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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
霊媒師《エクソシスト》編
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【二十六皿目〈終〉】食

 全てが終わり軍に戻った時は、世間はとっくに大晦日も年越しのカウントダウンも、正月さえも過ぎ、冬休みも残り一週間を切ろうとしていた。



 皆が軍に戻ると、御影池姉妹の処罰について話し合った結果、千影の犯した罪は本来ならば、軍を永久追放どころか、死刑に値するものであったが、麻亜夜の目は、海原のお陰で回復した為、特に厳罰を与えられることはなかった。



「やはり私は、料理人になることは、できないのですか?」

 軍の大広間で、それだけはどうしても譲れなかった美影が、天使に聞いた。



 天使は、曇りのない目で美影を見つめる。

「そうだね。確かに君は料理人の素質は十二分に備わっているよ。でもね…」

 歯切れ悪く口を閉じると、天使は瞼を持ち上げた。



「持病の、ことですか?」

 天使が言う前に、美影が包み隠さず聞いた。

「そうだね…。料理人の仕事はなかなかハードだし、その身体じゃ君も何かと辛いだろ。だから…」



 不意に、襖の向こうから複数の気配を感じて、口を閉じると、隣にいた昼彦も気付き、立ち上がり襖に向かって歩き出す。

「ちょっ、待てって、朝成さん!押すなって!」



 昼彦が、勢い良く襖を開け放つと、そこには流星、明日馬、朝成の三人が聞き耳を立ていた。

「や、やぁ!当主殿、ご機嫌いかがですか?」



 などと、流星に言われて、昼彦は額に青アザを浮かべた。

「さっきまでは良かったんだけどね。君のおかげですっかり急降下だよ」



「それは、それは!大変申し訳ございませんね!いや、なにせ、朝成さんが無理矢理連れて来たもんだから!」


「おら、てめぇ、俺のせいにする気かよ!もとはと言えば、お前が言い出したんだろうが!!」



 朝成の言葉に、昼彦の額の青アザはまた増える。

「へぇ、大事な話を中断させてまですることかな?」

「あ、そのことなんですけどね。話は全部聞かせて貰いました」

「まぁ、そうだろうね。それで?」




「俺から、一つ提案があるんですが、聞いてくれます?」

「へぇ、いい度胸だね。言い付けを破った上に、盗み聞きした挙げ句、僕に意見するなんて」



 流星は、臆すことなく、満面な笑顔で続ける。

「その、御影池さん達のことなんですけど、どうですか?この際、二人共軍に入れてあげても。料理人不足なんでしょ?」



「あのね、話聞いてた?千影はともかく、美影には病気がある。ここの仕事は楽じゃないんだ。だから…」

「だから!俺の店に置けばいいんじゃないですか?アルバイトでも、なんでも。あそこなら、軍と繋がってる訳だし、優秀な護衛もいるし!」



 思いがけない提案だった。

 それならば、軍にいるよりは危害は少ないだろうし、一応、護衛もいる訳で、昼彦にとっても、御影池姉妹にとっても、悪い話ではない。



「いや、でも…」

 昼彦が口を開いた時、天使が大声を出して笑い出した。

「なーるほどね!その手があったか!全然思い付かなかったよ」



「だろ?」

 得意気に相槌を打つ流星に、ひとしきり笑った天使は、美影に合意を求めた。



「だそうだけど、君はどうかな?直接軍に入隊する訳じゃないけど、あそこなら、料理人として働ける」

 美影は、暫し呆然としていたが、我に帰ると不意に頬に熱い雫が伝って、流星に向き直り、深々と頭を下げた。



「不束者ですが、宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しく!」

 と、言った。



 話が一段落付き、天使の合図で解散しようとした時だった。

「さーて、解散かいさーん!」

「まだ話は終わってないよ」



 昼彦に引き止められた流星と朝成は、ビクッと肩を震わせた。

「君達の処罰の件、まだ解決してないんだよね」



「えーっと、なんのことだでしたっけ?」

 シラを切る二人に、昼彦は輝かしいまでの満面な笑みを浮かべている。



 そして、流星には命令違反の処罰を、朝成には流星を止められなかったことの処罰として、それぞれに一週間の料理当番と、皿洗いを命じた。


 

◇◆◇



 その夜、軍では久し振りに全員が一堂に介し、宴会さながらの夕食会が開かれた。

 その時に空音に聞いた話なのだが、龍海の能力は本来、ただ見えない料理人ではなく、回復能力の備わった料理人らしい。



 その能力は空音の治癒能力とはまた違うものであり、龍海が作った物を食べた者は皆、食すると言うことの幸福感とは別に、食べたものは皆、さながら特別な力を得たかのような気分になっていた。



 だが、何故か本人はそのことについては、料理人の力ではないと全く否定しており、そもそもそれが食本来の持つ能力なのだと言い張って、認めなかったのだそうだ。



 何故なら龍海は、料理人になる為に必要条件である、見える力は全くもって皆無だったのだ。

 しかし、その能力は他の誰でもある物ではないと、誰よりもいち早く気付いた空音は、龍海を従者として迎えることを決意したのだと言う。



「そらぁまぁ、最初は色々言われたで、俺も。空音ちゃんの従者になりたい人間は他にも何人もおったから」

 酒を片手に顔を真っ赤にさせた龍海が笑う。



 忙しなく空になった皿を片付けては、新しい料理を追加する流星が、口を挟む。

「そういえば、満月みづきによろしくって言ってたのに、全然気づかなかったわ」



 酒を流し込もうとした手を止める。

「そういえば、成仏したんやね、満月みづきちゃん」

 一瞬言葉に詰まらせた流星だったが、ブレスレットに手を当てて、ゆっくりと口を開く。



「正直、満月みづきが成仏した時は、ずっと毎晩泣いてたよ。でも、それじゃ駄目だって、思ったんだ…」

 その言葉とは裏腹に辛そうな表情を感じ取った龍海は、流星の肩を組み、ぐいと無理やり引き寄せると、頭を乱雑にぐしゃぐしゃと掻き乱す。



「おー、偉い偉い。ちょっとは成長したんやねぇ」

「ねぇー、流星!こっち、料理まだぁー?」

 真昼に呼ばれると、分かった分かった、と苦笑いを浮かべ、龍海に解放されて、慌てて料理を運んだ。



◇◆◇



 すっかりほろ酔いモードになった朝成に絡まれて、流星と明日馬と、そしてすっかり流星に懐かれた陸達は、縁側でせめてもと、自分達で買った花火をしていた。



「なんで俺まで、お前らと花火なんざしなきゃいけねぇんだよ」

 ロケット花火を数本持って、いまだにぶつくさ言ってる陸に、流星はまぁまぁと肩を組み絡む。



「その割には楽しんでるじゃん」

 深くため息をつくと、半ば諦めながらも流星を睨み見る。

「年上に敬語使わないと怒られるぞ」



 まさに今言わんとしてた台詞を、明日馬に取られて陸は言葉を飲んだ。

「あ、そういや二十七歳なんだっけ。ちっこいから分からなかった」



 その一言が悪かったか、陸は額に青あざを浮かべる。

「あのなぁ…、チビチビ言うけどな、162㎝だっつの!そもそもあいつらがでかすぎるんだよ!!」



 ビシッと朝成と天使達を指さして、怒鳴り声を上げると、隣で陸の真似をしてロケット花にを数本着火した朝成に、ぐしゃぐしゃと頭を撫で回される。



「いいじゃねぇか、チビはチビなりに小回り効いていいだろ」

 その言葉がトドメだったか、刀を解放した陸はギラリ、と刃をちらつかせる。



「てめぇら…そこに並べ!叩っ斬ってやる!!」

「よーし、、そろそろ打ち上げ花火するわよー!」

 ライターを手に待ち構えていた真昼の声と同時に打ち上げられた花火により、陸の声は虚しくもかき消されてしまった。



「今年も宜しくお願いしまーす!」

 全く自分の話など聞いていない皆に、陸は、理不尽だ!!と大声で叫んだ。



 ちなみにどうでもいい情報ではあるが、陸が比較対象とした男性陣の身長だが、天使が181㎝、龍海が176㎝、朝成が184㎝である。

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