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死に戻りをした元極悪魔女は、三度目の人生で初めて恋を知る。  作者: いとう縁凛


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3.8


 自宅へ帰り、いつでも姿絵を見れるようにしようと考えて思い立つ。

「……ノエルさんを床に置いておくわけにはいかないよね」

 フリッカは急いで家具屋へ向かった。そして木工職人手製の、五連型額縁とそれが倒れないように細工がされた机を購入。何でも姿絵屋で五枚一組で買い、それを飾る額縁と机を一緒に購入していく客が多かったそう。なるほど、これも商売だ。

 追加料金で部屋まで届けると言われたが、今後の生活のために節約することにした。五連型額縁と机を持ち、自宅へ向かう。

「うぅ……嵩張る……持ちづらい……」

 ノエルの姿絵を飾るのだ。万が一にも傷がついてはいけないと思い、五連型額縁を脇の下で挟み、両手で机を持つ。移動するたびに五連型額縁がずれて落ちそうになるし、そちらを気にすれば机の足を地面にこすりそうになってしまう。どちらも傷つけないように慎重に運んでいると、背後から近づいてくる足音がした。

「お嬢さん。運びますよ」

 凛とした声には聞き覚えがありすぎる。まさかまた会えるなんて思ってもいなくて、フリッカは五連型額縁を落としそうになって慌てた。そこへ、さっと助けの手が入る。

(手、手ぇっ!!)

 ノエルの手が、フリッカの手ごと五連型額縁を持った。

「驚かせてしまったねって、またお会いしましたね」

 ふわりと、優しい笑みを見せてくれる。三度目の人生で健康的に過ごしたがフリッカの背はあまり伸びなかった。だからノエルとはそこそこ身長差があるのだが、そんな身長差からくる威圧感なんて全くない。

「フ、フリッカ・サージュです!」

「フフリッカ? もしかしてオドゥムト嬢から話をよく聞く、フリッカ・サージュ嬢かな」

「そ、そうです! エドラとは友達で」

「それなら僕のことも聞いているかな。ノエル・フォレットだ」

 ニカッと笑う。その笑顔は爽やかさの権化。その笑みに心奪われ、フリッカはぽーっとしてしまう。

「サージュ嬢。一人で運ぶのは大変だろう? 僕で良ければ部屋まで運ぶよ」

「あ、あの、フォレット様はなぜ、こ、ここに?」

「あれ? オドゥムト嬢から聞いていた話と違うね。彼女と話すときみたいに呼んでもらえないのかな」

「みゅぁっ……」

 フリッカと比べなくても体格の良いノエルが、首を傾げて聞いてくる。思わず奇声が出てしまうほど、恐ろしく可愛い。

(……これが恋の力か……)

 フリッカは真っ赤になっている顔を見られないように、下を向く。

「ご、ごめんねサージュ嬢。困らせるつもりはなかったんだ。ただ、オドゥムト嬢から出てくる話ではいつもそう呼ばれていたから」

「あ、あのっ……ご、ご迷惑でなければノエルさんとお呼びしてもよろしいですかっ!」

「もちろん。逆に、そう呼んでもらった方が何故だかしっくりくるよ」

 机を持つねと運び始めてくれたノエルに駆け寄る。

「あの、ノエルさんっ、ありがとうございます」

「気にしないでいいよ。庁舎からの帰りに気になって、戻ってきただけだから」

 今ノエルが馬に乗っていないということは、わざわざ馬を置いてから戻ってきてくれたということになる。そんな気遣いを受け、フリッカはノエルの歩く速度に合わせようと駆け足になる。ぱたぱたと走っている音が聞こえてしまったらしく、ノエルが立ち止まった。

「……ごめん。もしかしなくても、歩くの速かったね」

「い、いえっ。ノエルさんはお気になさらず」

「いいや、駄目だ。女性に合わせなければいけないと散々言われていたのに……」

 不甲斐ないと肩を落とすノエル。その姿と口調から、相当親しい相手から言われたのだろうと想像できた。

「も、もしかして、奥さま、ですか」

 名前で呼ぶことを許可されて、話しやすくて、つい聞いてしまった。しかしすぐに、気安く聞いてしまったことを後悔する。

 ノエルは眉間に皺を寄せ、険しい顔つきになった。

「ご、ごめんなさい! 不躾でした!」

「いや……妻じゃないよ。僕の婚約者がいないことは、知っている人は知っているからね。別に隠してはいないんだ。さっきもぽろっとあいつの言葉を口にしちゃったけど、僕の婚約者は五年前、名称も対処法もわからない新種の魔物に消されてしまったんだ」

 ノエルは、婚約者が死んでしまった悲しみをまだ乗り越えられていないのかもしれない。だから死んだ、ではなく、消されたと表現したのだろう。

 まだノエルの心の中には婚約者がいる。そう思った瞬間、フリッカは思わず泣きそうになってしまった。

(……そう、だよね。こんなに素敵なノエルさんだもん。貴族様だから奥さんを迎えていてもいいと思うのに……婚約者さんのことが大切なんだろうな)

 ノエルに自宅までの道を聞かれて答える。それ以外は、話すことができなかった。


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