12:園児たち
15tという化け物フォークが走り回る場内
工場長さんの親バカが最高潮に達し仕事どころではなくなってしまった
当の仔たぬきたちは家から出たことはないと言うのにだ
各部署からはクレームの嵐だが工場長は頑としてはねのけるどの部署もまさか工場長がここまで頑なだとは思いもよらなかった
「まあ、わからんでもないんですよたぬきの習性というかですね、向こうに居たとき場内でたぬきを見かけていましたしうちの製品は大抵tを超えるものが多いですし僕らとしても事故は避けたいんですが」
動物の頃の習性のまま場内を遊び場にされると事故が起きる可能性はやっぱり高い、せめて作業している日中だけでも安全な場所、思いつくのは大将さんの所かドワーフ達の居住区、しかしずっと目を光らせておくのは難しいわけで…他には
「そうだ、神社はどうでしょう?比較的工場から離れていますし」
「場所的には良いですが広すぎて目が行き届かないかも…」
「ん~、もう少し小さくて抜け出せないような場所ですか」
どこかで見た気がするのだけど
「とりあえず宮司さんに話してみますか」
「そうだ!、神社の近くの建物あそこはどうですか?」
「神社の近く?」
「誰も使ってないようでしたし、あれは工場の持ち物じゃないんですか?」
あそこなら工場ともしっかり区切られているし建物自体も壁が有って小さい子供なら出れないだろう、クレイさんも思い当たったようで
「あそこですか…確かにドンピシャなんですけど、ん~…もういいのかもしれない…」
少し困ったような顔をしてる、何かあるのかな
「工場長に話してみないと」
あの建物は保育園というそうで、小さな子ども達を預かる場所なのだそうだ正に求めていた場所じゃない!なんで使われていなかったのかしら?
転移が起きた日は日曜日で保育園は無人だった、その後は他人の持ち物でもあることだし向こうの世界に帰れた時の為に手つかずにしておいたのだそうだ、そうこうしている間に1年以上の時が過ぎ忘れ去られていたと
いつになるともしれないのに他人のものだからと触れずに居たのか、なんというかすごいわね
「ん~」
工場長さんも渋い顔、即断するかと思ったのだけど彼ら等の倫理観というのはこの世界に1年以上とどまっても根強く残っているようだ
「仕方ないか…」
その日を境に工場内の無茶振りな改善はなくなりドワーフも含めた小さな子供たちが保育園に通うことになった、保育士という職業も生まれ子供向けの簡単な勉強、教育が行われるようになり園長先生に神社の宮司さん、受付をしていたユカリさんは希望転属という形で保育士の主任に収まった
仔たぬき達を保育園に入れるのはまだ早いのでは?というクレイさんの疑問も成長速度の速さから入園させるべきと工場長さんが押し切った
「ツァーミさんあとはお願いね」
「ユカリさん、色々とありがとうございました」
今生の別れというわけではないのであっさりとしたものだ
保育園初日
何食わぬ顔で堂々とスーツ姿で保護者席に座る工場長さん、もちろん仔たぬき達の保護者としてだ
保育園に入る前にドワーフの族長や私のところに来て、この世界で浮かない名前の相談までして名付けの親にまでなっている
「アーミン君」
「はい!」
「カール君」
「はい」
五十音順に呼ばれる園児たち、ドワーフの娘達に混じって仔たぬきたちも名前を呼ばれると返事をする
「ロルフ君」
「はい」
「ルディ君」
「…はい」
続いて女の子
「アネットちゃん」
「はい」
「リサちゃん」
「はい」
特別枠でリサちゃんも入園した、大将さんと奥さんで相談して年の近い娘達と触れ合ったほうが教育に良いと思ったそうだ
「ヒルデちゃん」
「はい」
仔たぬき達全員の名が呼ばれ終わり園長先生こと宮司さんの挨拶が始まる
「ご入園おめでとうございます。皆さんは種族の違いを超えてこの保育園に入園されました。種族の垣根を超えて仲良くすることで未来も仲違いせぬようここで学んでいただきたい…」
ふぁ~あ、とあくびをする子供もちらほら、ドワーフの親もあくびをしている、日本ではこうした形式的な流れで式が進むようだ長く感じる、私もあくびを噛み殺す
「続きまして」
庭に布をかぶったなにかの除幕式、園長先生の話が眠かったのではない、私が眠かったのはこれのせいだ
布が取り払われるとそこに現れたのは大きな滑り台に幾つかの遊具、なんとか間に合った、魔法陣を多用してできる限り怪我をしないように作られたコンクリート製の遊具だ
さっきまであくびをして眠そうだった子供達の目が輝いた
糸目を垂らして嬉しそうな工場長さん糸目にも関わらず『これが見たかった』と顔が雄弁に語っている
式が終わると同時にお姉ちゃん枠のリサちゃんの周りに群がる仔たぬき達、ドワーフの子供たちは何をしていいのかわからない様子、元来ドワーフの子供は7歳になる頃には武器や防具作りの見習いになり子供によってはもっと早くから習い始める子供も居る、工場で働いている子供は10歳以上、向こうとドワーフで働き始める年齢が違うのだが郷に入りてはということで工場側が緩和した形だ、ただし比較的危険の少ないところへ配置されている
この先、子供たちの教育がどう変わっていくのか判らないがこの子達が未来を背負っていく、いつかはエルフの子供も通う様になる日が来るのだろうか
次第にリサちゃんを中心とした輪にドワーフの子供たちも混じっていく
願わくばこの子達のようにエルフの子も笑顔でそんな日を迎えてもらいたい
クリシュナはそう願わずにはいられなかった
「何だよアレ」
「俺が知るかよ」
見晴らしの良い山頂からドワーフの里を見下ろす影達
「何がどうなってんだよ」
「だから俺が知るかっての、いいから報告に戻るぞ」
影達は山を離れ何処かへと戻っていった