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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
霊媒師《エクソシスト》編
37/81

【三皿目】サンドイッチ

 それから暫くして、夕方頃、制服姿の夕季が流星軒を訪れた。

「やっほー!元気ー?」

 相変わらず元気そうで、陽気に手を振っている。



「おう、どうしたよ?」

「あのね、ちょっと流星君にお願いがあって…」

 おずおずしながら、少々上目遣いに夕季が言う。



「まぁいいけど、とりあえず座れよ」

「ありがとう」

 言うと夕季は、カウンターの真ん中に腰を落とした。



 明日馬は、慣れた手つきで珈琲を差し出されて、夕季は笑い声を上げる。

「すっかりバイト君だねぇ」

「うるせぇ」



 自負してはいるものの、他者に言われるとなんだか釈然とせず、不満そうに夕季を見やる。

 夕季は気にもとめず、砂糖とミルクを入れた珈琲を口に含んだ。



「それで、なんだよ?お願いって?」

 珈琲カップをソーサーに戻すと、夕季は説明を始めた。



 それは、自分の友達についての相談だった。

 友達は、高校に入ってからできた友達で、昔から食に対するアレルギーが多く、家族もそのことでよく悩まされていたらしい。



 だがその友人が一週間後に誕生日を迎えるので、その日くらいは美味しい料理を振る舞ってあげたいと夕季は考えていたのだ。



「でも、これだけアレルギーが多いと作れる物も限られちゃって、なかなかいいアイデアが浮かばなくて。

だから、流星君ならそういうのも詳しいんじゃないかなって…」



 流星は頭を掻きながら、唸り声を上げている。

 確かに自分は幽霊との料理人であり、実家も大衆食堂を営んでいたが、それはあくまでも食べられる人が訪れる前提であり、アレルギーや食べられる者が限られてる人は、そもそも外食すら殆どしない。



「ちなみに、なんだ?アレルギーって」

 俯いていた夕季が、ポツリと呟く。



「それも本人も良く分かっていないんだって。血液検査をしてもアレルギー反応がなくて。でも、食事をした後に顔が痒くなったりするから、食べ物アレルギーなのは、確かなんだろうって…」



 流星はいよいよ頭を抱えてしまった。

 そんな謎のアレルギーに、どう太刀打ちしろと言うのだ。



 自分がアレルギーに対する知識など、精々、蕎麦やナッツや小麦粉など世界的に認められているものくらいだ。

 しかし、その内容に反応したのは意外にも日向だった。



 暫く顎に手を当てていた明日馬が、口を挟む。

「なぁ、そのアレルギーってどんな時に出るか分かるか?」



 聞かれた夕季も、うーんと瞼を持ち上げて、暫し考えたが首を横に振る。

「分からない。ただ、食事をした時ってことしか」



 明日馬は、小さく唸り声を上げてから、更に追及する。

「他にはないのか?例えば、同じ物でも、食べる場所によって症状が出かなかったりとか」



 夕季もいよいよ険しい顔をして、暫く思考を巡らせたのち、あっと小さく声を上げた。



「そっ、そういえば、同じ物を食べても肌が痒くならない時もあるって言ってた!」

 なるほどな、と明日馬が腑に落ちたように頷く。



 その症状には自分も心当たりがあったのだ。

 明日馬も食事の後に肌が痒くなることに、度々悩まされていた。



 しかし、夕季の友達同様に何件のも病院を回って血液検査をしたが、結果は全部陰性だった。

 


 だがいつしか症状は、どんどん失くなってしったのだ。

 そう、それは流星から出会って少しずつ、自ら料理をするようになってからである。



 明日馬はほぼ確信をついていたが、まだ憶測であるので明日、夕季の友達に会って直接話を聞くことにした。




◇◆◇



 翌日、学校が終わってから四人は、流星軒で落ち合う約束をしていた。

 夕季の友達こと和田日和わだひよりは、異様な雰囲気を持つ店に尻ごみしていたが、流星と夕季にせがまれて仕方なく入店した。



 店に入ると、飲食店と聞いていたのに、メニューも縁起物すらなく、案の定違和感ばかりの店だった。

 テーブル席に通されると、友達は渋々座った。



「ちょっと待っててな。すぐ作るから」

「作るって何を…」

 言いかけたが、夕季が大丈夫、と笑みを向けた。



 暫くすると、店内には美味しそうな卵焼きの香りがした。

「おまちどうさま!」



 友達はまるで、気持ちの悪い虫でも見るような表情を浮かべている。

「待って!待って!あたし、食べられないって言ったじゃん!信じらんない!」



 友達が怒鳴って席を立とうとした時、お茶汲みをしていた明日馬が、真剣な目で何かを訴えて来た。



「大丈夫。これなら、顔が痒くなることなんてないから」

「え…っ!」



 どういうことなのかと、訳が分からず同様していたが、友達は恐る恐る口を付ける。



「美味しい…」

 思わず本音を漏らすと、少しずつではあるが、サンドイッチを食べる手は止まらなかった。



 綺麗に食べ終わると、友達は不思議そうな表情をして、顔に手を当てた。

「嘘…。痒くならない…。なんで…?」



 同様している日和の様子を伺っていた流星が、コンビニで買った全く同じ材料を使ったサンドイッチを、目の前においた。

「今食べたサンドイッチ、それと同じ材料で作ったんだ」



 何を言っているのか、全く検討がつかず、夕季に助け船を求めた時、明日馬が口を開いた。



「俺もさ、あんたと同じ症状で悩んでた時があったんだよ。でもさ、そいつと出会って食生活を見直したらさ、治ったんだよ。その症状が」



 詳しく話を聞けば、日本にはまだまだ研究されておらず医師に認められていないアレルギーと言うものがあるそうだ。



 今回のような食べ物アレルギーもその一つで、コンビニやスーパーなどで買った食べ物を食べると、肌が痒くなる人が稀にいるのだそうだ。



「つまり、コンビニとかスーパーで買って食べるなってこと…?」

 未だ驚きを隠せない様子の友達に、そうではないと流星達は首を横に振る。



「コンビニやスーパーの食べ物全部が悪い訳じゃねぇし、それを作るのにも相当な労力がかかってることくらい、俺も知ってる。だから、せめて…」



 途中で区切ると、深呼吸をして、熱い眼差しを向る。

「だからせめて、毎日こういう飯じゃない料理を、食べてほしい」 

 その視線に堪らなくなって、友達は無言で席を立つ。



「ちょっ、日和、待って…っ!」

「うるさいなぁ!なんで私がそんなこと言われなきゃいけないの?料理人なんて言ったって、子供じゃん!馬鹿にしないでよ!」



 そうまくし立てるように怒鳴ると、店を出て行ってしまった。

 慌て夕季が追いかける。



 暫く追い駆けっこをしていたが、やがて友達は足を止めて、荒々しい呼吸を整えると、拳を握り締めた。

「ごめん、夕季…。怒鳴ったりして」



 夕季はただ見守っている。

 日和は振り返ることなく、言葉を続ける。



「あいつが言ったこと、本当はまだ全然信じられない。

だって、お医者さんですら分からなかったのに、あんなガキんちょが分かるなんて、信じられる訳ないもん」

 


 夕季は友達の言葉を汲み取ると、まるで悟ったように笑みを浮かべた。

 友達はただ、認めたくないだけなんだ、自分より年下に説教されて、プライドが許せないだけなんだ、と。

 夕季は優しい声色で語りかける。



 なるべく傷つけないように、それでいて真実を伝えるように慎重に言葉を探る。



「美味しかった?あのサンドイッチ」

 日和は、目を見開くと、俯いたまま「うん」、とだけ答えた。



 夕季はそれだけで満足したようで、ゆっくりと友達に歩み寄り肩を抱く。

「帰ろっか」

「うん」



「ねぇ、帰りコンビニ寄ってかない?前言ってたオススメのデザート気になってたんだけど」

 などと、ちょっと意地の悪い、探るようなことを言っている。



 日和はギロリと夕季を睨む。

「あんたのそういうとこ、嫌い」

 言われて夕季はショックを受ける様子もなく、あははと陽気に笑っていた。

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