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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
霊媒師《エクソシスト》編
51/81

【十七皿目】天使の料理人

 空音の隣に案内された女は、縮こまって借りてきた猫のようだったが、おとうしのきんぴらごぼうと、きゅうりの浅漬けが出てきた瞬間、まるで花が咲いたような笑みを浮かべた。



「わぁ!これおとうしですか?いただきまーす!

 女は浅漬けを食べながら、隣に座ってる空音がビールを飲んでいるのに、何かを思い出したように手を上げる。



「ってことは、お酒とかあるんですか?」

「もちろん。って言っても元は居酒屋じゃないから、ビールしかないんだけどさ」



「ビールでも全然大丈夫ですよ!私こう見えて、結構強いんで!」

 女は、得意げに鼻を鳴らしている。



「お、なんなら勝負するかい?」

「あれぇ?お姉さんも強いんですかぁ?」



「やめとけやめとけ、このおばさん、四十度のウイスキー十杯飲んでも酔わんザルどころかワクやから、潰されんでぇ〜!」



 隣から同様に酔っ払った息のいい関西弁が聞こえてくる。

「だっ、誰がおばさんだよ!まだ三十六だよっ!あんただって同い年のくせにっ!」



 飲んでいたビールを吹き出して、怒る空音を女は笑いながら笑っていると、頼んだビールが出てきて、女は雰囲気に飲まれて、ぐいっと勢いよく流しこむ。



「ぷはぁ〜!」

「いい飲みっぷりだねぇ〜」


 

 空音に囃されて、歯を覗かせて笑っていると、女は龍海の左手の薬指に、銀色に輝いてるものを目ざとく見つけて、何か勘が働いたような、企んでるような顔をしている。



「お二人って、もしかして結婚してるんですかぁ?」

 今度は空音と龍海が同時に噴き出して、むせこんでいる。



「ちょっ、そんなんじゃないから!」

「違うんですかぁ?あ、じゃあマスターが旦那さんとか?イケメンですもんねぇ!あたしならぁ、マスター派かなぁ?」



 女は酔っているのか、饒舌になり遠慮なく、根掘り葉掘り聞いていると、空音の隣で嘆く声が聞こえて来る。

「違う違う!こいつらはただのじゅう…」



 言いかけて空閑は、途中で言葉を飲むと、悪戯な笑みを浮かべて、悪友だよ、よ言い直した。

「悪友かぁ〜…そういうのもいいですね…」



 ふと女は寂しそうな顔をした。

 心なしか、目が涙で濡れている。



「モツ煮込みお待ちどうさま」

「おお〜、待ってましたぁ!」



 女は涙を拭くと、モツを口に運ぶと、広がる牛と生姜の旨みに、全身にビリビリと電撃が駆け巡るのを感じて、腰が砕けてしまった。



「なっ、何これぇ…っ、今まで食べたモツと全然違う…っ!すっごいトロトロしててめちゃくちゃ美味しい!!」



 女は、一口、また一口と無我夢中で箸を進める。

 あっという間に皿が空になると、彼女の周りに眩い閃光が現れた。



「わっ!何これぇ!」

「お迎えだよ」

「お迎え…?」



 店主の表情がどこか悲しげな表情をしていて、女はここに来るまでのことを思い出した。



「そうか…私…死んだんだぁ…。なんか今思うとあんなことで死んだの、すっごい悔しいなぁ…。生きてたらもっとおじさんのご飯食べにきた…」



 女は大粒の涙を流しながら、最後まで言う前に天に昇って行った。

「また生まれ変わったら、いつでも来たらいいさ…」



 天使は、女が死んだ原因も全てわかっているよう、含みのあるもの言いをして、女を見送った。

 おそらく流星にはここまでは察せないだろう、などと考えながら。



 店は暫く静寂に包まれたが、耐えられなくなった龍海が、大声を上げた。



「それにしてもひっどいわぁ!こんなおばさんと結婚しとるなんて!こんなおばさんと付き合える奴なんて、せいぜい従者くらいやわ!俺には可愛い奥さんがおるっちゅうねん!」



「あんたねぇ、さっきからおばさんおばさんうるさいよ!まだ三十六歳だって言ってんだろ!」

「あだっ!」



 空音に思い切り頭を小突かれた時、龍海はふと思い出したように口を開く。

「そういえばなんやったん?さっきの子が、一番食べたかったもんて」



 勘の鈍い龍海に、天使は口元に目に弧を描いた。

「居酒屋の美味い飯、だよ」

 龍海はようやく納得して、ああ!と声を上げた。



「そらぁ、流星には無理やわなぁ」

 と言って笑うと、残りのビールを流し込み、おかわりを要求した。



◇◆◇



 辺りはすっかり夕方になり、酔っ払って一人爆睡してる従者の一人…もとい龍海に、流星の部屋から持ってきた布団をかけると、やれやれと天使はため息をついた。



「相変わらず弱いねぇ」

「って言っても俺達が強いんだけどね」

 あれから天使も混ざって飲んでいたらしく、テーブルには自前の焼酎が十本も転がっている。



「いやぁ〜、誰にも怒られずに飲むってのもオツだねぇ〜」

「なんだい、あんたに怒るって、真昼も成長したねぇ。昔は手を焼いて泣いてたのに」



 昔のことを思い出して、懐かしそうに目を細める。

「これ以上犠牲を出すなよ?可愛い部下なんだろ?」

「わかってるよ」



 誰に言われるまでもない。

 自分はもう昔のような、弱い人間ではない、軍の主なのだから。



 だからここにいるんだ、これ以上犠牲を出さない為に。

 改めて言い聞かせると、ぐいっと、残りの酒を流し込んだ。

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