102:春を待つ
本日投稿2話目
今年の冬の冷え込みは例年よりも強くコンクルザディア王都以外は深い雪に閉ざされていた
お陰で戦の心配は無いだろうというのがクレイさんの予想、それでもドローンも活用した最低限の偵察は継続、軍も抜かり無く雪中訓練を実施、鍛錬に怠りはない
町や村の方はと言うと商いも最低限にとどめて冬ごもり
じっと耐えて春を待つ
妊娠から五ヶ月、ようやくつわりがやって来た体調は最悪だけどホッとしている部分もあって複雑な気持ち
この感覚だと妊娠期間は人と比べて二倍なのかもしれない、忙しい中でも休みを取って側に居てくれるクレイさん
「御飯食べられそう?」
「今は厳しいかも…」
大将さんの奥さんはとっくにつわりは収まっていてケロッとしている羨ましい…つわりの期間も二倍かもと思うと耐えられる自信が無くなりそう
私のつわりは吐きつわりと眠気つわり、要するに何も出来ないわけで…
クレイさんだけでなくメーベも一緒に看病に来てくれている、なにも出来ないからか珍しくメーベは落ち着かない様子
「辛ければ愚痴でもなんでも言っていいからね」
うちの旦那優しいなこれじゃ愚痴も言えやしない
吐きつわりを軽減させてくれるというスポーツドリンクを飲むので精一杯…しんどい
『姫様…聞こえますか?』
『ええ、聞こえてるわ、あなたは大丈夫?』
念話の声の主はつわり仲間…妊婦仲間のミュレッタから
『姫様は吐きつわりですよね?私は食べつわりで食べていないと気持ち悪くて…』
『お互い辛いわね、頑張りましょうね』
『はい、お腹の子のためだと思って頑張ります』
ミュレッタはノウミさんが駐屯地で動けないから駐屯地の医務室で静養中、側にはシェリルが付いてあげているのだという
ここ最近のおめでたブームでハッキリしたことだけど、妊娠期間はオークは五ヶ月、ホビットとドワーフは経過から見て人と同じ十ヶ月から十一ヶ月、エルフの私達はそれよりも長いという感じエルフ同士の子よりは早いのかもしれないけど最長で人の二倍の妊娠期間になるかもしれない…
私がこんな状況だから運送部の事務所ではなく我が家を仮の事務所にしてクレイさんはお仕事
「こっちの方が工場に近いから」
なんて言ってくれて居るけど、必要な書類が有ると毎回取りに行ってるのを見ると申し訳なく思ってしまう
仮の事務所にしたことでストーブもこっちに持ってきてくれてとても暖かい燃えるコンクリートを使った床暖房も効いているのにストーブの暖かみはなぜかホッとする、煌々と揺らめく赤い炎のお陰なのかもしれない
とにかく動けない私だけどクレイさんが話を振ってきてくれて気が紛れてる、話の内容はやっぱりこのお腹の子の名前、日本風が良いかエルフ風が良いか、出来ればどちらとも捉えられる名前が良いねとか話し合う
私達エルフは圧倒的に女の子が産まれる確率が高いのだけど念の為男の子の名前も考えたり
そうこうしている間にいつの間にか眠りに落ちているというのがここ最近の流れ、早く落ち着きたいなぁ
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少しずつ晴れ間も増え、雪も溶け始め春が近づいてきた、つわりも治まりお腹も少し出てき始めて、この頃になるとクレイさんが妊娠帯なるものを作ってくれていた
腰の負担が減る優れ物、旦那の女子力の高さよ!しかもミュレッタの分まで!
作ってくれなかったノウミさんが悪いのではなく裁縫がここまで出来るクレイさんがおかしい(褒め言葉)のだノウミさんも感謝しきりだったもの
お陰で少しずつだけど軽い運動も出来て重かった身体も調子が出てきた、ずっとベットだった期間もあったから身体を動かしたい欲も有ったのよね
私が動けない間にも国の方では色々な動きが有って、その中でも大きいことで言えば住民票(戸籍)作り
最初は何のため?だった王都民と村民だったけどこれを作るとセーフティーネットといって職を失ったり病気にかかった時も最低限の暮らしが保障されると聞いてみんな飛びついたみたい
以前やっていたゲラ鳥の闘鶏の登録で得たノウハウを元にもう出来るだろうというのとこれ以上増えてからでは実行が難しくなるという理由で住民票作りが始まった
後から不満が出ないようにという計らいから国に治める税とそれに見合う見返りについて何度も説明会が行われ、各種族の言語で書かれた制度のレジュメも配られたのだという
これに伴い闘鶏場でノウハウを蓄えていたオークのガルダンは闘鶏場の管理人から住民課の主任に就任、闘鶏場の他の面々も住民課に鞍替え
しばらくの間は兼任業務になるけど、後任が引き継ぎ出来るまでに育ったら完全に別部署になる予定なのだとか
軍事部門を除くと初めての正真正銘の公務員の誕生である、闘鶏場も半公営では有ったけど公務員というよりは胴元だったからね
新たな動きも加速して形を変えていくコンクルザディア王国、雪が解ければ他国との駆け引きも再開されると思うけど、動けない冬に地盤を固め続けた我が国がどう他国と渡り合っていくのか不安と高揚感を感じながら春を待つ私達だった
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