117:共同事業計画
サンダン王国、三百から五百年の歴史を持つ国
最新技術で言えばコンクルザディアには到底及ばない国だがコンクルザディアにはない長い年月の積み重ねを持っている
今日はサンダン王国の建築の重鎮の御三方、伝統的な建築に定評のあるリザード族のべメリイ氏とケルデア氏、そして新進気鋭でぶっ飛んだ…前衛的な建築を手掛ける最年少エピール族のヨルファン氏の三人をお招きして、サンダン王国の建築に関する講義をして頂いている
こちら側は運送部からは俺、工場からは工場長に就任したばかりの元品管主任ホシノさんとコンクリート開発のシュナに新しく品管主任に格上げになったケンジ君や営業の人までが講義を受ける
工場の人間からすると建築そのものというよりは建築の歴史の授業に聞こえるんじゃないだろうか、彼らにとっての最新技術もこちらでは歴史場の古いものになるからだ
俺自身は歴史が好きなので一向に構わないが、ケンジ君の顔を見いればなんで今更(そんな物はコンクリートと鉄筋で出来るだろう)と顔に出てしまっている若いな
講師の三人それぞれが実績とこだわりについて話すのだが最年少のヨルファン氏は強烈で
「こんな古臭いものよりもそちらの技術を見せたまえ!未知の技術との遭遇こそ高みに近づく一歩なのだ!」
もちろん他の二人は気分を害しているし、こちらもスケジュールが狂いまくりで困ってしまったのは言うまでもない
仕方なく講義を切り上げ工場見学と相成ったわけだが
「なんじゃこれは…、これをどうするのじゃ」
今見てもらっているのは、プレキャストコンクリート構造(PCa構造)による家壁の製造行程だ、彼らの建築ではおびただしい数の岩や煉瓦を積み上げて作る壁も、枠の中に組んだ鉄筋にコンクリートを流し込んでしまえばたった一枚で壁だ
各工程を順番に見ていってもらうが重鎮たちは徐々に言葉を失い、はしゃいでいるのは新進気鋭のヨルファン氏だけ
「君、この仕事を始めて何年」
「一番難しいのは?」
「その棒は何のためにあるの」
しきりに工具や仕組み、他にも工程にかかる時間を作業員に聞きまくっているのだが…
「くだらん!馬鹿にするのもいい加減にしたまえ!」
突如として切れる重鎮のご老人、べメリイ氏だったか
「この様な未知の技術を持っておきながら我々に何を聞くと言うのだ!さっきの講義も心のなかでは我らの技術を嘲笑ておったのじゃろう!」
相当お怒りのご様子、しかしこれは誤解だ
「落ち着いて下さい、決して馬鹿になどしておりません」
「では何だというのだ、我らの技術など不要ではないか」
どうどう、と落ち着かせようとする新工場長
「いいえ必要です、これからなぜ必要なのかお見せします、それでも納得がいかないのでしたらお帰りになって頂いて構いません、どうか釈明をさせていただきたい」
血管が千切れてしまうのではないかと言うほどの剣幕も落ち着いた新工場長の対応でひとまずワンランク低下させられた
「こちらが我々の主力だった製品PCパイル、地中に埋めこの上に建物を建造する事で耐震性や建物の沈下などを防ぐ製品です、ここまではよろしいいですか?」
渋々では有るが頷くご老人、ヨルファン氏は興味深そうにしているだけで先程までのように騒いではいなかった
「我々はこの製品のみで半世紀…50年に渡って作り続けて来たのです、そして先程見てもらった
プレキャストコンクリート構造の壁は作り始めて試験を繰り返し製品になったのはごく最近、解りますか?我々には圧倒的に地面より上の構造物に対する造詣も建造するノウハウも少ないのです、ですから貴方がたの技術に尊敬の念を抱くことは有っても見下したり嘲笑する事は有りえないのです」
新工場長渾身のスピーチ、反応はどうだ?
「すまな」
「マジか!これだけの技術と機械がありながら?本当に?」
ぶち壊しだ!別の意味でご老人がお怒りである
「ええ、本当です、こんな事で嘘をついても何も得しませんからね」
「それで我々の知識をご所望と言うわけですな」
もう最年少には何を言っても無駄だと思ったのか無視して新工場長に話しかけるご老人べメリイ氏
「もちろんお借りするだけでは申し訳ないと思っています、ですので」
「私達もここの機械を使っていいんだ、ひゃっはー!ホゥッ!」
ヨルファン氏は新進気鋭なだけでなく性格的にもちょっとぶっと…前衛的なようだ
「これ触ってみても?」
天井クレーンのリモコン、今は何も吊ってないのでOKを出す
「対応するボタンをお教えしますね」
新工場長のガイドでクレーンを動かしてみる
「うおお、すげぇ」
建築家とか関係なく普通に初めてクレーンを動かす人のそれだ
「わ、ワシにも!ワシにも触らせろ」
「次は私だ!」
重鎮とは一体…はしゃぎまくる三名とそれを黙って見ている参加者、さぞかしシュールな光景だっただろう
「こほん、この機械やそのコンクリートを使えるのなら儂らももっと思いきった創造が出来るはずじゃ、そのホテルじゃったか?喜んで儂らの知識を使って欲しいそれと~」
ポリポリと頭を掻かれても、じいさんの照れ隠しを見ても癒やされやしない
「後学のために学ばせてほしいんじゃ」
最初からそういう話だったはずなんだけどはしゃぎすぎて忘れているみたいだった
「建築やコンクリートに関する本はどれでもご自由に」
「「「しゃぁぁぁぁぁ!」」」
それを聞いて年齢もなにも関係なく雄叫びを上げて抱き合う三人
ホテル建設は御三方の全面協力のうえ、若い建築家も参加
ホテル建設はサンダン王国とコンクルザディア王国の友好の架け橋として建設も建設後も大切にされていくのだった
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