2.5
窓際に椅子を移動させて、外を眺めた。鳥が飛んでいたり、子供が遊んでいたり、平和そうな光景が広がっている。その中に、見慣れた顔があった。
暗紅色の髪を片方に流して三つ編みをするなんて、リレイオしかいない。一瞬だけ、リレイオの髪に青い色が見えたような気がした。
エイクエア諸島にしか生粋の魔術師はおらず、魔術師は皆髪や目に自分の属性が反映される。フリッカのように四属性なら全ての色を合わせた白金に四色の房が出る。火と土の属性を持つリレイオは、青い色が入るわけがない。
もしかしたら見間違いかもしれないと思って目をこらしていたら、見上げたリレイオと目が合った。
「フリッカ! 元気か」
「何で……というか、ちょっと待ってて」
フリッカは宿屋の主人に断りを入れ、リレイオを部屋に招いた。
「宿屋って感じだな」
「物を増やせるほど余裕はないから」
「資金が足りないなら」
ローブの懐から小袋を出したリレイオに、きっぱりと否を告げる。
「困る度にリレイオからお金をもらっていたら、独り立ちにならないじゃん」
「でも、困ってるんだろう?」
「それは、そうだけど……っていうか、どうしてここの宿屋がわかったの?」
「ああ、それは三番街から一件ずつ宿屋を回って来たから」
「なんで」
「なんでって、フリッカは全く世間を知らないんだ。そうなった原因のボクが責任を取らないと」
「確かにそうかもしれない。でも、族長同士が話し合って慣習通りに牢屋から出された。それなら、もうリレイオは関係ない。船に乗る前に時間がなくてお金をもらっちゃったけど、それ以上の助けは平等じゃない」
「平等、ね。別にそんな細かいこと気にしなくていいんじゃないか」
「ダメ。ただでさえお金をもらっちゃって平等じゃないんだから」
「族長が見回りに来るわけでもないんだから、楽したっていいんじゃないか」
「良くない。それが言いたいなら、もう出ていって。ルヴィンナのところに戻って」
リレイオの背中を押して宿屋の部屋から追い出す。すぐに立ち去る足音がしたから、フリッカの望み通り帰ったのだろう。
「ふぅ。さて、どうするか」
リレイオに指摘されて、フリッカはやはり自分が世間知らずということを自覚した。世間知らずならそれはそれで、色んな事を教わって世間を知っていけばいい。
そう思うのだが、如何せん人との交流に慣れていない。まずはそこから始めないといけないかもしれない。




