2.6
手近なところでできる交流といえば、宿屋の主人だ。そして一度は逃げ出してしまった、パン屋の女性店員。積極的に話しかけてきてくれるパン屋へ挑むのはまだ早いと判断して、宿屋の主人へ挑戦してみることにした。
費用の面では戦えないかもしれないが、量を半分にしてもらうことはできるかもしれない。昼食の前に挑戦しようと思っていると、扉が叩かれた。
扉を開けると、宿屋の主人が昼食を持って来てくれていた。お礼を言おうとすると、眉間に皺を寄せて言われる。
「申し訳ないが、犯罪者は泊められない。この食事を食べたら、すぐに出ていってくれ」
「えっ……」
「犯罪者を泊めたんだ。前払いされた料金は迷惑料としてそのまま徴収させてもらう」
「それは……」
一方的に話してフリッカに昼食を渡すと、宿屋の主人は出ていった。渡された昼食は、少し硬くなったパン一つ。
「……現実は厳しいなぁ……」
恐らく、リレイオとの話を聞いていたのだろう。特に声を潜めていなかったし、出くわしたことはないが隣人が伝えたのかもしれない。昼食をもらえるだけまだ有り難い話だ。
フリッカは今後のことを考えて、一つしかない硬いパンの半分だけ食べることにした。精霊魔法で水を出し、口の中で少しでもパンの量を増やして誤魔化す。
パンを布で包んで鞄に入れる。そして宿屋を出た。
宿屋に前払いをしてしまっていたから、残金は三十リリイほど。これではパン屋でもパンを一つしか買えないだろう。三十リリイでは、新たに宿に泊まることもできない。
「……まだ、仕事だって何もできていないのに」
四番街を歩きながら、フリッカは一度目の人生のようにまた街中の人に見られている錯覚に陥った。その瞬間一度目の最後を思い出し、心臓がバクバクと激しく動き出す。
路地裏に入る前の道で心臓を落ち着かせる。
「大丈夫。大丈夫。わたしは、まだ大丈夫」
一瞬。ほんの一瞬だけ、一度目の人生のように騒いだらノエルが来てくれるかもしれないと思った。しかし、頭を振ってすぐにその馬鹿な考えを消す。
(せっかく、ノエルさんが罪人を殺すという犯罪者ではない状態なんだ。同じ事を繰り返すのは良くない。それに、もしまた会えるなら、元収監者であってもそれ以上の罪を重ねていない状態で会いたい)
悪人といえども死は平等だと言ってくれていた、凛々しいノエルの姿が目に焼きついている。そんなノエルに、恥じない生活をしたい。
フリッカは深呼吸をし、落ち着いてから次の拠点を捜し始めた。




