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目指すは異世界で最強の王道ダンジョンマスター。~王都徒歩5分『美人秘書』付き~  作者: あまかみ唯
三章

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091.21F②

「今度はすぐ合流することはなさそうだな」


斥候のウルフェンが距離を数えながら先導しつつそう呟く。


分かれ道からかなり長めにまっすぐ続くその道は、おそらく途中で曲がりそのまま迷宮の奥方向へと続くだろう。


「おっ、曲がり道」


「魔物の気配はないが、飛び出すなよ」


視界が切れる通路の曲がり角は魔物の待ち伏せや罠の絶好の設置ポイントである。


「言われなくてもわかってます~」


そんなやり取りをしながらも、警戒しつつ角を曲がった一行は、しかし予想していたものとは別の展開に足を止めた。


「えぇ……」


思わず声を漏らしたアルミラだが、他のパーティーメンバーも似たような感想を胸中に抱く。


先に見えるのは一段下がった床と、そこに満たされた満杯の水。


大した深さでもないのが救いだが、それでも進むには躊躇する光景だった。


「ちょっといいかの?」


「ああ」


「では、『導火』」


魔術師のエンドが生み出した小さな炎を、そのまますっと前方に飛ばす。


尾を引くように流れていくその火に照らされた通路は先まで続いており、壁にぶつかることもなく十歩ほどの距離を進んだ後に魔力切れで燃え尽きるように消えていった。


「見た限り、先までずっと同じ状況だな」


この中で一番目の良いウルフェンがそう断言すると、再び困惑が一同の間の流れる。


「えぇ……」


「どうする? 一旦戻るか?」


「戻りたい……」


ワーレンの確認に弱音を吐くアルミラであったが、他のメンバーはそこまで安易に答えは出さない。


実際に、ここで戻って結局他の通路も同じような状況であれば完全に時間の無駄だろう。


そしてここまでの長い横道とここからの長い縦道は今までのダンジョンからすると珍しい構造で、逆にここから先はこういうものだから諦めろという意思表示をされているようにも思えた。


「それと、結局地図を埋めるつもりなら避けられないって事情もあるな」


地図を埋めること自体は必須ではないが、水で塞がれた先に豪華な宝箱が置かれている、なんてことも考えられる。


冒険者としては足元の水程度のリスクなら気にせず進む方が自然かもしれない。


「とりあえず、意見をまとめるか。戻りたい奴は?」


挙がる手は二本。


「このまま進みたい奴」


挙がる手は三本。


「諦めろ」


「やだっ」


尚も抵抗するアルミラを他所に、もう一人の撤退側だったイズが質問を挙げる。


「質問なんですが、前衛の動きには問題ないんですかね?」


「いくらか動きづらいだろうが、魔物が以前の階層から急激に強くならなければ問題ないだろうな」


「なら僕も賛成に一票かな。そっちの方が多数派だし」


「うう……」


「諦めろ」


ということで結論が出た一行は、その水が有毒ではないかを確認してから一歩踏み出す。


先頭は斥候のウルフェン。


身長が高い彼は少し屈み気味にランタンを前に構え、特に水中の罠へと意識を集中させている。


よくある前衛職のような筋肉が盛られた肉体ではないが、ガッチリとした体格は前衛としてもやっていけそうな雰囲気があった。


実際にナイフでの近接戦や逆に弓での遠距離攻撃もこなす彼だが、その一番の特徴は顔全体を覆う被り物だろう。


目以外の部分を覆うその黒い布は、同じく肌の露出が全くない黒の衣装と相まって斥候というより暗殺者と言った方が適切な雰囲気だ。


街中で見れば完全に不審者、ダンジョンの中でもかなりの不審者である。


「気をつけろ、中央の床に罠があるぞ」


そんな不審者だが実力は確かであり、その後ろに前衛の二人が続く。


一人は剣士のアルミラ。


両手剣を今は右手に握り、他の装備は軽鎧など動きやすい物でまとめている。


赤銅色の長い髪を首の後ろで一つに括り、その先端は腰のあたりまで伸びている。


「靴の中がぐちょぐちょする……」


冒険者ならこれくらいの環境はなれたものだろうに、どうやってシルバーまで等級を上げたのか。


他所からダンジョンの噂を聞いてそれぞれが王都に集まりパーティーを結成することになった一行はそんな疑問を脳内に浮かべる。


「魔物も出ないみたいだし、あたしは入り口で待ってちゃだめ?」


「その場合お前の分け前は無しな」


「それはいやっ」


そもそもこのパーティー自体が最近結成したものなのでそれぞれの事情にそこまで詳しいわけでもないのだが、目的のためにパーティーのメンバーを集めて行動するというのも冒険者としてはそこまで珍しいことでもなかった。


そんな中でリーダーを務めるワーレンは、片手に槍を握っている。


恰好はアルミラと同じく重装ではないないが、それは槍の間合いの広さを活かして広く動くようにするための判断だ。


「ここは通路が広くてやりやすいな」


彼が握る槍は背丈ほどの長さがあり、今まではそれを自在に操ろうとすると通路の狭さと隣に並ぶアルミラが障害になることが多かった。


それでも魔物の相手は十全にこなせていた訳なのだが、ここから一段強さが上がるであろうと予想されるこの21階層を機に握る槍を振りやすくなったのは彼にとっては有難い変化だろう。


「このまま宝箱でも見つかればいいんですけど」


「なにも見つからなかったらワーレンのせいね」


「意見は多数決だったろ」


ちなみにワーレンがリーダーをやっているのは、本人のリーダーシップによるものというよりも他のメンバーを見ての消去法に近い。


そんな消極的な決め方にも、命の危険が限りなく薄いというダンジョン探索をするだけの集まりという意識の上にあったのかもしれない。


「そこまで冷たくもないですね、裾が濡れて動きづらいですけど」


治癒師のイズが重くなった自分のローブを感じながらそう告げる。


ダンジョンの中は常に涼しい気温で保たれており、そこで水に入ればかなりの冷たさを感じるかと思ったがそこまででもなかった。


水が澄んでいることもあり、この程度なら冒険者が仕事をする環境としてはむしろ良好な部類に入るだろう。


それでも体をすっぽりと覆うようなローブが水を吸うと、治癒師の体力では苦労する部分があった。


加えて言えば当の本人がそこまで身長が高くない部分でも、相対的な体力の差が出ているかのもしれない。


そもそもイズがこのパーティーの中で特に若いので、体力的に一番苦労するのは自然な流れなのだが、そんなことに配慮はしないのが冒険者という職業であった。


「辛かったおんぶしてあげよっか」


「いらん、僕は自分で歩ける」


「なんかイズあたしにだけ当たり辛くない!?」


「気のせいだろ」


実際に他のメンバーが20歳を超えている中で、アルミラ18歳、イズが13歳と比較的年齢が近い分、気遣いが本人には子供扱いされているように感じてしまうのだろう。


「どっこいしょ」


そんなイズの隣を歩くのは、魔術師のエンド。


その風貌は白い髭を顎に蓄え、かなりの老齢なことがわかる。


とはいえ隣を歩くイズと同じように水を吸ったローブに身を包んでいるエンドはの歩みはしっかりとしていた。


通常、冒険者とは体が資本であり、老齢まで続けられる者は少ない。


もし続けようとしても重傷を負ったり命を落としたりといったケースで強制的に引退を余儀なくされるからだ。


その点では実力の担保は保証されると言ってもいいのだが、とはいえ肉体的な理由で敬遠されることも多く、結局今のパーティーでダンジョン探索に参加できたというケースであった。


こんな一行のメンツを見れば、消去法でワーレンが選ばれた理由もわかるだろう。


「しかし、水の中は警戒が難しいな」


「そこは頑張って」


床に水が張られていれば当然罠の探知の難易度は上がる。


「水没していないルートがあればいいんですけどね、ここまでの感じでは望み薄かと」


「ずっと水位も一定じゃからのー」


「ストップ」


そんな一行を、ウルフェンが何度か静止する。


特に揺れる水面の上からでは困難を極める状況で、定期的に進行の停止を余儀なくされていた。

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