110:交易拠点エピリズと寂れた漁村(前半クレイ・後半クリシュナ視点)
本日投稿1話目 15:00に2話目を投稿予定
やっとこさサンダン王国と国交を樹立し交易が始まる
が、
大口の受注とはならなかった、なぜならこの世界で建築用の重機を持っているのが我が国コンクルザディアしかないからだ
コンクリートの大型で重量の有る製品は扱えない、ドワーフ達の工房で作っているものが主力製品であり、元手の資源がただとは言え利益は少ない
交易用の製品はコンクルザディアでは売らずエピリズの村に卸す、これはセキュリティとエピリズの発展を促す為のものであり、土地が有限の丘ではこれ以上広げられないからという物理的な問題でもあった
あれだエピリズの村は長崎の出島みたいなもんでコンクルザディアは鎖国状態と言ってもいい、エピリズの村での関所は無料
ただし村に入る際にはサンダン王国からの身分証明書の提示とスマホで写真を取らせてもらい身分証明証を発行する、写真という技術がないお陰で偽造は出来ないがサンダン王国側で偽造書類を作り申請される可能性は有るから油断はできない
これに関してはサンダン王国政府を信用していないわけではなく技術的な障壁とでも言うべきだろうか
まずはサンダン王国とだけ交易を行い問題点を洗い出し解決させてから他国にもエピリズの村…その頃には町になっているかもしれないがを紹介して中継交易拠点になってもらうつもりだ
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一台の武装トラックがエピリズの村へと入って来るその様子をコンクルザディアの人種がうずうずと心待ちにしていた
普段も速いが普段以上の舗装工事で直通道路までこさえて待っていたもの
「お待たせ!」
運転席から降りてきた、まっちゃんさんの顔は久しぶりの長距離運転と積荷に満足といった二重の笑顔
今日は私も気分転換を兼ねてクレイさんと一緒にエピリズの村まで来ていたのだけど、人種は皆そうなのかそれとも日本人だけがそうなのか武装トラックの荷台は専用に作られた冷凍コンクリートのボックス
そこまでして魚が食べたいという意味が私には解らない、川魚なら養殖だってしているのに…
これのためだけに大将さんまで仕込みを放りだして見に来ているのだから本当に理解できない工場長さんまで来ようとして止められたらしいし
ボックスを開けて中から種類ごとに籠に入れられた魚を取り出しては
「マジか!これ鯛じゃないですか?」
「こっちは太刀魚っぽい!」
魚を取り出してはああだこうだと、まるで仔たぬき達のようなはしゃぎっぷり、そんなに美味しいのかしら?
「今夜は魚尽くしですね!大将よろしくお願いします!」
「久しぶりに魚を捌くから今から緊張しちゃってますよ」
ぐふふぐふふと笑い合う男たち…テンションが上りすぎてて怖い
サンダン王国ではその漁村を除くと魚を食べる習慣は殆ど無いそうで食べたとしても川魚を不作のときに食べる程度だという
漁村自体が税を収められなかったり小作人にすら成れなかった者たちが集まる貧民街なのだということだったのだが異世界人の登場で転機を迎えることになる
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「えっ!生で食べるんですか?」
私は驚いた!刺し身と言って日本人は魚を生のまま食べようとしていたからだ
運送部に工場のメンバー、しかも普段は外にでない長老デンさんまでもが大将さんのお店に来ている
今日は異世界人の貸し切り、定員オーバーでぎゅうぎゅう詰め
「あっ!シュナは妊婦さんだから刺し身は遠慮しとこうね、ほんとごめん」
いや、私が妊婦かどうか以前に生ですよね、嘘でしょう?
「シュナには鯛のアラ汁とサメの煮付けをお願いしといたから」
なんか気を使ってくれたのは嬉しいけど刺し身食べさせてあげられなくてと言われるとちょっと…本当にほんの少しだけど気になってくる、それになんで妊婦は刺し身を食べちゃいけないのかも気になる
しかも大将さんの奥さんが凄い悔しそう…刺し身ってそんなに美味しいの?
「いや~多分鯛?の刺し身を異世界でも食べられるとか生きてて良かった」
「ご飯も鯛めしですから、さっき味見しましたけど堪りませんよ!」
異世界人をここまで目の色替えさせる海の魚…気になる
息を切って工場長がお店に入ってくる
「いや~お待たせ、まだ食べてなかったんですか?先に食べていて貰ってよかったのに」
「だって異世界で初の刺し身ですよ!この瞬間を一緒に楽しみたいじゃないですか」
「…ありがとう」
え?なにこの空気そんなに?そんなに海の魚食べるのが特別なことなの?
今日はじっくりと味わうためにと単品で出てくるお魚(刺し身)たち
食べる度に眉間にシワが寄る異世界人、食べられない妊婦の私と大将の奥さんに対する嫌がらせなの?
生はありえないと思っていた私も食べてみたくなってしまうじゃない!
「はいこれは鯛のカルパッチョ」
「うわぁ、綺麗!」
綺麗に盛り付けられたサラダと鯛の刺身…すごい美味しそうじゃない
「食べてみる?」
私の表情で察したのかクレイさんが聞いてくる
「でも妊婦は食べちゃ駄目なんですよね?」
「一切れとかなら問題ないよ、食べたくないものは勧めない方が良いかなと思ってたけど食べたそうだったからさ」
正直生には抵抗がある、でも皆美味しそうだし…
「じゃ…じゃあ一切れだけ」
バジルとドレッシングで半透明に輝く鯛のお刺身を思い切って口にいれる
ぷるん…
「なにこふぇ…」
ぷるっぷるの歯ごたえに酸味と甘味が絡み合ってお肉とも違う食感と味わい、喉元をつるりと通ってしまいもったいなさを感じてしまう
これ!これを皆さっきから食べていたの?ずるい!これを妊婦だから食べれないなんて拷問よ!幸福感と今後出産までこれを我慢しながら耐えなければいけない悲しみと切なさ、クレイさん!うちの旦那はなんてものを嫁に食べさせるのよ!
腹いせにバンバンとクレイさんの背中を叩く
「美味しくなかった?」
違う!そうじゃない逆よ逆!
このあと漁村は異世界人によってさながらゴールドラッシュ、日本人によって栄えるその街はいつの間にか二ポの町という名前になるのだが、それはまた別のお話
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