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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
新しい霊媒師編
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【十三皿目】暁美の力

「それ、本当なの?」

 真昼は、軍に帰るなり早速天使の元に向かい、昨日のことを報告した。

 広間には、昼も近いと言うのに、昼彦以外の全員が集まっていた。



 すると、天使の口から意外な事実が飛び出したのだ。

「そうだよ。朔晦朔太はニ年前に死んだ、元霊媒師エクソシストだ」



 真昼は、頭に一つの疑問が浮かんだ。

 何故、自分がその存在を知らないのだろうか。

 一年前ならば、丁度自分も入隊しているから、知らないのはどう考えてもおかしい。



 天使は、それはそうだ、とあっさりと言ってのけた。


「だって、彼は入隊してすぐ、自分から脱退したんだもの」



 真昼は、思わずはぁ?と間の抜けた声を出した。

「入隊してすぐ、脱退したって、なんで?そいつもなんかやらかしたの?千影みたいに」



 嫌味のように言われて、千影は、ギロリと真昼を睨みつける。

 真昼は、それを感じ取ったが、突っ込むと色々面倒臭そうだと、敢えて無視した。



「…暁暁美…」

 朝成の隣に座っていた麻亜夜が、全てを理解しているかのように、ボソリとその名前を口にした。



「麻亜夜、知ってるの?」

「そりゃあ、知ってますよ。だって、彼女は私達と同期だったんですから」

 


 真昼は、また耳を疑った。

 同期、と言うことは、麻亜夜が二十五歳だから、二十歳は過ぎている年齢と言うことになる。



 そして、朔太が学ランを身に纏っていると言うことは、少なくとも朔太は十八歳より下な筈だから、暁美とは

二つは離れていることになる。



 いや、今は年齢がどうのなどと言う情報はどうでもいい。

 真昼は、頭を現実に引き戻した。



「それで、なんで、二人は入隊してすぐに脱退したの?」

 真昼の単刀直入な質問に、天使はふぅむ、と顎をさする。



「それがね、見えなかったんだよ」

 真昼は、眉をひそめる。

「見えなかったって、何が?」



「幽霊の今、一番食べたいものが」

「はぁ?」

 真昼は、また、変な声を出した。



 そもそも、料理人とは、幽霊が今一番食べたい物が見え、それを提供できるのではないのか?

 なのに、それが見えないのに、料理なんて作れる訳がないのだ。



 天使は、表情を変えることなく続けた。

「いやぁ、僕もね、そう思ったんだよ。でも、彼女はそれができたんだ」

「どうやって…」



 天使は、先程よりも低めのトーンで話し始めた。

「彼女は知ってたんだよ。食の本質そのものが」

「食の本質そのものって?」



「僕達料理人は、幽霊が一番好きな食べ物を提供することで幸福を与え、成仏させる。でも、彼女は、食そのものが少なからず、幸福に直結すると言うことを知っていたんだ」



 天使は、そこで一度言葉を切った。

「だから、一番好きな食べ物が見えなくとも、美味しい料理を作ることで、成仏させることができたんだよ」



 真昼は、意味を理解できたような、できなかったような、複雑な気分になった。

 言われてみれば、幽霊に限らず、私達人間は、毎日好きな物ばかりを食べて生きて来た訳ではない。



 不味い物こそ食べていた訳ではないが、多少なりと何も考えず生きる為に必要だから食べる、ただそれだけを考えて生きて来たのだ。



 だから、幽霊の全てが一番好きな食べ物を与えずとも、最低限美味しい食べ物を与えれば成仏させることができる、そういう理屈だったのだ。



 今まで真昼は、暁暁美は流星とは違うジャンルの料理が作れるだけではなく、今までの料理人とは一線ー画した、特別な能力を持った料理人か何かだと、すっかり騙され、勝手に期待していたことに気づいて、思わず脱力してしまった。



 それにしても、と真昼はもう一つ別の疑問が浮かんだ。

「じゃあ、なんであの子は、さも一番好きな食べ物が分かっているかのように振る舞っていたの?」



 真昼は、最初に暁に出会った時、暁美は確かにこう言っていた。

「見えるから、あなたが一番好きな食べ物が」、と。



 天使は、うーんと唸り声を上げると、困ったようにがしがしと頭を掻いた。

「恐らく、自分も見える料理人になりたかったからだろ」



 その答えを言ったのは、天使ではなく、朝霧だった。

「暁美は、美影と一緒で、料理人を凄ぇ尊敬してたからな。だから、料理人とは違う能力を持った自分を許せなくて、せめてそう見えるように真似てたんだろ」



 なるほど、と真昼は納得した。

 でも、まだ全てを理解できた訳ではなかった。



 だったら何故、一番好きな食べ物を見える料理人が存在するのか。

 そんな料理人が、二年も成仏させないのか。



 もしかして、一年過ぎたら自動的に化け物になることを知らないのだろうか?

 それにしても、二年も経っているのなら、化け物になってもおかしくないのに、まだ人間の姿を保っていることが、そもそもあり得ないことだ。



 何年も人間の姿を保つ薬や、術具があるとも考えにくい。

 問題が一つ解決する度に、また一つ新たな問題が増えて行く。

 真昼は、頭がパンクしそうになる手前で、冷静さを取り戻した。



「まぁ、なんにせよ、これ以上考えてもキリがないわ」


 色々考えた末、真昼はとりあえずこの問題を保留することを選択した。



「そうだね。今はとにかく、一日も早く朔晦朔太を成仏させることが優先だ。それ以外のことは、それから考えても遅くはないだろう」

 天使のその言葉で、本日の会議は終了した。


 

 いくつかの問題を残して解散し、真昼が広間を出ようとした時、麻亜夜に引き止められた。

「ちょっといいかしら?聞きたいことがあるのだけど」

「いいわよ、私もいっぱい聞きたいことがあるから」



 真昼は、自分が真っ先に聞きたい衝動に駆られるのを押さえて、麻亜夜にその権利を譲ることにした。

「バレンタインのことなんだけど、何にするか決まった?」



 真昼は、耳を疑った。

 本日、これで三回目である。

 先程の会議のことかと思ったら、全く意図しない内容で、肩の力が抜けてしまった。



「なによ、そんなこと?」

 真昼は思わず本音を漏らしてしまったが、麻亜夜は気にも止めていない様子だ。



 彼女との付き合いは、かれこれ二年程なのだが、普段クールで何を考えているのか分からない鉄面皮かと思いきや、ごく稀にこう言うバレンタインなどと言う浮わついたイベントなんかに食いついたりするのだから、案外可愛いとこもあるのだな、と思わせる。



 これは本人の前では決して口には出さないが、朝成も実はこう言うところに惹かれたのではないか、と思う。



「もしかして、まだ決めてないの?もう明後日よ?」

 真昼は、急速に思考回路を先程の会議ではなく、バレンタインの話に切り替えた。



「ごめん、まだ何も決まってないわ。色々、忙しかったから…」

 少し言い訳がましく聞こえるかもしれないが、実際朔晦朔太の一件で、それどころではなかった。



「まぁいいわ。明日、材料買いに行く予定だから、それまでには決めておいてね」

 そう言うと、麻亜夜は、バレンタインから話題を戻し、真昼が聞こうとしていたことを聞いて来た。



 真昼は、その内容を思い出したはいいものの、すっかり聞く気が失せてしまい、深く溜め息をついて、「もういいわ」と投げやりに答えた。

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