閑話:平和的乗っ取り
サンダン王国軍が使っていた野営地はそのまま捕虜収容所と化していた
丘の上からチハ公と一緒にフリーダムな捕虜収容所を眺める
塀も堀も無いのに捕虜収容所とはこれいかに…だが丘の上に鎮座するチハ公の火力を見た殆どの者たちは逃げる気を失っていた
そしてこちらが提案した降伏条件をサンダン王国が蹴ってきた事で命がけで逃げ帰っても国に戻れる保証無し、帰ることも出来ず状況終了後に難民と化すというカオスな状態…に見えるが計画の一部だ
フェデンのおっさんとの勉強会のお陰で向こうの事情は知っているし捕虜に関しても中世ヨーロッパの様に、捕まえた側が要求するのでは無く、捕まった者の中でも身分の高い者だけが自分を開放させるために支払い可能額を交渉する…
というのがこちらの世界のセオリーの様だけど戦勝国のこっちが態々そっちに付き合ってやる義理も時間も無い
捕虜の身代金は身分に関わらず全員で一括り、戦争責任に対する非を認め宣言し紙で残すことと戦後賠償金の支払い
金額はコンクルザディア紙幣で一億円に相当し、捕虜の解放に対する身代金も含めると一億五千万ほど
おっさんに大雑把に試算してもらったがサンダン王国にとっては国家予算約30年分、払えるわけもないが、嫌がらせが目的ではなく…多少は腹いせも有るが一番の狙いは借金を負ってもらい金本位制から管理通貨制度へ、更にはこちらの通貨を流通させることを条件に身代金の免除、完全移行で五千万までの賠償金の減額
紙幣通貨で平和的に支配したいと言うのが本音、もっというと他国と財務でやり合う手間を省きたい
そんな人員ぶっちゃけ数も質も揃えられない、キャパオーバーでパンクが国王含めて全員嫌!断固拒否!無理なもんは無理なのである
なのでかなり破格の条件を組んだはずなのだが、お貴族様が納得するかはわからない
フェデンのおっさんから聞いたが低い金額で取引されればそれが自分の価値、無料となれば存在価値が無いと侮辱していることになるんだそうな…面倒くさい
が、
先延ばしにすればするほど賠償金の減免額は低くなっていき、長引けば長引くほどサンダン王国はジリ貧、こっちとしては身代金未払の捕虜の面倒なんて見るつもりもないし暴徒化したところでしったこっちゃない、次は本当に当てるだけだ
まあそんなことにはならないだろう、なぜなら半分の兵隊を無傷で抑えられているこの状況を近隣諸国が指を加えて黙ってるとは思えないからな
早く返して貰わないと国が滅ぶのは確定、肉体的奴隷か経済的奴隷か好きな方を選べばいいさ
丘の上から砲塔を左右に振って警戒しているふりを頑張るチハ公、チハ公という呼びは
しっかりと言うことは聞くし丘の上でも動かずにじっと見張ってる姿がなんとな忠犬っぽくてチハ公と呼び始めた
実際頼りになる忠犬…忠戦車、そういや正式名称も『ちゅう』戦車だったな
ちなみに明らかにおかしいチハ公の大火力
あれはあらかじめプロパンガスのタンク、それもよくある灰色のあれではなく『バルク貯槽タンク』という集合住宅用のでかいやつを工場の社員寮から取り外して丘の外に何度も持ち出すことで複製を作りまくった
そしてこいつらが来る前にそこら中に埋めチハ公がそれを撃っただけ
撃ってもいいの合図の赤い旗は実はアナログ、コータローさんと愛馬の共同作業だったりするこれはフェデンのおっさんとベルザードには内緒
リザードと軍馬が正規の軍装で走り回ったところで誰もおかしいとは思わない、大きな爆炎を上げるためにバルブを開けてガスをわざと少し漏らしておく
おっさんがダイナマイトだと勘違いしていたのは弾頭に魔法陣で光魔法を込めて破裂するタイミングを調整してあるただの…ただのと言っていのか?まあ閃光弾信号銃でしか無い
倒れている旗を立ててその場から十分な距離を取って発光弾、それが終わると別の貯槽タンクで同じ事をする、中々に神業、お馬さんと直接会話できる能力はもちろん必須だが、それ以上に信頼しあえているのだろう
ハイテクノロジーに見せかけた職人とパートナーの神技
向こうの様に録画できる機器が有ったのなら後日バレてしまうだろうが今のところは問題ないんじゃないかな?カメラの様な機械が有るのなら偵察なり何なりで使われていたと思うがその気配はない
今回の計画でももう一つ重要な役割を果たしたのが
単眼の照準メガネ、九七式車載重機関銃の付属のものだったのだけどオーバーホールの際も見つからず欠損していると思われていたのだがホビットのジェイルとケイルの手によって旧ホビット集落のチハ公の居た祠の隠し部屋から見つかった
ただし照準メガネは約13キロ…とてもじゃないが現代日本で気軽に使っていた望遠鏡のように扱える物じゃなかった
バラして研究に使うかそれとも脚を作ってそのまま使うか…望遠鏡やスコープに詳しくないが確か狙撃銃のスコープにはガスが入ってたんじゃなかったっけ?バラしたら最後…元に戻しても
せめてチハの中から見つかってくれていたら砲弾とかと同じように複製できるから壊しても平気だったのにな…
最終的にシュナの研究を応援する形で照準メガネをバラした
構造を解明できたことと一度目の挫折が有ったからか質は低く、一つ一つの精度もまちまちでも完成にこぎ着けることが出来た
発見出来たのはジェイルとケイル
チハ公の専属乗組員の彼らの前にチハ公を見つけた時の子供が現れて…
な~んかな~、こいつが動いてない時に現れてるんだよな~あの子供…
ジェイルとケイルが会ったのも休みに墓参りに行った時だし、俺はジトッとした目でじ~っとチハ公を見続ければジリジリと砲塔を背ける、やっぱ砲身が目なんかな?
「チハ公、お前何か隠し事してないか?」
ぶっちゃけて見たが無反応、いやこいつが無反応はかなり怪しいぞ、丘の上では任務を頑張っているけど、蝶々が近くを飛んだだけでふらふらと付いていこうとする位普段は落ち着きがない奴なのだ
別にあの子供がチハ公だったとしても怒る理由も無いのだから出てきて話してくれても良いんだけど、何か言いたくない事情が有るなら今は問い詰めなくてもいいか突然動かなくなっても困るし
「偉いぞ、帰ったらオイル交換しような」
砲身を上下にコクコクと振って喜んでいる様に見えるチハ公、尻尾が有ればブンブンと振っていそうな感じを見て
やっぱ犬は良いなと思うクレイなのだった