105:狙撃(エリィ視点)
本日投稿2話目、午前中に1話目(104:外交ドクトリンと裏の顔)を投稿してますのでご注意を
今回シモに関する話が出てきます、注意…といってもしようがないのですがお食事は控えるといいかも
一日目
現地で既に待機していたフェデン殿の部下の誘導で狙撃ポイントから数百メートルの位置へ到着、祈年祭会場にはセッティングのためのスタッフが出入りするだけで民衆が集まる様子はない、日もとっぷりと暮れた闇の中、私とベリーは今の内に狙撃ポイントへと移動する
建物は見張り小屋だったのだろうか三階建てで屋上には鐘がついていたが今は使われていないのか至るところが腐りホコリを被っている、高さも有って狙いやすいが逆に見つかりやすい、下を押さえられたら逃げ場は無い…屋上へとつながる梯子の上には扉が付いていて開けて外へ出る
ポイントには数日分の干し肉とバケツ、バケツは配慮なのだろうが使うつもりは無い、私もベリーも垂れ流しは覚悟している
私はこの任務に自ら志願した、突然の襲撃何も解らないまま里を失い逃げて明日さえも知れぬ逃避行の末にたどり着いた土地そしてそんな私達に手を差し伸べてくれた人とドワーフ
今では私達と同じ様に救われた種族と手を取り合いコンクルザディア王国になった、この安住の地を脅かすものは何者であろうと許さない!
どんな手を使ってでも守り通して見せる
誰にではない私自身に誓ったのだ
ベリーはどうなのだろう?この任務、クレイ殿は必ず生きて帰れと言われたが難しい任務、彼らホビットもゴブリン達によって滅びかけた辛うじて里は残ったが生活していける場所ででは無くなってしまった
私と同じ目をしている、それが初めてコンビを組んだ時に彼に抱いた感情
彼は必要なことしか喋らない、それが心地よい、コンビを組めているのも相性の良さなのだろうか
二日目
私達二人は夜明けと同時にカモフラージュの布を被ったまま状況を確認、太陽は私達の背の方角から上がってくる照準メガネの反射を考慮しても良いポジション
「舞台までは241m、数メートルだが予定よりも近い」
レーザー距離計で得た情報をベリーが教えてくれる
2.5倍と5倍両方の照準メガネで狙いを定めてみる、単純に5倍の方が良いと思うかも知れないがそうではない
倍率が大きくなれば攻撃目標は大きく見えるがその分視野が狭まり周りが見えなくなる、近すぎるのならば倍率を落とした方が周りの動きやレンズから攻撃対象外れても再度捉えやすい
逆に狙われている側ならばジグザグに動けば照準から外れやすい
狙う側だからこそ狙われる側動きを知っておかねばならない、それが一発しか撃てないか二発目を撃てるかの違いになる、クレイ殿の言葉だ
準備を終えると後はただじっと待つ
夜も深まった頃、珍しくベリーが話しかけて来た…いや独り言のようにも聞こえる…独白というのが合っているだろうか
「ゼケナ…許嫁の名前だ、あの日ゴ…ブリン共がやって来たとき俺は無力だった…彼女が殺されるのを見ていることしか出来なかった」
黙って彼の言葉に耳を傾ける
「怒りよりも恐怖で動けなかった」
里を襲われた時の自分を思い出す
「コンクルザディアに移ってからも何も出来ない自分なんかが何故生きているのか…あの時死んでいれば…そんな風に思っていた」
それから彼は黙ってしまう、沈黙の後
「今もお前さんに委ねて自分の手を汚していない…だが俺はもう逃げない、いざという時は俺の命に変えてでもお前を逃がす」
「お互い様よ、私も貴方を守るわ…それに逃げるときは一緒よ置いていったりしない」
「そうか」
「そうよ、私達はチームなんだから」
「解った、じゃあ渡されたアレ幾つ有る?」
「四つよどうして?」
「今から言うことを聞いてくれ…」
三日目
民衆が集まり始め、いよいよ祈年祭が始まる
開式を合図する魔法の花火が上がり壇上に人影が増え、私達は息を潜めながら攻撃目標を探す
「居た、距離は260mに変更、第二攻撃目標までは251m」
「了解」
昨日から微調整と何度となく繰り返した小銃から斜めに突き出た五倍照準メガネを覗く
「やはりか…ベリーあんたの言った通りだった」
「時間がない直ぐにでも」
「解ってる、あんたもスコープをしっかりと見といておくれ
「解った」
息を吐いて身体を静止させ引き金を絞る
空気を切り裂く炸裂音、そしてそれをかき消す大きな爆発音
私達の居るはずだった三階建ての見張り小屋の屋上が白い煙に包まれていた
「結果は?目標はどうなった」
「胸に命中…動いていない、やったぞ!」
少しだけ興奮しているベリーの声
「第二攻撃目標は?」
「倒れているが生きているようだ」
「やはり私達以外にも刺客が居たのね…腕は良くないみたいだけど」
私達の居るはずだった200メートル向こうの見張り小屋の下には兵士たちが既に集まり騒ぎになっている、明らかにバレていたでなければこの短時間で小屋に集まれはしない
何よりあの小屋に仕掛けたトラップが発動して白煙を上げているのが何よりの証拠、アレは私達が逃げる時用にと渡されていた姫様謹製のコンクリート魔法陣の中に石灰を込めた煙幕手榴弾、屋上の扉を開けたら爆発するようにセットしておいたのだから
私達は二日目の夜の内に狙撃ポイントを変えていた移動した先は狙撃においては先のポイントより精度は落ちるポイントだったが逃げ道を確保できる
どんなに狙撃に優れたポイントでも逃げられないポイントは選んではいけない、これがクレイ殿が狙撃の成功よりも気にしていた点だった
そう言われていたのに集中するあまり頭から抜けてしまっていた、それに気づいてくれたのは観測手であるベリーだ、私一人であったのならば敵の罠にまんまと引っかかっていただろう
冷静な相棒に感謝だ
刺客が狙ったのは宰相、傷が深いかどうかは判らないがとりあえずあの場では生きていた
宰相を狙った目的を知りたいが任務自体は達成した、今はこの場を切り抜けて帰ることを優先しなければならない
「必ず、生きて帰ってこい」
と言った指揮官との約束を守るために
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