121:計算できないものと出来るもの
本日投稿2話目
エピリズの村を介しての交易とは別に国と国による直接的な貿易でコンパウンドボウが輸出品としてサンダン王国から望まれ、こちらとしては馬を望んだ
サンダン王国にとって嬉しい誤算だったのは魚の存在、コンクルザディア側が想像以上に高額を支払ってでも輸入してきたからだ
そして彼らにとって嬉しくない誤算は港町の住人達である漁師たち、彼らは海を挟んで隣国であるエクダラ島国の血を引いているのだという
差別意識…今まで何の役にも立たないと国の僻地に追いやられていた者達が突然富を得るやもしれないとなれば道理も筋も無く腹立たしく思う者が生まれるのだ、そして港町側もこれまでの仕打ちに対する恨みが有る
昔、町興しのアイデア募集で『町のお店マップ』を作りろうとアイデアを出したことが有る結果は却下、理由は
「なんでうちの店じゃなくてあの店なんだ!」
って苦情が来るからだそうだ、あの時の職員さんの顔を見れば解る、嗚呼これは以前にそういった事があったんだなと察した
客観的に見ればマップでその店目当てで客が来れば、苦情を言った店にも客が来る可能性が上がるのだがプライドやしがらみが邪魔をして結局どちらにも客が来なくて共倒れになる
それでも『嫌』が先に来てしまう、誰かが得をするよりも誰も得をしないを選んでしまう、計算だけでは測れないやっかいなものが感情ってやつなのだ
両方ともコンクルザディアとは仲が良い、両者にとって得をする存在だから
そんな中、二ポの港町に設置される魔法陣冷凍庫の視察に来ている俺と大将
視察では大将が魚を俺が設備や船などを見て回る
「こちらの舟が漁で使われているものですか?」
「ええ、これで沖合いまで出て」
「オンボロですいません、今度頂ける舟になればさぞ漁も捗るかと」
「…」
視察に同行する両者の代表…隠しているつもりなのだろうがお役人さんの威圧が…全然隠せておりません
「ささ、次はこちらへ…ああそうだご紹介します、こちらこの町一の漁師の」
「村長!予定が詰まっているのですよスケジュールに合わせていただかないと」
「すいません…」
進呈される魔導コンクリート製の漁船と開発が成功し次第魔導モーターも進呈される予定だがどちらが所有権を持つかで揉めるのは目に見えていたから両者に一隻づつ…これで問題が解決するわけではないのだけどこちらとしても問題に火を着けたくない
お願いだから自分たちでどうにかして欲しいんだけど…
港の良い所を見せようとする村長と権力で抑え込んで国の手柄にしたいお役人…正直に言ってお役人さんが邪魔である、まあ彼らは彼らでお仕事なんだろうけどどちらかと言えば村長さんの味方というか港町の現状を知っている村長さんの話が聞けないと視察に来た意味がない
予定にない寄り道をさせようとしないんだよね、こっちとしてはそれも込みで時間も取ってあるんだが…
「なんというか…」
大将もあまりいい顔をしていない、そりゃそうだ折角の採れたての海産物が見れるというのに台無しにされているのだから
あまり強引な事はしたくないんだけど何か良い方法はないものか
結局そのまま昼時になってしまい…港町だと言うのに町唯一の食事処へ
「こちらが今日のお食事になります」
量としては少ないがたくさんのメニューを食べてもらおうと思ったのだろう、様々な魚や貝や海藻を使った料理が並んでいた
「これは凄い!時間も掛かったでしょう」
大将の嬉しそうな声、手を尽くした料理の数々に目を奪われている
「ささ、おあがり下さい」
村長もその喜び様にやっと笑顔が浮かんだ
「大将これ美味いですね!」
「うん、この世界流の煮付けが食べられるとは、味のレパートリーが広がるよ」
あれほど五月蝿かったお役人はだんまり、やっぱり魚料理はサンダン王国の中央では食べられていないのだろう…ん?なんださっきから
「おいあんた!」
突然ドスの利いた声を出す大将…あ!
「なんでしょう?」
済まし顔のお役人だが、俺もやっと気づいた
「さっきから捨ててるだろ」
一口サイズなのを良いことに食べたふりをして床に落としていたのだ
「この程度の料理に青筋を立てなくとも」
まあまあと大将を落ち着かせようとするお役人だったが
「こ…この程度?お前この程度って今言ったか?」
あーこれは大将の押しちゃいけないスイッチ押したわ
「え、ええ王宮ではもっとましな…」
「じゃあ作れ、今から同じ物を同じ味のものを作れ!この程度なんだろう?」
「いえ、それは…王宮ではもっと美味しい料理を」
「違う!同じ物を作れと言っている!村長厨房をお借りしますよ、女将さん調理に使った魚介類はまだ残っていますか」
「え…ええ残ってますが」
お役人の腕を掴んで厨房へずんずんと入っていく大将、大将食べられないのはしょうがないとしても食べ物を無駄にされるの大っ嫌い、料理人なら、いや大抵の人はそうか…でも向こうでも映えだなんだと無駄にする輩が問題になってたか
「変わった包丁…なるほどこれは鱗を落とすのに適した形になってるのか」
一人納得したかと思えば、お役人にも包丁を握らせ
「じゃあ鱗を落として下さい」
「え?」
「え?じゃない早く鱗を落とさないと今日中に全部作れませんよ」
「ぜ、全部、まさか今日出てきた料理を全部作るんじゃないですよね?」
「この程度大した事ないんじゃなかったんですか」
大将の目がマジだ、これは本気で怒っているなこうなると手が付けられない気が済むまでやらせよう
こっちはこっちで料理を堪能させてもらおう、お!これも美味い!
舌鼓を打ちながら気づいた、今なら村長と思う存分に視察に回れるじゃないか、大将ありがとうみっちり絞り上げて料理の何たるかを叩き込んであげて下さい
助けてという目でこちらを見るお役人さん、ただで大将の料理教室羨ましいですねー
「村長さん今うちに行きましょう」
「え?ええ、そうですね」
意図を汲んでくれたようだ、それからはさっき紹介しそこねた町一番の漁師さんや採れる魚について色々と教えてもらえた
店で出た料理とは別に漁帰りの遅い昼飯も一緒に食べさせてもらった
「その掛けてるやつなんですか?」
「おうこれかい、魚と塩で作ったタレみてぇなもんだ、匂いが気になるんなら炒めもんなんかに使えば匂いも気にならなくなるぞ」
それって…ナンプラーか魚醤じゃないか?
「それ買えたりします?」
「これか、よそのもんは使わねぇからな売ってはいねぇだろう、うちのでよけりゃあ後でくれてやるよ」
気前が良いがここは…
「それ売って下さい、いくらで売ってくれます?」
「いや、だから…ただで」
「今後コンクルザディア王国で購入させて頂くことになります、一財産作れるでしょうね…あまり安売りしない方が良いですよ」
釘を差しておく、この二ポの港町は今は低所得者の吹き溜まりで租税が免除されていると聞いているが海産物が売れるようになった今、今後は税を取られるようになるだろう
そうなった時お人好しのままでは買い叩かれても気づかず正当な利益を上げられずに搾取されてしまうのは数字に出して計算しなくても容易に想像出来てしまう
労働に対して正当な対価を
悲しいかなもう向こうでのトラウマになってしまっていて搾取に敏感なのだ
やっと有意義な視察を終えて夕方、食事処に戻ってきてもまだ大将のお料理教室は終わっていなかったのだった
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