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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
新しい霊媒師編
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【四皿目】美影の料理人、誕生

 美影の力を確認した流星は、ニヤリと満足げな笑みを浮かべると、一つの質問を投げかけた。

「一つ、聞いていいか?」

「なんでしょうか?」



「なんでソースを使わなかった?コロッケと言えば、だいたいソースだろ?」

 流星の質問に、明日馬はそういえば、と声を上げた。



「見えたんです。彼の一番食べたいものが、ソースをかけたコロッケではなく、商店街のお肉屋さんのコロッケで、ソースを使わないで食べていたところを」



 流星は、なるほどな、と感心した。

 美影には、一番好きな食べ物だけではなく、好みの食べ方まで全て見えていたのだ。



 流星は、ポンと優しく美影の頭を撫でると、

「合格だ!」

 と言った。



 美影は、パッと満開の花が咲いたような笑みを浮かべた。

「ありがとうございます!」

「よし、それじゃ、部屋案内するから、明日馬は後片付け宜しくな」



 明日馬は、すっかり慣れたようで、へいへい、と気のない返事をすると、食器を片付けを始めた。



◇◆◇



 キーンコーン…。

 昼休みのチャイムが鳴り、流星と明日馬は屋上に向かう。



 重たい鉄の扉を開けると、目の前には見慣れた顔が弁当をつついていて、明日馬は毛虫でも見るような顔を浮かべた。



「なんでいる?」

「この学校の生徒だから?」



 当たり前のようにさらっと言われて、明日馬は既視感を覚えて深い溜め息を付くと、朔太の隣に座っていた暁が、明日馬から守るように朔太の前に躍り出た。



「それ以上、朔太に近づくことは許しません!」

「大丈夫だよ、暁美。ここは学校だし、刀も持ってねぇし」

「朔太がそう言うなら…」



 朔太に諌めれて、暁美は案外とあっさり身を引いた。

「いやぁ、びっくりした。まさか同じ学校だったのか!」



 警戒心を剥き出しに、流星と同じ紫の目で睨む暁に特に動じることなく、笑っている流星に、朔太は嘲笑う。

「つーか気付かなかったのかよ。ずっと前からいたし、制服だって同じだろうが」



 言われて、そういえば、と流星は改めて朔太の服装を確認する。

「それと、年上には敬語使えよ」



 どこかで聞いたことのあるような台詞だと明日馬が思い出していると、言われてみれば同じ黒の学ランで、上履きは赤、つまり流星と同じ二年生であることが分かる。



「まぁまぁ、固いこと言うなって。同業のよしみじゃねぇか」

「同業ねぇ…」



 流星は、年上だろうがお構い無しに、隣に座り弁当を広げる。

「日向も、早く食わねぇと休憩終わるぞ」

 明日馬は、もう何も言うまいと深く溜め息を付くと、流星の隣に腰を落ち着けた。



「弁当、自分で作ってんの?」

 流星は、和食中心の自分の弁当とは全く逆の、洋食がメインの朔晦の弁当を興味を示す。



 馴れ馴れしい言葉遣いを注意したにも関わらず、相変わらずの口振りに朔太は溜め息混じりに答える。

「んな訳ねぇだろ。暁美だよ。俺、料理できねぇし」

 その言葉を聞いた日向は、鼻で笑った。



「なんだよ、先輩面してるくせに料理もできねぇのかよ。情けねぇなぁ!」

 ここぞとばかりにマウントを取る明日馬に、流星が相変わらずの生姜焼弁当を見つめる。



「お前、良くその程度の料理で威張れるな」

「ほっとけ!」

 まるで、獣のように喉を鳴らして流星に噛みつく明日馬に、朔太は笑い声を上げた。



「お前ら、面白ぇな。仲いいんだか悪いんだか分かんねぇや」

 暫く朔太が笑っていると、ふと明日馬が暁美に視線を向けた。



「なぁ、ずっと気になってたんだけどさ。その人って…」

 ひとしきり笑った朔太は、明日馬が最後まで言葉を紡ぐのを遮った。



「幽霊だよ。二年くらい前に死んだんだ。化け物と戦ってる時にな」

 暫しの沈黙が流れたが、流星はすぐにその沈黙を破った。



「同じ料理人と霊媒師エクソシストなら、知ってるよな?霊が一年以内に成仏しなかったら、どうなるか」

 朔太は、ほんの僅かながら眉を潜めた。



「知ってるよ」

「だったら…!」

 流星ではなく明日馬がその言葉の続きを言おうとしたが、流星は制した。



「分かってるなら、それでいい。でも、なるべく早く成仏させろよ。じゃねぇと、俺の回りには化け物の存在を嫌ってる奴が何人かいるから」



 流星が言っているのは恐らく、常陸陸や御影池千影のことだろうと明日馬は悟った。

「…忠告ありがとよ」



 朔太はそういうと、最後の一口を口に放り込み、弁当箱を片付け、未だに明日馬を睨み付けている暁美に声をかけ、まだ時間があるにも関わらずさっさと教室に戻って行った。



「いいのかよ?あのままで?」

 朔太達が立ち去るのを見送った明日馬は、不服そうに流星に聞く。



 流星は、目では笑っているものの、どこか寂しそうな表情で、手首に揺れる、ブレスレットに視線を落とした。



「今はそっとしておいてやれ。亡くなった人と決別するのは、そう簡単なものじゃねぇからな」

 流星は、満月みづきのことを思い出しながら、そう言うと、ある人物のことが脳裏に浮かび、唸り声を上げた。



「それより、あいつがどうするかだよな…」

「あいつ?」

「陸だよ。絶対認めねぇだろ」



 同じことを考えていた流星に、明日馬はああ、と眉を潜める。

「陸に斬られる前に成仏できればいいんだけどな…」



 ぽつりと独り言のように呟く流星に、明日馬はふと、流星には既に暁の好きな食べ物が分かっているのかと聞こうとしたが、野暮なような気がして、言わないことにした。



◇◆◇



「軍にいないからどこに行ったのかと思えば、やっぱりここにいたのか」

 用が終わり、久し振りに自分の店に戻った空閑が、戸を開けると、黄色い髪の青年が、主を待つように、玄関に座り込んでいた。



「遅ぇよ、おばさん。いつまで待たせんだ」

「相変わらず口の悪いガキだねぇ、あんたは」

「ガキ扱いすんじゃねぇっつってんだろ。二十七歳だぞ」



 やれやれと、悪口を言われると、黄色い髪の青年は、反論する。



「どうでもいいけど、陸、なんでここにいるんだよ。いい加減、あたしの護衛なんて止めて、天使の言うこと聞いたらどうだい」

 黄色い髪の青年改めて常陸は、はん!と鼻を鳴らして一蹴した。



「俺がそんなもん聞かねぇことくれぇ知ってんだろ。あんたにその気がなくても、俺はいつまでもあんたの護衛だ!」



 空音が、深い溜め息を付くと呆れたような表情を浮かべる。

「全く、流星は成長してるって言うのに、あんたの時はいつまでもあの時のままだね…」



 陸は、一瞬行き詰まると、鋭い目で空音を見つめる。

「俺は、天道なんか絶対認めねぇ。本当なら、あの一件がなければあんたが軍を追われることはなかったんだ!全部あいつが、天道が悪いんだ…っ」



 奥歯を噛み締めて、思いの丈を吐いた時、遠くから化け物の咆哮が聞こえた。

 すると、陸は素早く刀を解放させると、店を飛び出して行った。



 空音は、陸の思いを否定する訳でも肯定する訳でもなく、ただその後ろ姿を見送った。

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