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【完結・祝一万PV】流星の料理人【ありがとうございます!】  作者: 紅樹 樹(アカギ イツキ)
料理人編
18/81

【十八皿目】嘘

 流星と明日馬は、空閑空音くがそらねの店を後にした足で、渡されたメモに記されている住所へ向かった。



 その場所は自分達の学校の校区内の住宅街にある。

あれだけの情報で本当に大丈夫だろうかと、明日馬はまだ不安だった。



 バスから降りて約十五分程歩くと、その家はあった。

木造二階建ての立派な家で、庭まである。

 しかし、庭の花達はあまり手入れが行き届いていないようだ。



 流星は、メモに記されている名字と表札を一緒であることを確認すると、インターホンを鳴らす。

 暫くして玄関のドアが開くと、中年の男性が現れた。



 男性は見慣れない子供に怪訝な表情を浮かべる。

「うちに何か用か?」

 男性はぶっきらぼうに聞く。



 平岡忠平ひらおかちゅうべえさんですか?と流星に聞かれると、男性はそうだ、と答える。

「俺達、平岡和子ひらおかかずこさんのことで、聞きたいことがあって来ました」



 男性は、その名前を聞くなり明らかに態度を変えた。

「なんのようか知らねぇが、和子はもう死んだんだ!帰れ!」

 大声で怒鳴ると、勢い良くドアを閉められてしまった。



 流星は深いため息をつく。

 まぁ、当然かと潮らしく頭を掻いた。

「どうするんだよ?この様子だと、もう次は簡単には応じてくれねぇんじゃねぇか?」



 流星は、唸り声を上げで暫し思案する。

「宅急便屋の降りするとか…」

「通じないだろ、今時」

 明日馬は、呆れた顔をした。



◇◆◇



 二人は夜も遅い為、仕方なく店に帰ることにした。

 店の扉を開けると、満月みづきが出迎えた。

「お帰りなさい、もうできてるわよ」

「できてるって何が?」



 流星は首を傾げる。

 すると、すぐになんのことか理解した。

 店のテーブル席には、四人分の食事が並べられている。



 もしかして、と台所の奥に視線を投げると、思った通り、女性…改め、平岡和子ひらおかかずこがせっせと食事の準備をしていた。

 随分とまぁ、賑やかになったことだと、流星は思う。



 満月みづきと二人切りの時じゃこんな風景は見られなかっただろう。

 二人は鞄を置き手を洗うと、それぞれ席に着いた。



◇◆◇



「そう、主人がそんなことを…」

 食事に舌鼓を打ちながら申し訳なさそうに呟いた。

「まぁ見ず知らずの奴がいきなり押し掛けりゃ、仕方ねぇよ」



 流星はからあげを頬張りながら、苦笑いする。

 でも他に方法はなかった。

 自分達は幽霊が見えて、あなたの奥さんがここにいます、なんて言ったところで余計不審がられてしまうだけだ。



 せめて、忠平さんが和子さんを見ることができればなぁ…と、流星は一人ごちる。

 せめて、この店に連れて来ることはできないだろうか?



 この店ならば、霊が見えなくとも見ることができるのに。

 四人は、どうにかして忠平を説得する方法を考えた。



◇◆◇



 ドアを開けてくれないのなら、自ら外に出ているところを突撃すればいい。

 流星は単純にそう考えた。

 今日は平日なので学校を休み、一日平岡宅を張り込むことになった。



 ほい、と明日馬は流星に、あんパンと牛乳が入った袋を差し出す。

「なんだこれ?」

 流星が、訳が分からない顔をしている。



「張り込みと言えば、あんパンと牛乳って決まってんだよ」

「そうなのか」

 と感心した。



 三時間くらいして、漸く忠平が家から出てきた。

 あんパンと牛乳はとっくに消費されている。

「やっと出てきた!」



 流星はすぐさま忠平の元に向かう。

 すると忠平は再び怪訝な表情を浮かべる。

「またお前達か」



「あの、俺達怪しい者じゃないんです!平岡和子さんのことで、どうしても聞きたいことがあって来たんです!」



 再び和子の名前が出て、忠平は更に眉をしかめる。

 やはりまた追い返されるのか、と明日馬が思ったその時である。



「あの、俺達以前道で怪我をして困ってと時に和子さんに、助けて貰ったことがあったんです。その時にタオルをお借りしたんですが、そのまま返しそびれてしまってて、ある人に住所を教えて貰ったんで届けに来たんです」

 と言った。



 これは昨日、四人で作戦会議をした結果思い付いた話である。

 もちろん、全くの嘘である。

 よく平然とそんな嘘つけるよな、と明日馬は少し軽蔑したくなった。 



 明日馬は嘘が下手なので、流星を指名したのは正解だった。

 タオルは、満月みづきが持っていた者である。



 忠平は少し驚いたが、ふっと柔らかい表情を浮かべて、

「あいつなら、やりそうだな」

 と呟いた。



◇◆◇



 二人は忠平案内されて近くの喫茶店に入った。

 この前、七夕と一緒に来た喫茶店である。

 好きな物を頼め、と言われたので流星はナポリタンとコーラ、明日馬はオムライスとクリームソーダを頼んだ。



 流星はすっかり、ここのナポリタンを気に入っていて、また食べたいと思っていたらしい。

「それで、和子さんのことなんですが…」

 流星が切り出した。



 そのままの事情を話す訳には行かないので、やんわりと嘘を交えながら説明した。

説明の内容はこうである。



「自分の店は料理屋で、和子さんにもいつか来て欲しいと約束したけど、結局は叶わなかった。

だからせめて、旦那さんである忠平《さんに食べに来て欲しい」



 忠平はいよいよ妙な話になって来たので、頭を抱えるが何故かこの少年達のことを無視できないと思えるた。

 暫く考えていたが、思うことがあったのか、忠平は意を決した。



「分かった。その店とやらに行ってやろうじゃねぇか」

 流星と明日馬は驚いた。

 自分達が言うのもなんだが、まさか、こんな嘘を信じてくれるなんて思ってもいなかったからだ。



「ただし、嘘だったら警察官に付き出してやるからな」

 と釘を刺されたが、二人は聞かなかったことにして、運ばれて来た料理を食べることだけに集中した。

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