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093.21F④

「宝箱だ」


何度かの曲がり角と戦闘を越えた突き当りに陸地が見え、そこに宝箱が一つ置かれていた。


「それじゃあちょっと休憩だな」


「疲れたー」


水没していないエリアは宝箱の手前にも数歩分あり、そこで一行が休憩を始める中でウルフェンだけが真剣な面持ちで腰を下ろしつつ道具を取り出す。


その道具を脇に置き、慎重に観察しつつ錠に触れたウルフェンが難しい声を出した。


「これは、時間がかかるな」


「そんなにですか?」


「前の階層の物よりもかなり難易度が上がってる。先に言っておくが完璧は期待するな」


「そこまでですか」


イズが近寄ってウルフェンの背後から観察してみるが、見ただけでは差がわからなかった。


以前までであれば、シルバー等級の解錠に慣れた冒険者であればほぼ失敗しない難易度であったはずだ。


それを考えれば随分と高リスクになったと考えられる。


「手を引きましょうか?」


「とりあえず、罠の判別をしてからだな」


過去に確認された罠は弩や毒煙、魔法封印など様々だ。


幸い命の危険があるようなものは無いようだが、それでも罠の種類によっては行動不能に陥り捕まることも考えられる。


特に睡眠などは全員が食らえば牢屋行き確定で、まずはその罠の種類を判別してからリスクを考えるべきだろう。


「こいつは……、毒だな」


毒ならば最悪失敗しても治癒師のイズがいれば解毒することができる。


とはいえ相応の魔力を消費する上に、毒を食らうと体力の損耗の他に吐き気やら頭痛やらで酷い二日酔い以上に気分が最悪になるというオプション付きでもあった。


「どうする?」


「つっても、失敗しなきゃいいんでしょ?」


「それに、そこまで難易度が上げられた宝箱の中身というのが気になりますね」


「毒なら慣れとるから問題ないかの」


「成功率は?」


「9割5分程度」


それは決して低くはないが、安心するには高い、そんな確率だ。


とはいえリスクを負わずに冒険者という職業は成り立たない。


リーダーのワーレンは全員の意見を加味してから、ウルフェンへと頷いた。


「やってくれ」


「わかった。解錠するぞ」


そしてしばらくの後、ロックピックを置いたウルフェンが宝箱の蓋へと手をかけた。


鍵を外すことには成功したが、同時に罠の解除に成功していなければ蓋を開けると同時に毒の粉が舞い上がることになる。


「おい、一人だけ逃げようとするな」


「だってー」


コッソリと距離を取ろうとしていたアルミラの腕をイズが掴んで引っ張る。


「離れると魔物に不意打ちされるかもしれないぞ」


実際にそういうケースも、イズは他の冒険者が話していたのを聞いたことがあった。


おそらく安易な回避手段は対策されているのだろう。


そんな会話をしてから、開けられた宝箱の中身に全員が息を?んだ。


そこには魔石が入っており、赤く染まったそれは火の属性を宿していることがわかる。


そしてそのサイズは、今までダンジョンでは見たことがない大きさだった。


「おぉ……」


思わず一行が声を漏らす。


それは売れば金貨にして10枚を超えるかもしれない。


この宝箱が特別に大当たりという可能性もあるが、それでも期待が膨らむ報酬ではあった。


「この階層の主役はウルフェンさんで決まりですね」


「あたしのためにガンガン宝箱を開けてよね」


「……、俺は自分の仕事をするだけだ」


ともあれこの階層の方針が決まった一行は、次の宝箱を見つけるべく水没した通路を更に進んでいった。




「よいしょ」


アルミラが段差を越えて床を踏むと、そこにびちゃりと水がこぼれて足元を濡らす。


今回の探索は術師のリソースを鑑みてそこまで長時間の探索をしていたわけではないのだが、それでも水の抵抗による疲労は着実に蓄積していた。


「くしゅんっ」


小さく響いたくしゃみは水に浸かって体温が下がったことによるものだろう。


水温はそこまで冷たくないとはいえ、常に水をかき分ける進行は体温を奪っていたようだ。


「このまま地上まで帰るのはちょっとしんどいですね」


おそらくそれも不可能ではないだろう。


とはいえ体力の損耗や体調の管理を考えるなら一度暖をとった方が良いかもしれない。


そんな考えが一行の頭に浮かぶのと同時に、階段手前の十字路が目に入る。


おそらく、パーティーメンバー全員が同じことを考えただろう。


そこに見えるのは太陽と月のマーク。


その先には温泉があったのは、全員の記憶に新しい。


「どーする?」


「でもなあ、流石にダンジョンの中だしなあ……」


流石にそこまで無防備を晒すには不安が残る。


そんな空気が一行に漂う中、月のマークの通路の先から冒険者が二人、現れた。


「あれ、どうしたのこんなところで」


と言ったのは同じシルバー等級の冒険者の女性たち。


親しいというほどではないが、20階層で合同パーティーを推奨する流れもあり面識のある相手だった。


記憶ではダンジョンが発生する前より王都で活動していたメンバーのはずである。


そんな二人が、不思議そうな顔で聞いてくる。


「お風呂なら女がこっち、男はあっちよ」


先に指さされたのは三日月のマークの方、次に指さされたのは太陽のマーク。


男女が、という発言から既に複数のパーティーが温泉に入っているのだろう。


その冒険者たちも既に21階層を探索し、冷えた体を温めているのかもしれない。


そう決断させたのは、迷宮との付き合いの長さだろうか。


ともあれ他の冒険者が既に入っているのであれば、不測の事態にも対応しやすいのではないだろうか、そんな言い訳が一行の思考に浮かんだ。


「入ってくのに反対の人」


とアルミラの言葉に挙手はゼロ。


満場一致で予定が決まった。


「んじゃ、半刻後にこの場所で集合だ」


ワーレンの言葉を受けて動き出した一行だが、その中のイズの腕をアルミラが後ろから掴む。


「ちょっと、イズはそっちでしょ」


「は? なに言ってるんだ?」


イズが進もうとしていた方向は月のマークの物。アルミラが進む方向と同じである。


そんなアルミラの静止に、イズは心底心外だというように眉を顰めた。


「僕は女だ」


「え、ええ???」


本気で戸惑うアルミラに、イズは先程までとは別の意味で呆れた表情を見せる。


「本当に失礼な奴だな。まあいい、どうせ裸を見ればわかるんだからついてこい」


「えーーーっ!?」


アルミラの叫びを無視して、イズは腕を掴んだまま通路をずんずんと進んでいった。

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