2.7
四番街では生活できないだろうと早々に諦め、五番街を目指した。
五番街についた瞬間、言葉を失う。まず家が少ない。ぽつぽつと点在している家々は、家主にしか正解の道がわからないのではないかと思えるほど家の前に罠が仕掛けられている。落とし穴、何かの棘、入口のわからない玄関等々。なぜこんなことをするのかと疑問に思っていたが、すぐに判明する。
拠点を捜していたフリッカは、五番街が異質であると気づいた。道の至る所に、人が倒れているのだ。それは空腹だったり体調不良だったりと様々だったが、健康な人を見かけない。恐らく、家の中にいるのだろう。家の前の数々の罠は、自衛の手段なのかもしれない。
「み、みず……」
歩いていると、急に足を掴まれた。がりがりに痩せて骨が浮き出ているその人物は、まだ子供に見える。だからフリッカは、十年前の自分を思い出し、精霊魔法で水を出してあげた。
ゴクゴクと勢いよく水を飲んでいる姿は見るに堪えない。収監されていたフリッカでさえ、食事には困っていなかった。
「も、もっと……」
求められるまま、水を出す。しかしたった一人に水を差し出し続けられるほど、五番街は安全な場所ではなかった。
「ひっ……」
気がつけば、フリッカは多くの人々に囲まれていた。がりがりに痩せているのは共通だが、老若男女全てがフリッカを見ている。われもわれもと、水を求めてきた。
一人一人に水を出そうと思ったが、近くにいた老人に渡そうと水を出した瞬間、その老人が横へ飛んだ。
「おれが先だ!」「お前は引っ込んでろ!」「お腹に子供がいるんです」「おみず、ちょうだい」「どうか、お恵みを」
水を巡って次々と喧嘩が始まってしまった。その中心地でどうすることもできず、ただ立ち竦む。騒動の中から抜け出そうとしたが、誰かがフリッカの腕を掴んだ。
「水を寄越せ!」
引き倒され、フリッカに人々が集まる。踏みつけられ、蹴られ、地面を転がった。
(死にたくない!)
このままでは死んでしまう。そう思って逃げようとするが、何十人もの人に引っ張られてそれも叶わない。腕を引っ張られ、髪を踏まれ、なぜか口の中に指が入って頬を伸ばされる。むちゃくちゃにされている中、腹部が急に熱くなった。
「えっ……」
水をくれないのなら消えろと思われたのか。フリッカの腹部に、棒が刺さっていた。血が流れ、そこから魔力が零れているような感覚になる。
早く、治療しなければ。そう思うのに、四属性の力を両手に練り上げようと思うのに、できない。こんなときのための簡易魔法紙だと思うのに、懐に手を入れられなかった。
エイクエア諸島を出てから、たったの四日で、フリッカ・サージュは二度目の人生を終えた。
次回、第三話に入ります。




