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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
霊媒師《エクソシスト》編
55/81

【二十一皿目】千影の覚悟

「恐らく、今夜が峠です」

 今日の朝、学校に行く前に病院を訪れた千影と母親に、医師はそう告げた。



 母親はあれからなんとか回復したが、父は変わらずずっと危篤状態であった。

 来る日も来る日も千影は父の回復を祈り続けた。



 しかし、運命と言うのは千影が思っている以上に残酷で、父はそのまま帰らぬ人となる。

 千影は薄々そうなることを知っていたのだろう。



 だから、いつ死んでも、父が霊媒師エクソシストなんかに成仏させないように、自分が料理人の力を得なければならなかった。

 それは、二年前から願い続けてたことなのだ。



 万が一、運良く料理人に出会えれば痛みを感じることなく、安らかに成仏できるが、自分が軍にいた頃の料理人の存在がいかに数奇な物かを知っていたからこそ、その保証もないことも良く知っていた。



 自分がまだ軍にいれば、料理人に頼むと言う手段があったのだろうが、軍から影響に終われた身となっては、その手立てすらなかった。



 仮に、今の自分が料理人に会ったところで、過去に大罪を犯した自分のことなど、きっと聞いてはくれないだろう。



 だから仕方なく、料理人を自らの手で刺し、力を奪うと言う選択肢に行き着いたのである。

 例え、それが、掟に反することであろうとも。



 もう、引き換えせない。

 千影は、覚悟を胸に、刀を握りしめ、また刺し損ねた金髪の料理人の元へ向かった。



◇◆◇



「さっきはごめん…。胸、大丈夫か?」

 朝成から解放された明日馬は、台所で後片付けをしている流星に謝罪の言葉をかけた。



「いいって!無意識だったんだろ?しゃーねぇ、しゃーねぇ!」

 ヒラヒラと手を振って存外元気そうな流星に、明日馬は安堵の息を付く。



「それに、そのお陰で満月みづきの力が発動したんだしさ」

 明日馬は、流星の手に光るブレスレットを見やると、腕捲りをして手伝う、と流星の隣に立った。



「おー、手伝ってくれんの?さんきゅー」

 明日馬は、思わず目を丸くした。

「どうしたんだよ?どこか頭打ったか?」

「なんでそうなるんだよ?」



 流星は、はははと笑いながら皿を洗い出す。

「いや、あんたが礼言うなんて珍しいと思って。店にいた時なんか、無理やりやらせても言わなかったのに」

「そうだっけ?」



「いやぁ、人数多いと洗うの大変でさぁ。皆手伝ってくれねぇ、くれねぇ」

 尚も笑ってる流星に、明日馬も釣られて笑う。

「日頃の行いが悪いからじゃねぇの?」



「俺、いいことしかしてねぇんだけどなぁ~」

 その言葉は本気なのか、冗談なのか、少なくとも日向はまた流星に対する恨みが一つ増えたが、話題を変えた。



「そのブレスレット、月見山やまなしさんのなんだっけ」

「そ。満月みづきの葬式の時におっさんが形見だってくれたんだ」



「やっぱ皆のとはデザイン違うのな。全然気づかなかったわ」

「物欲しそうに見たってやらねぇぞ〜」

「誰が」



 苦笑いを浮かべていると、明日馬はふとある疑問が浮かんだ。

「でも、なんで今回に限って反応したんだ?前にも似たようなことがあった時には何もなかったのに」



 流星は、そういえばと小首を傾げる。

その時と今回との違いを模索していると、ある考えに辿り着く。



(もしかして、もう誰も傷つけたくないと思ったから…?)

 なるほどな、と一人で納得すると、ふっと口元が緩んだ。



「俺はいいけどよ、お前は分かったのか?あの現象の原因」

 明日馬は皿を洗ってた手を止めて、首を横に振る。



「結局何も分からなかった。いつからそうなったかすらも分からないんだ…。ただ、その時になると誰かに名前かの声が聞こえるのは、覚えてるんだけど…」



 いつも暴走する前に見る、自分を呼ぶ女の影。

 そして、御影池千影のまるで自分を恨むかのような、あの言葉。



 自分は、一体過去に何をしたと言うのか。

 日向は、過去の記憶を辿ると、いつも思い出せない部分があるのだ。



 おそらくそれが、自分が暴走したきっかけで、それを思い出したら女の正体も思い出すことができるのかもしれないのに…。



 明日馬は、問題だらけの現状に、深いため息をついて皿洗いを再開した。



◇◆◇



 その翌朝、流星軒では朝食の支度をしていた。

 やっと起きて来た空音が、寝ぼけ眼でせきに着こうとした時だった。



 カラカラと音を立てて玄関の戸が開いた。

「おや、こんな朝早くからお客さ…」

 中途半端に言葉が途切れた空閑が、目を見開いてその場に立ち尽くす。



「あら?また懐かしい人に会えたなぁ。金髪のあの子を狙うつもりだったんだけど、あなただったらどうなるかなっ?!」



 大きく刀を振り上げた時、いつの間にか刀を抜いた天道が、すかさず合間に割って入り、千影の刀を受け止める。



「やぁ、やっぱり来たね。待ってたよ」

「わぁ!今日はどうしたの?軍の人たちが揃い踏みじゃない!」



 千影は、刀を弾き距離を取ると、力強く地を蹴って再び突進する。

 天使の腹部分を狙って、刀を振るうが、あっさりとかわされてしまった。



「ふーん。軍の当主になってからは戦わなくなったって聞いてたけど、腕が落ちた訳じゃないようね」

「まぁ、おかげさまでね。まぁそこのおばさんは、ただの金物屋に成り下がったけどね」



 意地の悪い笑みを浮かべると、刀を弾き地面を蹴って宙を舞い千影の背後に周ると、腕を捻り動きわ封じた。



「一つ聞いていいかな」

「何よ?」

「なんでまた料理人を襲った?君は二年前に永久追放された筈だ。なのになんでまた同じことを繰り返している?」



 千影は、ぐっと唇を噛み締める。

「ある人を守る為よ」

「ある人って…?」

「私にはもう時間がないの。お願い、離して」



「駄目だ。二度も同じことを繰り返させる訳には行かない」

「それでも…っ!」

 千影が、無理矢理にでも腕を振り解こうとした瞬間、化け物の咆哮が当たりに響いた。



「なっ、何何、どうしたん?!」

 やっと目を覚ました龍海が、階段を駆け降りて来たその時、その光景に思わず目を疑った。



 天使と空音が、血を流して倒れている。

 それに加え、何故か今回の一件の張本人である、御影池千影が化け物と戦っているではないか。



 何が何だか訳が分からず、龍海はただただ訳が分からず立ち尽くした。

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