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第4話

 古代の魔法は近代という移行期間を経て、現代魔法に変わった。

 その過程で魔法が各々の領域で枝分かれ細分化され、いよいよ違う領域になると訳が分からないほど専門化された。

 その一つが因子(ファクター)魔法だ。


 元々は木霊(エコー)の魔法から発展してきたらしい。

 木霊(エコー)とは、特定の場所に発生した過去の事件を映像と声として呼び出す魔法。残留思念を使うので、条件や時間の制限は厳しい。主に調査や裁判の立証で使われていた。


 後に世界の記憶(アカシックレコード)を読み込む術式との組み合わせが成功したので、その制限は大いに緩和され、呼び出せる時間もかなり伸びた。術式は原形に留まらないほど大きく変わったが。


 これに湧いたのは歴史学者と考古学者だった。歴史還元にはかなり役に立つだからね。

 ただ、よっ程腕がいい術者じゃないと成功率が低い上に、呼び出す映像が古いほど掛かる魔力が大きい。そして正しい期日と時間をちゃんと指定しなければ、すべてが無駄になるという……


 ここで因果律操作という魔法がさらに加わった。

 大体の原理は結果(場所やモノ)から遡って原因(人物)に辿る、そこから記憶(因子)を抽出という……一見まともそうだけど実際は滅茶苦茶なやり方と難易度な魔法が出来上がった。


 それ(因子)を使うと術者が一時的に過去の人物(因子の元)に憑りつかれる、歴史人物の口寄せみたいな術だと思ってもらって構わないが……

 それは所詮本物ではなく、世界の記憶(アカシックレコード)の一断片に過ぎない。それが語ったのは主観的な思念でしかない上に、因子(ファクター)の選別は術者の認識に大きく左右される。


 つまりもし術者がレイヴンを残酷冷血な策士だと思ったら、呼び出したレイヴンは人でなしの性格をしていた。

 もし術者がレイヴンを冷静沈着な軍師だと思ったら、呼び出したレイヴンは利害を見透かす知恵者になる。

 しかも知ってる歴史と真実があまりにもかけ離れていたら、混乱を引き起こす。(因みにレイヴンを呼び出す術者は全員混乱したという)


 結局真実解明には微妙に役に立たないが、それでも歴史的な価値があると認定した残念な魔法だが……そこで一つの疑問が生じた。

 一時的に過去の人物に憑りつかれると、その人物を持つ技術も付随してくるだろうか?


 そこで検証した結果が、術者のスペックと認識によるが、その過去の人物の持つ(わざ)は確かに使えた。

 しかし同じ場所やモノから採取できる因子(ファクター)は限られる故に、そんな使い方は浪費ではないか?というのが一般的な考え方。


 まあ、過去の技術の利用を考えていたのは、この魔法を戦闘や軍事に転用しようとする人たちだが……この別の方向性への思考転換が大事だ。

 そこから思い付いたのは、因子(ファクター)への選別と改造だ。

 戦闘や軍事への利用は、魔物の因子(ファクター)の採取を試みる。

 歴史と考古学者は因子(ファクター)の純化と方向性の調整を考えた。


 純化は当然、術者の主観を取り除く作業だが、思ったよりも簡単に出来た。

 しかし純化した因子はただの一人称視点の映像になった、しかも魔法発動の間で受術者にしか見えない映像だ。

 当然これも価値あるものだが、他人が見えないと検証のしようがないし、術の期間中でしか見えないと記憶違いなどの問題も起こり得る。


 ならば方向性の調整で記憶特化の因子(ファクター)を試みたが、確かに記憶は受術者に植え付けたが、結局は検証できないし、受術者が記憶障害や混乱を起こす現象が見られる。


 因みに技芸特化の因子(ファクター)を使って、失われた技術の再現を試みたが、それも術の期間中でしか発揮できない。魔法が解けたら綺麗さっぱり忘れる。


 そこで建てた仮説が一つ。

 そもそも因子(ファクター)魔法は他人の因果を自分の身に取り入れて、その技や記憶を再現するものだ。

 しかしそれはあくまで一時的なもの、だからこそ反動は抑える。


 もし自分ではない他の記憶を取り入れたままだと、混乱や障害を起こすのは当然のことだろう。

 そして技術を綺麗さっぱり忘れたのは、術の期間中受術者が完全に別人(因子の元)になっていたからだ。


 この問題の解決法は未だに見つからない。

 歴史と考古学者の間では因子(ファクター)魔法はすっかり美味しいんだが厄介な手段という扱いになった。


 魔物の因子を利用する派は逆に新しい戦術の確立に至った。

 恐らくこの利用法が一番因子(ファクター)魔法の特性に合ってるでしょう……使いすぎると厄介な後遺症もあったが。


 時に数年前、あるクレイジーな魔道士が思い付いた。

 瀕死の時の因子(ファクター)を採取すれば、”走馬灯現象”を利用してその人物の一生の記憶を得られるかもしれない。

 そこで同一人物のほかの因子を融合させ、刺激し、補完させれば……完全なる記憶因子を手に入れるかもしれない。


 そしてそれを何の記憶もない、白紙のような赤子の脳内に植え付ければ……昔の人物を復活させられるかもしれない、っと。


 それが四年前、アルペンハイムに起こったことの始まりであった。




第4話 共犯者




 「ヤツは産婦人科医や助産師を扮して、赤ん坊に接触した僅かな間で手を下した。発見されるまで約一年三か月、ヤツにやられた赤子は百を超えた。その中の九割は既にこの世には居なかった。」


 たとえ白紙のような赤子も、未成熟な脳では一人の人生を焼き付くような蛮行に到底耐えられなかった。

 約半数の赤ん坊は施術された後の三ヶ月内で夭折、残りの四割は成長中に何かの脳疾患を患って死んだ。


 皮肉なことに、アルペンハイムの階級意識が緩い故に、ヤツのような見知らぬ臨時助産師が容易く受け入れられた。ラインのように施術された貴族家の幼子も少なくない。

 ヤツが精神魔法と変装に長けていることも一助となって、すんなり医師や助産師の親戚や弟子の身分を手に入れた。


 ヤツはそれなりに用心深いので、何かしらの兆候があったらあっさり逃げだして、結局逮捕には至れなかった。


 既に死んだ被害者(子供)たちは仕方ないが、生きていた子の近くには大体軍部の人員が配置されている。

 その目的は監視……でもあるが、一番の理由は子供の体調の異変をなるべく早く気付くためだ。


 貴族家の親たちは大体真実を知っていて、自ら軍部と協力して、カタのような人員を家に引き入れた。


 (あー……なるほど……)


 今ラインは道化師に介して話してるから、マルティンらから見ると表情が分からないが……今ツヴァイク邸に居るライン本体の顔はかなり複雑だ。

 まさか親二人、多分お爺様(宰相)も真実を知っていてグルだったとは……そして恐らくラインが魔法を会得したこともとっくに知っていた筈だ。


 『ならばなぜずっと放置していた私に、いきなりこんな”あそび”を仕掛けるのか?』


 「これは二番目の問題か?」


 『そう思ってもいいですよー』


 「ふむ、なら俺の分は暫く置いておく。先ず一つの誤解を解こうか。貴様の隠蔽工作はなかなかのものだ、我々が探知出来たのは奇妙で微弱な魔力の波動だけだ。お前にちょっかいをかけたのは、”ヤツ”が再び現れたのだから。」


 三年間、ずっと音沙汰なしのあのクレイジーな魔道士が、ようやく再び現れたのだ。

 十ヶ月前、ヤツがお隣さんのプラートゥムに居ることが偶然捕捉された。綿密な調査で分かるのは、ヤツが反政府組織〈赤い大地〉の構成員と共に行動している。


 因子(ファクター)の採取や因子(ファクター)魔法の行使は、必ず因子(ファクター)使いが自ら行うでなければならない。

 ヤツが活動を再開すれば、いずれその痕跡が捕捉されるのが至極当然のことだ。


 そしてヤツを捕まえたいのは、マルティンは将軍としても、一人の人間としても至極当然の思いだろう……

 だが、赤い大地が居る限り、諜報員だけヤツを捕まえるのは難しい。


 マルティンは正規軍を偽装して潜入させようとしたが、そこに待ったをかけたのは王国宰相リヒャルト。

 曰く、諜報員ならまだしも、正規軍を偽装して潜らせるのは流石に国際問題になりかねん。


 国王ウルリッヒ・フォン・アルペンハイムがプラートゥム連合議会に協力を要請したが、成果が芳しくない。


 先ずこちらの諜報員と獣人正規軍と組んでみたが……協調性ゼロとまでは行かないが、反発し合ってるのは事実だ。

 そりゃ「自分の縄張りにしゃしゃり出て大きな顔をするよそ者」と「余計なプライドで仕事を邪魔してくる脳筋共」が合わないのも当然だ。


 赤い大地は二流のテロリストで、獣人正規軍が本気で警戒したら大したことじゃないけれど。

 彼らが本気で南の樹海に身を隠し、亀になっていると、獣人軍もどうしようもない。


 中央大陸の南の樹海は妖精族(アールヴ)の縄張りだ。

 昔大規模開発しようとした人間が居た、あの人間もあの人間が居た町も魔法の雨で焼き尽くされた。

 たかがテロリストの為に妖精族(アールヴ)の怒りに触れるのは誰もしたくない。

 

 なのにあの赤い大地(テロリスト)共がなぜか中で根拠地を設立出来るのだ。

 だからプラートゥムは長い間赤い大地に悩まされた。


 ことがここに至って膠着に入った。

 議会の意見が割れて中々決まらない。

 こっち(アルペンハイム)の宰相も国王もいい方法がない。


 そこで将軍が一手を仕掛けた。

 もしラインが何の裏もなく、ただ殺される愚劣ならば、せめて宰相の怒りを赤い大地に向かわせるだろう。

 もしラインには隠した才があるならば……


 ——やられた。

 これが今ラインの心境である。

 凡そ考える頭のある人ならば、あのような茶番劇の裏を調べようとする筈だ。

 もしそこで誰かさんがこれらの情報を流して来ると、この件を手伝うしかない。


 なぜならラインはこの件の被害者であり、政治的な影響を与える当事者でもある。

 百余名の子供の命、もしかしてプラートゥムでは既にもっと多くの子がこの目に遭ったかもしれない。

 手伝わない選択肢はなかった……


 (もし今朝カタを突き出したら……いや、それならアーノルドが他の人員を派遣して、()と接触すれば済んだことだ。)


 結局逃げられない。


 しかも、将軍(マルティン)は多分、ラインを使って宰相(祖父)に揺さぶりをかけるだけでしょうが……

 ラインにはあの契約を結んだ張本人(アルバート)の記憶がある。

 ラインはあの契約の詳細を知っている、あの時アルバートと接触した妖精族(アールヴ)たちの気性を知っている。


 つまり、ラインは今現在の最適解を出せる人かも知れない。


 『……は~あ~……わかりました。今回の件限りで、貴方の共犯者になりましょう、将軍。』


 「貴殿の協力に感謝しよう。その英断、嬉しく思う。」


 あの剛毅な面構えが悪そうにニヤリと笑う。

 やはり月影になれるやつは一筋縄ではいかないと、ラインが心の中でこっそり嘆いた。


 『つきましては一つの問題がありますねぇ……我が国の人員を大量輸送できる飛空艇は、何処まで発展した?』


 こうして、二人(ラインと将軍)が今回の事件を解決する策を詰めていく……


 「これで行こう。宰相の説得は任せた。」


 『いいでしょう。こちらも技術提供するので、これらも含めた報酬とご褒美は期待しても?』


 「出来得る限り満足させよう。その前に、貴様は何者なんだ、ライン・ツヴァイク?」


 『私は私、ライン・ツヴァイクでしかない。もしあなたはもう一人の記憶の元を問うのであれば……アルバート・フォン・ノーザンクロス、この答えはどうでしょう?』


 その名前を聞いた時、置物と化したカタも、色んな資料を取り出して補助しているアーノルドも、答えを得たマルティンも、驚きと共に激しい動揺を表した。


 「……ま、ままマジで!?」


 「アルバート・フォン・ノーザンクロス……稀代の英傑!?歴代の中で最も優れた夜天の主!」


 深く息を吸い込んで、強制的に自分を冷静させたあと、マルティンはこう聞いた:


 「……証明は出来るか?」


 『ふむ……〈夜天に見る果てしない夢を〉の術式全本を書き出してやってもいいんですよ。』


 〈夜天に見る果てしない夢を〉

 それはアルバートが聖剣の(アーツ)を元に、夜天の知識を吸収し、一から編み出したオリジナル魔法だ。

 その術式のデータは残っていない、ただ夜天に幾つもの観測記録があっただけ。だからこの千年間、それを再現できる者はいなかった。


 「なるほど、それならば証しにはなるだろう……で、使えるのか?」


 『無理ね、今の私が発動したら、脳味噌が爆発するかも。』


 「ふむ……」


 もしラインが出来るというのなら、逆にマルティンの疑心は深まるだろう。

 数少ない観測記録によれば、〈夜天に見る果てしない夢を〉はかなり大掛かりな魔法だ。それに使う魔力と演算力では、三歳の子供がとっても賄えるとは思えない。


 『でも機能を極限まで削れた”極小(ミニマム)版”ならいけるかな?』


 「ほう、そんなカスタマイズも出来るのか。」


 『キミたちは知らないだろうと思いますが、アルバートは常に魔法を改良し、使うたびに状況に応じて機能を添削してるんだよね。』


 「ふむ……貴様は月読(ツクヨミ)になるつもりはないか?」


 『それは三番目の問題か?』


 「そう思って構わん。」


 『えっ、嫌なんですけどぉ。そもそも私の人生設計では、そういうのを入れるつもりはない。』


 「アルバートを受け継いだのにか?」


 『アルバートはアルバート、既に死んで千年経った。私は私、ただのライン・ツヴァイクです。そもそもアルバートのあれだって騙し討ちみたいなものでしょう?』


 「くく、そいつは否定できんな。」


 『というか将軍、よくも三歳児をそんな血の宿命に誘おうとしたね!見下げたよ!』


 「ふむ、そういえば貴様は未だ知らぬだったな。」


 『何が?』


 「聖剣はとっくに解体された、そして今の夜天は分裂した。」


 『うわあー……とうとう最悪の局面の一歩手前まで来た。』


 聴けば、将軍の前代の月読が平和の世に聖剣は不要と思った。そして自分の死と引き換えに、聖剣を解体した。継承の儀式自体は行ったが。

 で、今代の月読が夜天をも解体しようとしたが……月影たちを招集し、それを宣言する会議の前夜で崖に落ちて死んだらしい。


 『うわあー……絶対暗殺じゃん。』


 「それから月影は懐古派、革新派、中立派の三つに分裂した。」


 懐古派は夜天を過去の原点に立ち戻り、いにしえの先人たちの意志を継承するべきと主張した一派。

 革新派は夜天も時代と共に変わり、今こそが日の光を浴びて、大手を振って、世界の表舞台に登る時と主張する。

 そして中立派は……


 『まさか中立派という名の烏合の衆ではないでしょうか?』


 「少なくとも俺は技術部(ラボラトリー)の協力を取り付けたぞ。」


 『通りでアルペンハイムの魔導機工技術が進んでいる訳だ。』


 ここで二人が言っていないのは、そもそも月影になれた人物は、他人の手下に甘んじるような人間ではないということだ。

 彼らには独自の理念と思想があり、追い求めるものがある。

 あの三つの派閥はただの言い訳でしかなかった。


 夜天という二千年に跨る怪物が、聖剣を解体した日で(中心)を失った。

 あとはどうやって死ぬだけだ。

 一番理想なのはしっかり決着をつけることだが……最後の月読の死と共に、それが不可能になった。


 そして今、この怪物の血肉が野心家に分けられ、この世に災厄をもたらすだろう。


 『で、あなたの欲しいものは何?将軍様……いや、月影の”破軍”。』


 月影は自分の性質や得意な分野から、それに類する星の名を戴く慣習がある。

 破軍とは軍事と(いくさ)を司る星のことである。

 武人の星である”武曲”とも迷ったのだが、ラインは破軍の方がよりマルティンの気質と合っていると判断したが……それは間違いではなかった。


 「ふむ……権力の争いの中で、最も無辜なのに最も被害を受けているのはどんな人だと思う?」


 『それはまあ、下っ端の人たちでしょうね。』


 「そうだ、ただ日々生活しているだけの民たち、ただ命令に従うだけの兵士たち……なのに彼らの人生は蟻のように踏み潰される、彼らと全く関係ない所で、彼らと殆ど関係ない他人に……おかしいと思わないのか?」


 『そうですね、平和の世であれば、平穏無事であるべきと私も思う……が、すべてを救うのは不可能とも思う。』


 「俺も別に救世主になりたいと思わん。だが、俺は夜天の教育を受けていたが、軍では最下層の一兵士から始めたのだ。今の状況に思う所が沢山ある。

 夜天は終わったのだ。あの聖剣を解体した時で終わるべきだった。

 なのにあの連中の野心の為に、終わるに終われないのだ!」


 『ならばどうする?あなたの望みは?』


 「俺はただ、帰る場所が欲しいだけだ……いや、皆が帰れる場所を作る!彼ら(夜天の人々)は世界の為に奮闘した、なのに終わりは野心の餌になるとは、そんな結末あまりにも惨い。

 終わるならば、せめて穏やかでありたい。」


 『だから、あなたはアルペンハイムを選んだ。』


 「そうだ、この移住者を歓迎し、外来の人たちを受け入れ続けている国なら、出来る筈だ。当然ただとは言わぬ、夜天の技術がこの国(アルペンハイム)の助けとなるだろう。

 再度問うが、貴様は月読(ツクヨミ)になる気はないか?」


 『謹んでお断り致します。私はね、ただ平穏無事に、出来れば悠々自適に暮らしたいだけなんですけどぉ。』


 「む、そう言われると退くしかないか。」


 流石に先で穏やかな終わりを言った口では、無理強いは出来ない。

 なぜそんなに月読を推してるのか?ラインは聴かない。既に答えは分かっていたからだ。


 なぜ九人の月影が懐古と革新に分裂し、どっちつかずの中立派が出来上がったのか?

 それはきっと、懐古派と革新派が既に新世代の月読(ツクヨミ)を推挙……いや、恐らくはもう着任したでしょう。それ位月影はやる。

 だから”分裂”だ。


 正式な伝承を経ていないし、この状況ではあの月影らの傀儡でしかないが……大義名分にはなる。

 将軍(マルティン)は夜天の帰れる場所を作ると豪語したが、帰りたい人が居なければ、場所はただの場所だ。

 旗印が居ない以上、彼もただのまつろわぬ月影の一人でしかない。


 そう考えると、ラインは割といい人選だ。

 アルバートの記憶を受け継いだ以上、旗印の効果は恐らくあの懐古派と革新派の月読(傀儡)二人よりも上でしょう。


 ただラインが嫌がるだけだ。

 別にわがままではない、いや、自分の人生だ、わがままでもいいだろう。

 それに夜天を終わらせたいのに、こんなやり方でいいんだろうか?


 そして何よりも、将軍(マルティン)の言っていたことが本当かどうかも確認せずに簡単に飛び込んで……ラインはそんな目出度い頭をしていないのでね。


 とりあえず目の前のことから始めよう。

 お祖父(宰相)様の説得、そして答え合わせと裏取りと行こう。

元は二話に分けるつもりでしたが、字数がたりないので併合した。

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