94:『地獄の歩き方』
本日投稿二話目、先に第93話:メッセージ を上げてありますのでご注意を!
初めての100エピソード(閑話を含め)到達…だと言うのにクレイもシュナも出てきませんね…
エピソードタイトルも不穏
でもチハくんの迫真の怖い演技
怖がられるのは本人的にはあまり嬉しくないみたいですが、みんなの為に我慢して頑張ります!
進軍を開始した矢先、丘の上に忘れようのない鬼神が如き兵器
戦車が姿を現した
生命を感じぬ冷たい威容
キュラキュラと聞こえたと思った時には恐ろしい勢いあっという間に迫る戦車だったがこちらがはっきりとその姿を視認出来る距離で停まる
「な、なんだあれは!」
砲塔をキョロキョロと動かしたかと思えばその下に付いた機関銃が火を吹いた
魔法にも驚かない訓練を馬でさえその威容には耐えられない、弾は当たらなかったが馬達は兵士達を振り落とし何処へとも判らず走り去る
砲塔がこちらを向き砲身が私達を捉える、この距離であの演習で見た火力を受ければ身体は塵芥として消えてしまうのではないか?そんな事を他人事の様に冷静に考えてしまう自分がいた
そんな私とは対象的に腰を抜かしたまま闇雲に火球を戦車にぶつける兵士たち
「やったか?」
キュラキュラと音を立てて無傷の戦車が煙の中から姿を現す
「ひぃっ!」
何かが来ると直感した兵士は結界を張った、だが意味はなかった
腹にまで響く轟音、砕け散った結界、遥か後方で上がる土煙、初めて見る彼らには何が起きたのか何一つ理解できなかっただろう
攻撃も防御も何も通用しない化け物
統率もへったくれもないそこには恐怖に塗りつぶされた者たちしか居なかった
終わった…覚悟を決め目を閉じる
が…やけに遅い、死ぬ時とは時間がゆっくりとでも流れるのか
「フェデン殿!フェデン殿!」
ベルザードが私の肩を掴んでガクガクと揺らす、往生際の悪い…男ならば覚悟を決めぬか!いつまでも揺らすベルザードに腹が立つ
「ええいやめんか!男なら」
「フェデン殿、あれを!あれを見て下さい」
無理矢理に首を曲げられて言われた方向を向かされる
「あ…、あれは…」
「そうです、あの時のあれです!クレイ殿は見捨ててなど居なかったのです!」
緑色の旗と赤い旗、戦車は私たちに見向きもせずに赤い旗目掛けて咆哮を上げる
次の瞬間轟音と共に巨大な爆炎がどす黒い茸の様に舞い上がったかと思うと真っ赤な大輪の炎の華が咲く、演習の時に見たものとはまるで違う…
着弾した場所はサンダン王国軍からは離れているが一瞬で隊列は崩壊、当たり前だあの巨大な炎の華など誰も見たことがないのだ
魔法の火球の何百倍もの大きな炎の華、あんなものに当たって生きていられると思う愚か者は居ない
兵士が巻き込まれない距離で緑の旗が赤の旗に変わる、その度に戦車は咆哮を上げ巨大な華を作り上げる
「ひうっ!」
もうまともに言葉も発せずガタガタと震える眼の前の兵士の胸ぐらを掴み
「生き残りたいか」
ガクガクと壊れたおもちゃの様に首を縦に振る兵士
他の兵士たちにも俺に付いてこいと叫ぶ
「ベルザードお前も来い!」
動ける者たちを連れて丘を降りる、狂気に当てられ逃げ惑う兵士たちの間を縫って指揮所を探す
そうこうしていると今度は空中で何かが炸裂して白煙を上げ更に兵士たちを恐怖に陥れる、あれはダイナマイトだったか?
よく見ると空中で白煙が上がった後その直下に地面に炎の華が咲く
演習で見たものを必死に思い出し、彼らの兵器に関する知識をフル活用して皆を安全な場所へと逃がす
『地獄の道の歩き方は私達に聞けか…』
そこかしこで響く爆音の中で大声を上げてベイルザードに問う
「ベルザードォォ!もうクレイ殿の言った意味を解っているなぁぁ?」
「ええっ!もちろん!」
「俺は指揮所を目指す!お前は此処にいる腰抜け共を避難させろ、出来るか?!」
頷いたベイルザードにその場を任して先を急ぐ
赤い旗を見つけては怒声を上げてそこから離させる、混乱した兵士には悪いがこれは芝居だ
誰にも兵器の攻撃が直撃はおろか至近弾すらないのだから、混乱し逃げ惑い勝手に怪我をしているだけなのだから
クレイ達は最初から私達を殲滅させる気など無かったのだ、しかし効果は絶大、歯向かう気など起きるはずもなく生き延びたいという根源的な感情に皆支配されている
しかもからくりを知らない者が見れば、たったの一体の化け物の攻撃にしか見えないのだからな、これがうじゃうじゃ居ると想像するだけで生きた心地はするまい
高位の軍服を着た男を見つけて捕まえ
「おい!指揮所は何処だ言え!」
見れば失禁しているその男はぶるぶると震えた指で方向を指差す
それらしき天幕を見つけたが歩哨も居ない大方逃げ出したのだろう、本来なら叱咤するべき状況だが今はそれでいい
フェデンは混沌とした場にそぐわぬ落ち着きを持って天幕の中へと入って行ったのだった
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