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第二話 二度目の人生

「コほっ、ごほっ」

 喉が焼ける。肺が燃える。肌が焦げる。それでもフリッカは、死ぬ最後の瞬間までノエルを目に焼きつけておきたかった。フリッカの死を、最後まで見届けてくれる心優しき男性を。

(あぁ……もし生まれ変われるなら、次は、普通の人生を送れたらいいな……)

 こうして、史上初の四属性の精霊魔法を遣う魔術師、フリッカ・サージュは、十七歳という短い生涯を終えた――――はずだった。

(え、なに、どういうこと?)

 フリッカは、見覚えのある牢屋の中できょろきょろと顔を動かす。壁に刻まれている棒の数を数えると、フリッカが十六歳になるまであと七日だった。

(え? え??)

 火刑にあったことははっきりと覚えている。もし生まれ変われたらと願ったことも。しかし時間が戻るなんて想像もしていなかった。

(どうせ戻るなら、ぴーちゃんが死んじゃう前に戻してくれたらいいのに)

 なぜ時を遡ったのかわからない。フリッカは、一度目の人生で脱獄を決意した日に戻されていた。

 何も疑問が解決しないまま夕食の時間になり、リレイオが食事を持ってきた。夕食は、パンとスープと決まっている。

「フリッカ。気分は悪くないか」

 突然心配され、困惑する。一度目の人生のとき、同じころはリレイオのことを全て無視していた。だから前のときもこんな風に心配していたのかもしれない。

「べ、別に」

「おお、久しぶりに話してくれたな。体調が悪くないようで良かった。これ、置いていくからまた食べて」

「わ、わかった」

 心なしか、リレイオの口調が柔らかいような気がする。だから思わず返事をしてしまうと、リレイオは嬉しそうに笑って去って行った。

(なんなの、調子狂う)

 フリッカの中でのリレイオは、いつもぶすっとした表情で滅多に笑わない男だった。そんなリレイオが笑うから、少し戸惑う。

(リレイオはぴーちゃんを殺したんだから)

 自分に言い聞かせてみるが、一度目の人生でデューダンデという魔物を生み出してしまったからこそわかる。もし十年前にリレイオの判断が遅れていたら、家族として過ごしてきた野鳥が、誰かを殺してしまっていたかもしれない。

 火刑で死に、今はなぜか時を遡ってしまっているが、もしかしたら十年前に命を落としていたかもしれないのだ。感謝こそすれ、一方的に無視をするなんて本来はあってはいけない。

(……まぁ、今だからそう思えるんだけど)

 一度目の人生で、死ぬ前にフリッカは人としての心を取り戻せた。それは、ノエルのおかげだ。

「あ、そうだ。時が遡ったってことは、あの人も罪を犯していないってことだよね」

 一度目の人生のとき、ルヴィンナにすり込まれたように様々な人を憎んだ。自由になるなら誰にも負けたくないと、強気なルヴィンナの口調を真似ていた。強気な女みたいなものを演じることで、自分が強くなったと思ったのは勘違いだ。本当の強さとは、悪を前にしても平等に接してくれるノエルのような人のことを言うのだろう。

 だから、誰かの真似をするのは止めた。

「確か、ノエル・フォレットさん、だよね。また会えるかなぁ」


 一度目とは違う気持ちで心を躍らせるフリッカの声を、影の中で聞いている者がいた。


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