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2.2



 七日後。フリッカは十六歳になり、エイクエア諸島の慣習により外へ出ることになった。

 二度目の人生でも、魔力封じはリレイオが外すらしい。腕輪を外しながら、ちらりちらりとリレイオがフリッカを見る。一度目は早く脱獄したかったから、リレイオの様子なんて気にしていなかった。

「なに?」

「いや……何でもない」

 カチャカチャと、一度目のときよりも長い時間をかけて魔力封じの腕輪を外す。そのときはまるでリレイオに両手を握られているような状態になるから、なぜか気まずい。

「はい。これでまた精霊魔法を使えるようになる」

「わかった」

 フリッカは何度か手を開いたり閉じたりして、自分の体の中を魔力が巡っていくのを感じる。

「これから九の月の後半に誕生日を迎える同胞と一緒に船に乗る。魔力を封じて十年だからな。すぐには精霊魔法を使う感覚が掴めないと思う。船に乗っている間に講義の内容を思い出すんだ」

「わかった」

 返事をすると、リレイオは驚いたように目を丸くする。何をそんなに驚いているのかと疑問に思っていると、鉄格子の扉を開いてからすぐに、魔力を封じていた腕輪を地面に落とした。転がっていく腕輪を追いかける。

 階段の下まで移動したリレイオは、回収した腕輪をしっかりと持つ。

「フリッカが行けば、船はすぐに出る。沐浴したいかもしれないが、船の中で体を拭いてほしい」

「わかった」

 階段を上っていくリレイオの後に続き、フリッカも地上へ向かう。小さな島の地中をくり抜くように作られているフェンゲルドムは、大きくない。各階に牢屋が一つか二つあるだけだ。だから、一度目の人生で土天井をぶち抜くことができた。

 二度目の人生ではそんな暴挙はせず、地道に階段を上っていく。そうしてようやく、十年ぶりの太陽をきちんと拝めた。

(バカなことをしないで浴びる日光は、格別だなぁ)

「ひっ」

 久々の日光浴を楽しんでいると、すぐ近くから悲鳴のような声が聞こえた。そちらに目を向ければ、隣の島の浜辺に誰かが立ってフリッカを見ている。高床建築の別荘が多く建っているその島は、フェンゲルドムと目と鼻の先だ。偶然、牢屋から出てきた元収監者と出くわすこともあるだろう。

 悲鳴の主は女性のようで、フリッカを見てガクガクと震えている。

(そんなに怖い……?)

 最深部に収監されていたのだ。大罪人という扱いではあるが、そこまで怯えさせてしまうものなのだろうか。そんな疑問を持っていると、リレイオがフリッカの隣に立ち、女性に手を振った。すると女性は顔に活力が戻り、ほんのりと頬を赤らめながら浜辺から去って行く。

「フリッカはずっと太陽の光を浴びていなかったから、幽霊かと思う程色が白い。これからは太陽の下を歩けるから、もっと健康的な色に戻すといい」

「助言として受け取っておく」

「ディーアギス大国に向かう船は、ヴァサントから出る。移動するぞ」

 リレイオが用意していた小舟に乗り、ヴァサントの港まで行く。船に乗り換えるためフリッカが先に下りると、リレイオに手を引かれ小袋を渡された。

「なに」

「ボクからの(はなむけ)。一万リリイ入っている」

「一万……りりい? お金ってそんな単位だったっけ」

「正式名称はリオッカリフレイ。略称がリリイ。フリッカが収監されているときに変わった」

「ふぅーん。そうなんだ」

 説明を受けながら小袋を見ると、表面にR、裏面にTと書かれた大きめの硬貨が十枚入っていた。その内の一枚を取り出す。

「ちなみに、これでどれくらいのことができるの?」

極貨(ごくか)は一枚で千リリイ分の価値がある。そうだな、今の物価だと二十リリイで果物が一つ買えるぐらいか」

「え、それならこれ一枚で果物が五十個? 一万リリイなら五百個? そんな大金、受け取れないよ」

「餞だから」

「そもそも一人で生活できるようにならないといけないのに、わたしだけ受け取れないよ。餞っていうことなら、わたしと一緒に行く人にも渡してよ」

「なんで知らない年下に渡さないといけないんだ」

「平等じゃない。他の人に渡さないなら、わたしも受け取らない」

 リレイオとの話は平行線だった。どちらも譲らず、ただ時間だけすぎていく。汽笛を鳴らされて、ようやく待たせてしまっていることに気づいた。リレイオは、フリッカに小袋を渡したまま。

「……もう時間がないから、今持っている一枚だけもらっておく」

 そう言って、小袋をリレイオに返した。

 そして走って船へ行き、自分の船室を捜す。各扉に二名ずつ、三部屋にネームプレートがついていた。しかしどのネームプレートにも、フリッカ・サージュの名前は書かれていない。もしかしたら見落としてしまったかと部屋の前を何往復もするが、自分の名前が見つからない。

 誕生日が近い同胞に聞いたらわかるかもしれないと姿を捜す。船の中を捜し回り、甲板に出た。すると、二人の少女を発見。駆け寄ろうとしたが、すぐに足を止めた。

(えーと……)

 二人の少女はフリッカを見るなり、一定の距離を保って何か話している。近づこうとしても、まるで汚物を見るかのような蔑んだ目を向けられてしまう。

(そっか。そう、だよね……)

 フリッカは十年前、大罪人としてフェンゲルドムの最深部に収監された。同じ時期じゃなければ気にしないかもしれないが、自分の門出に犯罪者と一緒にいたくはないだろう。

(それに、まだ沐浴もしてないし……)

 同胞と自分の格好を比べる。門出に相応しい汚れのない服を着ている同胞と比べ、フリッカは薄汚れた服を着ている。この状態では、仮にフリッカが犯罪者でなくても、一緒にいたくないだろう。

 同胞との交流を諦め、フリッカはまた自力で自分の部屋を捜す。捜していない場所を歩いていたら、ようやく発見。そこは船底に近い部屋で、貨物室の隣だった。そこに今にも外れそうなネームプレートに、フリッカの名前が書かれている。

「……現実は厳しいなぁ」

 一度目の人生では、脱獄した上に権力を持つ相手を脅していた。人の心なんてなかったから、一人でも気にならなかったのだが。

 人として普通の人生を歩めるように、これから少しずつ学んでいけばいい。

「よしっ。頑張るぞ」

 パンッと自分の頬を叩いて気合を入れ、部屋に入った。 


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