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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
新しい霊媒師編
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【十八皿目】もう一人

 なんだろう?この光は?とても、温かくて優しい光だ。

 暁美は、朦朧とする意識の中で、過去の記憶を思い出していた。



 それは、朔太との出会った頃からの記憶と、そしてもう一人、同期であり孤独だった自分を救ってくれた、今は亡き同僚との尊い記憶。



 暁美は、うっすらと目を開けると、視界には眩しい程の金髪が飛び込んで来た。

「良かった!目ぇ、覚ました!!」



 暁美は、何が起こったのか良く理解できず、ただただ流星を見つめる。

「私…?」



「覚えてねぇのか?斬られたんだよ、あいつに!」

 暁美は、ようやく思い出したのか、斬られた箇所をそっと撫でる。



 結構深く斬られたような気がするが、今はもう痛みはない。

 なんで、と聞こうとしたが、流星の表情を見ただけで全て理解できたので、言葉を飲み込んだ。



 先程まで安堵していた流星が、突然自分の上に覆い被さって来て、思わず肩を竦めた。

「ちょっ、大丈夫?!」



「大丈夫、大丈夫!これ、結構体力使うからちょっとフラついただけ」

 ははは、と笑う流星に、暁美はなんだか申し訳なく感じて胸が締め付けられた。



「それにしても、なんなんだ?あいつ。急に人が変わったみてぇに。なんつーか、まるで…」

 そこまで言うと、流星は口籠った。


 

 流星が言わんとすることを汲み取った暁美は、俯いてポツリと呟いた。



「あれは…、今の朔太は朔太であって朔太じゃないの」

「朔太であって朔太じゃない?」

 


 流星は混乱した。確かに、あれは自分が知ってる朔太ではない。

 しかし、朔太でなければ一体なんだと言うのだろう?



 化け物か?いや、それも違うような気がする。

 化け物と言うよりも、あれは、ただ人格が変わった人間のようだと流星は思えたのだ。



「あれは…今の朔太はの中には、別の人格が宿ってるの」

「別の人格…?」

「あれは、昔、私を化け物か庇って死んだ同僚、いえ、恋人なの!」



 流星は耳を疑った。

 自分を庇って死んだ恋人、それはまるで自分と満月みたいだと、そう思ったのだ。



 満月みづきもまた、自分を化け物から庇い死んで行った。

「生まれ変わったら、また流星と一緒にご飯を食べたい」、そう言い残して。



 流星はふと、ある疑問が脳裏を駆け巡った。

「でも、あんたも料理人だろ?なら、なんで今まで成仏させなかったんだ?」



 ポタリ、と流星の頬に一粒の熱い雫が伝い落ちた。

「…たから…」

「え?」



「ずっと、一緒にいたからったから。だから、成仏させなかった。ダメなことだと分かっていたのに…っ!」



 流星は、自分と似ていると思った。

 すぐに成仏させないといけないのに、いつまでも成仏させずにズルズルとこの世に止まらせてしまった自分と。



 いや、正解には全く同じと言い訳ではない。

 満月みづきの一番好きな食べ物が分からなかったことは本当だ。

 

 だが、すぐに成仏させなかった、と言う点では同じだと思った。



「好きな食べ物は、分かるのか?」

 暁美は、一瞬目を見開いた。

「あんたの気持ちは良く分かる。俺もそうだったから。でも、人間は死んだら成仏させなくちゃいけない。それは料理人だからとか、霊媒師エクソシストだからとかじゃなくて、この世の掟だから。分かるよな?」



 暁美は、ゆっくりと頷いた。

「好きな食べ物は分かるか?」

 暁美は、また、こくりと首を縦に振ると、流星は重い腰を持ち上げた。



「だったら、作るぞ」

「え?」

「あいつの一番食べたいもの」

 






 キィン!ガガガ!ガギィン!ドガガガガ!


 三つの鈍い金属音が、晴天の中、火花を散らして交差し合う。


「おい!一体どうなってるんだよ!こいつ、斬っても斬っても成仏しねぇぞ!」

 荒々しく息を上げながら、陸が叫ぶ。


 先程から、何度も斬っているのに、全然成仏する気配がないのだ。



「知らねぇよ!そんなの、俺だって聞きてぇよ!」

 明日馬が陸に文句を叫んでいると、朔太が上段構えで明日馬を目掛けて刀を振るう。



 なんとか寸手のところで受け止めたはいいが、腕に痺れが走り思わず怯んでしまう。



「おらおら、どうした!ガキが!威勢がいいのは口だけか!」

 朔太は、容赦なくまた刀を振り上げると、電光石火の如く振り下ろす。



 その度に、砂が舞い身体中にビシビシと



 受け止める度に腕にビリビリと強い痛みが走り受け止めるのがやっとだ。

 それに加え、舞い飛ぶ砂が全身に当たり、一種の凶器のようで、それを受けるだけでも体力が消耗しそうだ。



 明日馬は思わず、こちらはただ受け止めることしかできおないと言うのはやはり、いささか理不尽に感じてしまう。

 だが、もう斬らないと誓った以上、斬る訳にはいかない。



 なんとか大勢を持ち直そうと、明日馬が刀を振り払おうとした時だった。

 急に視界から、朔太が消えた。



 かと思ったが、朔太は軽く地面を蹴ると、身を捻って宙を舞った。

「な…っ!」

 明日馬が振り返ろうとした時には遅く、背後から物凄い威圧感を全身に感じた。



 朔太が明日馬を目掛けて刀を振り下ろそうとした瞬間、美味しそうな香りが鼻腔を掠めた。

「これだろ?あんたが今一番食いたい食べ物!」



 そこには、いろんな種類の肉が用意されていた。

 朔晦朔太の…いや、暁美の恋人こと、清水春水しみずしゅんすいが今一番食べたい物、焼肉の材料がそこにあった。

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