら一致する製品を確認してみれば在庫と製品の形状も覚えられると思うよ」
「「了解です」」
慣れない仕事に怯むかと思った二人だけど、なかなかどうしてその顔はやる気に満ちていた