95:状況終了
本日投稿三話目、先に二話(93話・94話)投稿してますのでまだの方はそちらからどうぞ
天幕の中には泡を吹いて倒れているエパール貴族と落ち着き払ったリザードの女性
「貴様誰だ…」
少なくとも知った顔ではないが…
「困りますよ~、私としてはどっちが殺られてくれても良かったのに~、あれどうやって攻撃が来るの見破ってるんですかぁ~?」
気色の悪い喋り方、それにリザードの女性の声質ではない
「化けるのならまともに化けるべきだったな、それにその喋りはリザード族の女性への侮辱だ許さんぞ」
「こわぁい~、なんちゃって!…猿とトカゲ如きが偉そうに貴族騙ってんじゃないわよ」
突然の豹変、思わず背筋に嫌な汗が流れる程の冷たい声
「何が目的だ、一連のサンダン王国の不可解な動きも貴様が仕組んだのか!」
「知らないわぁ~、猿とトカゲじゃ頭が回らなかったんじゃない?あはは」
コロコロと変わる話し方と声の所為でこいつの心理が全く読むことが出来ない
これでは埒が明かない、それにこの状況では本国がどうなっているのか解ったものではない
「おのれ…国ごと乗っ取ったか…」
睨みつけるがまるで意に返さない女
「どうかしら、うふふ…まぁいいわ、兵士も役に立たない腰抜けばかりで使い物にならないし三百年も歴史が有るっていうから期待しちゃった私がいけなかったのよねぇ、ごめんなさぁい、あら笑いすぎてお化粧が崩れちゃった」
いけないけないと崩れかかったリザードの顔を手で抑える、得体が知れなすぎる
「そうそうあなた結構あいつらの情報持ってそうだし代わりに私達の仲間にならない?このおじさま口ばっかりで全然使えないんだもの、お馬さんの方が役にも立つし可愛いし」
「俺も可愛くないがな!」
言うと同時に火球を放ったが弾かれる
「やだ、怖いじゃない、レディに対してそれはあんまりじゃない」
「淑女が聞いて呆れるわアバズレ!」
火球は一発も当たらずに弾かれ
「もういいわ、半殺しにして引きずっていくから、さ」
ぶわっと舞い上がる風の感覚ウインドカッターか?いや違うこれはっ!
反射的に結界を張るが防ぎきれずに天幕の外へふっとばされる
グッ…強い…何なのだこいつはこのままでは…立ち上がる前に腹を蹴られ転がされる、…ッカ!息が吸えない
「もうちょっと頑張るかと思ったんだけど所詮は猿ね、あらあら痛くて泣いちゃってるの?可愛い~うふふ」
勝手に勘違いしてるがいい、痛みなぞどうでもよい私は悔しいのだ、すまないクレイ殿…そなたは手を尽くして戦を阻止してくれたというのに礼の一つも言えずに散るその事が悔しいのだ…だがこの命に代えてもそなたらの情報は守り抜いて見せる!
「いいわぁ、その決意に満ちた顔をぐちゃぐちゃの泣き顔に変えるの、あぁ考えただけでゾクゾクしちゃう」
「イカレ女…め」
「ありがとう、最高の褒め言葉よたのしみ!たの」
音もなく言葉を発するはずの女の頭が無くなった、一体何が…遅れて聞こえてきた砲撃音
あそこからここまで一体どれだけの距離があると思っているのだ明らかに3000メートル以上有るではないか…訂正しようあの男は嘘つきだ…フンッと笑いが込み上げ私は安堵から気を失ってしまった
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「お~い、フェデンのおっさん生きてますか~」
鼻につく生意気な声で目が覚めた
場所は蹴り飛ばされた天幕の中に戻っていた、嘘つき男の隣にはこの男にはもったいない程のエルフ、クリシュナ殿が治癒魔法を掛けてくれている、全くどうしてこんなブサイクが器量好しを捕まえられたのか…
この男の持つ魅力と言うしかあるまい…絶体絶命の窮地をこの男に何度救われただろう…それも私だけでなく我が同胞、我がサンダン王国までも救ってみせた
「クレイ殿…」
「まだ治ってないんだから寝てなって」
全くこの男は、人の覚悟を何度も踏みにじりおって!
「クレイ殿!此度は我が同胞を助けて頂きかたじけない、そなたが手を尽くしてくれたこと感謝に尽きぬ」
彼らの流儀に沿って正座をして彼の腕を取り頭を垂れる、これで良かったはずだ
「ん…んん!まあ、絶対に出来るって訳でもなかったし…運が良かっただけだから…」
頭を上げてくれと懇願されるがそれではこちらの気が済まない、ここに居る兵全員で土下座というものをしたいくらいなのだ
「あ~、チハの砲身見るんだった、じゃ!おっさん身体大事にしろよ、シュナあとお願いね」
逃げるようにして出ていってしまった…
くっくっと笑いを噛み殺しているクリシュナ殿に聞いてみる
「何か作法を間違えてしまったのだろうか」
「何も、照れちゃったんですよあの人…ふふ」
あんな男にもそんな可愛げが有ったとはな…
思わず私も笑ってしまったのだった
これにて第四章「初めての戦争」完
今回のエピソードに出てくる
「命に『かえて』も」
の『代えて』は意図してこの字を使っていますので誤字報告は無しでよろしくお願いします
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