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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
霊媒師《エクソシスト》編
53/81

【十九皿目】修行と褒美

 朝成が去ってから、流星は暫くその場で打ちひしがれて喉が焼けるくらい慟哭した。

 分かっていた。



 自分が誰よりも一番弱いことなんて。

 だから誰にも守られなくてもいいくらい、強くなりたいとそう願うこともあった。



 強くなれる物ならなりたい。

 でも本当になれるのだろうか?

 色んな思いがひしめき合っていると、あっという間に一時間が経った。



 流星は覚悟を決めたのか、ふいに泣くのを止め涙を拭った。

「俺、もう誰も傷つけたくねぇ」



 誰に言うでもなく、独り言のように呟くと、ただただ流星の側で見守っていた明日馬が微笑むと、立ち上がり朝成の待つ道場に向かった。



 道場の扉を空けると、先程とは違い胴着に着替えていた朝成が、中央で胡座をかいて待ち構えていた。

「おう、来たな」



 満足げに笑うと、流星が深々と頭を下げ、それに習うように流星も頭を下げる。

「宜しくお願いします!!」



 その声は予想以上の大声で、明日馬と朝成は思わず目を見開いた。



 朝成の用意した修行カリキュラムと言うのは言ったって単純なもので、まずは一日にランニング三十キロ、腕立て伏せ百回、腹筋百回、素振り百回を一週間続けるというものであった。



 それは最初は満月みづきがした訓練と全く同じもので、最初はランニングだけで心が折れて、その度に日向と朝霧に馬鹿にされたが、強くなりたいと言う決意は揺るがず、弱音を吐きながらも一週間が過ぎていった。



 そして、一週間が過ぎると、流星の体は、訓練を始める一週間前よりも、少し引き締まったようである。

 次に新たに追加されたカリキュラムが発表されると、流星は素っ頓狂な声をあげる。



「ただ避けるだけ?」

「だから言ったろ?お前は戦って強くなるんじゃねぇ、戦わずして強くなるんだって」



 流星は何度聞いても理解できず、頭を抱えている。

「いいからとりあえず、今日は一日ひたすら明日馬の攻撃を避けるだけな」



 そういうと朝成は少し離れたところで腰を落ち着かせて、見物の姿勢に入る。

 言われるがまま流星と日向は向かい合うと、明日馬だけが竹刀を構えており、流星は丸腰の状態である。



 二人は息を整え、朝成の合図と同時に流星を目掛けて竹刀を振り下ろす。



 流星はすかさず右によけ、今度は右から市内を振り下ろしたかと思えば左に避け、下から来たかと思えば体全部を避ける、これをただひたすら朝成の言う通り一日中繰り返し、それだけで今日のカリキュラムは終了した。



「疲っっかれたっ!!」

 流星は修行を終えるなり、道場の真ん中で大の字になって寝転ぶと、流石の明日馬も疲労が溜まってきたようで、同感だと隣に座り込んむ。



「ん」

「おー、サンキュー」

 手渡されたスポーツドリンクを受け取ると、無理やり体を起こしてゴクゴクと勢いよく流し込む。



「それにしても、朝成さんの奴なに考えてんだろうな。ただ避けるだけなんて」

「さあな」



 修行を始めて一週間ほど経つが、相変わらず朝霧の意図が二人には判然としないのだ。

「朝成さんのことだから、考えてんだろうとは思うけど…」



 歯切れ悪く言う日向に、流星はうーん、と唸り声をあげる。

 すると、席を外していた朝成が、戻ってきた二人の前で仁王立ちになった。



「おう、毎日修行を頑張ってる二人に、今日は褒美をくれてやろう」

 突然何か言い出して、二人は思わず怪訝な顔をする。

「褒美?」



「そうだ。いいから黙って俺について来い!今なら絶景が見れるぜ!」

 大層な物言いをして、鼻歌を歌いながら先頭を切って歩き出す朝成の後を、正直嫌な予感しかしないが、二人は仕方なくついていく。



◇◆◇



 その頃、女風呂には真昼と麻亜夜が入っていた。

 湯気の合間から艶かしい体が見え隠れしている。

 二人はシャワーブースの前で座り、桶に汲んだお湯を被っている。



「真昼、また大きくなりました?胸」

 麻亜夜は自分の胸と比較するかにように、たわわな真昼の胸元を見つめている。



「そう?そんなことないと思うわよ?麻亜夜だって、それなりに大きくなったんじゃないの?」

「そんなことないですよ。私はそもそもそこまで大きくないですし」



 真昼は、まじまじと麻亜夜の胸を見つめる。

「そう?私よりも小さいってだけで、大きい方じゃないの?」

「別にそこまで大きくないですよ…」



 手を交差させて隠す麻亜夜を、真昼はいやらしい目つきで見る。

「でも、男って結構大きい方がいいみたいだけど、朝成はそうでもないみた…」



 急に真昼が言葉を閉ざして、顔を真っ赤にさせたと思うと、身を翻してしまった。

 どうしたのかと、先程真昼が顔を真っ赤にしながら見ていた部分に目線を落とすと、うっすらと所有物の跡が残っているのに気づいて、珍しく顔を真っ赤にさせる。



 麻亜夜が動揺して色々なことに頭を巡らせていると、男風呂から人の声が聞こえて、咄嗟に体を隠した。

「朝成さん、まさか絶景って…」



 顔を引き攣らせている明日麻をよそに、流星と朝成は興味津々に壁の隙間を覗こうとしている。

「おうよ。この時間は麻亜夜と真昼が入ってる時間だからな!こっからだと見えるん、アダっ!」



 突然、朝成の顔面に、桶が飛んできて見事にクリーンヒットする。

「聞こえてますよ、馬鹿成っっ!!」



「おー、ばれたなら仕方ねぇなぁ!つーか今更照れんなよ。お前の裸なんか見飽きて…いだっ!!」

 おちゃらけながら笑っていると、もう二つ目の桶が朝成の後頭部にクリーンヒットした。



 その様子を流星は腹を抱えながら、明日馬は頭を抱えながら見ていた。

 この後、朝成が麻亜夜と真昼に袋叩きにされることを、この時の朝成はまだ知らなかった。

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