表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
新しい霊媒師編
81/81

【二十皿目(完)】死んだ者と残された者

 亡くなった相手を成仏させなくてはいけない掟と言うのは、本当に残酷なことだと、流星は改めて思った。

 それと同時に、暁美と春水の経緯が、自分と全く同じだったから、余計にそう思えたのだ。



 しかし、亡くなった人間を何年も成仏させないと言うことは、死んだ人間をいつまでも空腹を味合わせることと同義であることも、流星は知っていた。



「大丈夫か?」

 あれから、暫くその場で泣き濡れていた暁美が、ようやく顔を上げると、徐に朔太の側に歩み寄った。

「あ、暁美…?」



 暁美は朔太から、刀を取り上げると己の喉元に突き立てた。

「ばっ、何する気だ!」

「来ないで!私も春水さんのところに行く!春水さんがいない世界なんて、生きていけない!!」



 暁美が、刀を振り上げた時だった。

 暁美の心臓を貫く寸前で、陸が刃を握り締めた。



「そんなことして、なんになる」

「離して」

「自ら死んだら、どうなるかってことくらい、分かってるだろ」



 暁美は、ぐっと唇を噛み締めた。

「それに、あいつの言ったこと、覚えてねぇのかよ?」

 暁美は、停滞している脳をなんとか回転させて、春水の言葉を思い出す。



「朔太に言っただろ。ずっとあんたの側にいて、あんたを守れって。それはつまり、あんたは一人じゃないってことだ」



 暁美は、言葉を詰まらせると、力無く刀から手を離し、血まみれになった陸の手を、両手で包み込んだ。



「な…っ、なんだよ…っ」

 陸は、動揺気味に暁美を見つめる。

 何故か、鼓動が高鳴り、顔に熱を感じる。



 暁美は、ゆっくりと顔をあげて陸を見つめる。

「ごめんなさい…」

 ドキン!不意を打たれた陸の胸が、大きく胸が高鳴った。



(なっ、なんだ!これ!なんでこんなにドキドキするんだ!)

「おい」



 背後から、全身を突き刺すような視線を感じ、振り返ると、鬼のような顔をした朔太が、今にも襲いかかりそうな勢いで立っている。



「テメェ、いつまで暁美の手ぇ握ってんだよ!さっさと離せ!」

 何が起こったのか、動揺して瞬時に反応できなかったが、ようやく正気に戻った。



「なっ、何言ってんだよ!こいつが勝手に握ってきたんだ!俺は悪くねぇだろ!お前もさっさと離せ!」



 陸は、なんとか反論すると、半ば無理やり明美の手を振り解いた。



「あ、待って、怪我、治すから!」

「必要ねぇ、これくらい!こんなことくれぇで力なんか使うんじゃねぇ!」

「で、でも…っ!」

「いいって言ってんだろ!」



 遠目で三人のやり取りをハラハラしながら見ていた流星と明日馬だったが、ほっと安堵の息をついた。

「なんとか大丈夫みてぇだな」

「ったく、心配させやがって」

 


 ため息混じりに溢した明日馬は、ちらりと流星に視線を向けた。

 明日馬は、先程流星が明美に言っていた言葉を思い出していたのだ。



「なんだよ?」

「あ、いや、一緒だったんだなって…」

「何が?」



「春水さんと暁美さん。諸星さんと満月みづきさん」

 流星は、一瞬言葉を詰ませたが、架空を見つめるとゆっくりと口を開いた。



満月みづきもさ、同じだったんだよ。俺を化け物から庇おうとして、死んだんだ。俺が未熟だったから」

 明日馬は、流星のなんとも言えない表情を直視してしまい、胸が痛くなった。



「ご、ごめん…余計なこと聞いて…」

「ばーか。何謝ってんだよ。もう、過去の話だ」

 コツン、と後頭部を軽く手の甲で小突かれて、明日馬はさすった。



「言っただろ、いつまでも引きずってちゃダメだって」

 流星は意を決するような表情を浮かべると、腕を持ち上げブレスレットを見せる。



満月みづきは成仏したかも知れねぇけど、ここにいるからさ。だから俺は、料理人を続ける。辛い思いをして死んで言った霊達を、少しでも料理で幸せにする為に」



 明日馬は、一瞬面食らった顔をしたが、すぐにふっと笑みを浮かべると、同じようにブレスレットを持ち上げた。

「じゃあ俺も付き合ってやるよ」

「何が?」



「あんたが料理人でいられる為に、霊媒師エクソシストを続けてやる」

 流星もまた面食らった顔をする。



「なんだそれ、ずいぶん偉そうに言うじゃん」

「偉そうじゃなくて、偉いんだよ。俺がいねぇと料理だってできねぇんだから」



「それを言うなら、俺がいなけりゃ霊媒師エクソシストだっていらねぇだろ」

 二人はお互いばつの悪そうな顔して見つめ合うと、吹き出して声を上げて笑った。



「あれー?皆、何やってんのこんなとで?」

 暫く笑い合っていると、遠くから真昼と夕希の声が聞こえた。



「おー、昼禅寺と七夕じゃねぇか、どうしたんだよ?」

「どうしたじゃないわよ!分かったのよ、朔晦朔太の正体!天使に聞いたら、昔亡くなった幽霊が憑依した化け物…って、何してたの?あんた達?」



 真昼が何やら宴会でも開いていたかのような雰囲気に気づいて、中途半端に言葉を切ると、流星がポンと真昼の頭に手を置いた。

「いいんだ、もう。全部終わったから」



「終わったって何がよ?」

 勝手に完結させる流星に、真昼は全く飲み込めず、顔を顰める。



 だが、流星はそれ以上は何も言わず、笑っているだけだ。

「ちょっと、一体何が終わったってのよ、ちゃんと説明しなさいよー!」



 夕焼け空に真昼の大声が響く。

 そしてこの後、また一人の幽霊が流星軒を訪れる。

 空腹を満たす為にー…。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ