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085.ひとやすみ②

「ただいま、ルビィ」


「お帰りなさいませ、主様」


お姫様とのお話を終えて、コアルームへと戻った俺をルビィが出迎えてくれる。


「20階層攻略組はもう帰った?」


「いえ、まだダンジョンの中ですわ」


「そうなんだ、確かにまだそんなに時間も経ってないか」


よく考えて見るとまだ20階層から地上に戻るほどには時間が経っていない。


「あっちは大変だねー」


「そうですわね」


俺とルビィは転移を使えば一瞬で移動できるけど、彼らは自分の足で戻らないといけないので相応に時間がかかる。


「実際帰り道はそんなに魔力の回収もできないからショートカット作っちゃってもその点では困らないんだけど」


帰りはまっすぐ帰る冒険者が多いし必然的に交戦の回数も減るので魔力回収の効率を考えたらそこはカットしちゃっても大差はない。


「でもあんまり快適にしすぎるのもダンジョンって感じが薄れそうだよね」


「実際に帰路で魔物に敗北する冒険者もいますので、金銭的な利益では有用かと」


「そもそもボス階層まで来れる冒険者ばっかりでもないしね」


9階層未満の冒険者なら必然的に帰りの道のりでのリソース消費の比重も上がるのでそういう点では意味がないわけでもなかった。


「朝から潜って城門閉まる時間までに戻ってこれないくらい時間かかるようになったらまた考えないとだけど」


冒険者からしたら外で野営すればいいだけなんだけど、昼夜関係なく探索に来られるとこっちが夜もゆっくりできなくてめんどくさいのが目に見えてるし。


「その場合は、帰り道ではなく低階層をカットする方向でもいいかもしれませんわね」


「たしかに」


高ランクの冒険者からしたら1階層からの敵は雑魚過ぎて魔力回収の効率も悪いだろうし、そこをカットするのも手か。


そんなこんなでルビィと運営方針について話していると、20階層攻略組が入り口にたどり着いたのが確認できた。


その様子を覗くと、既に入り口脇の部屋に刻んだ文章で階層攻略の告知を受けて待ち受けていた冒険者たちに歓迎を受けている。


10階層という前例もあるので、その歓迎をしている人数は前回よりもずっと多かった。


「盛り上がってるようでよかったよかった」


「そうですわね」


節目の階層攻略者が持ち上げられればそれだけ最初に攻略する価値も上がるのでダンジョンとしてはメリットしかない。


「そういえば賭けをしてるって言ってたけど、合同で攻略した場合はどうすんだろうね?」


「各パーティーに賭けていた人間を全員勝ちとするか、もしくは合同で賭けていない人間は全員負けとするかでしょうか」


「折角だし直接確かめてこようか」


「主様がお望みでしたら」




ということで、20階層攻略組に少し遅れてダンジョンを出て王都に入る。


彼らはその足で買取の店へと向かうが、賭けをしている酒場の場所は把握しているのでそのままそちらへと入ると中はとても盛り上がっていた。


その喧騒の中の中心は、やはり賭けの胴元と客だろう。


なにやら言い合っているのをこっそり聞くと、合同パーティーに参加していた各パーティーに単独で賭けていた客にも賞金受け取りの権利があるか揉めているらしい。


3組合同パーティーを完全に的中させた客はいなかったらしいので、もし全員ハズレなら配当金含めて全てが胴元の懐に入ると考えれば必死にもなるか。


あの合同パーティーはわりと普通に集団になってダンジョンに入ってきたからそれを見て賭ける人間もいそうなもんだけど、もしかしたら早めに賭けの受付を打ち切ったりしたのかもしれない。


「すいません、エール二つお願いします」


「はーい、お待ちください」


そんな言い合いを横目に見ながら端っこのテーブルにルビィと座る。


「しかし既にかなり人が多いね」


「そうですわね」


店の中の客は50人以上はいるだろうか。


ここから実際に攻略組が帰ってきたら更に人口密度が上がるだろう。


「全員が冒険者ってわけでもないのかな。見たことある顔も多いけど」


「7割方は名前もわかりますわ」


「そんなに」


俺の見立てじゃ記憶にあるのは全体の半分満たない程度だったんだけど、ルビィ驚異の記憶力だ。


ダンジョンが冒険者の名前を知る流れは、虜囚にした時と10階層を攻略した時がある訳だが、10階層まで到達できない冒険者はかなりの割合で捕まった経験があるのでダンジョンにある冒険者名簿は結構な密度になっている。


ああ、あと探索中にお互いの名前を呼んだケースもあるか。


こっちはちゃんとした名前か確認できてないからその点注意が必要だけど。


それからしばらくして、鑑定を終えた20階層攻略パーティーが戻ってくると、更に店内が盛り上がりを見せる。


「やるじゃねえかお前ら!」


「20階層の相手はどんな魔物だったんだよ!」


「今日はお前の奢りな!」


「新しいプレート見せて!」


なんて歓迎の声が飛び、メンバーがそれぞれに対応していく。


「えー、あたしの配当貰えないッスか!?」


自分で自分に賭けるのはありなんだろうか?


「というか流石に人多すぎだね」


来店した時から単純に2パーティー増えただけでも+9人、それに釣られてきた人間も増えると二桁人数増えているので店内もパンパンである。


「そろそろ退散いたしましょうか」


「そだね、帰りに何か美味しい物でも買ってこうか」


あっちはまだ揉めてるけど、基本的に賭けは胴元有利だし多分覆らないだろう。


なんて思っていると、入り口の方が再びざわりとしたのでそちらに目を向ける。


あ、お姫様だ。




こっちは普通に転移で外に出たから、歩いて20階層から戻るお姫様たちより先に王都に来てたのよね。


多分時間的には、彼女たちもダンジョンからそのままここまで来たのだろう。


そのお姫様が奥へ進むと人の壁が割れて道ができる。


ダンジョンの中で見てると全然わからなかったけど、外だとこんな感じなんだなー。


流石王族と言うか、まだ冒険者に馴染めていないというか。


そして胴元の前で立ち止まったお姫様が、渋い顔をしている男へと声をかけた。


「ごきげんよう、配当金を受け取りに参りました」


「それがですね、アーシェラ様……」


「なんでしょう?」


普通の会話なのだが、男のプレッシャーはどれ程のものだろうか。


あ、折れた。


「わかりました、計算しますのでしばらくお待ちください」


胴元がガックリと頭を垂れてそう告げると同時に周囲が沸き、その中心でお姫様は堂々と笑顔を浮かべている。


どうやらお姫様も単勝に賭けていたようだが、流石にお姫様にだけ渡して他には支払い拒否とはいかないだろう。


これだけの人数が集まってる時点で掛け金も相当だろうから、それを支払わないといけない辛さは想像できなくはない。


ワンチャンお姫様が受け取りに来ない可能性だってあっただろうしね。


彼女にとっては端金だろうし。


まあ俺には関係ないけど。


そんな様子を眺めていると、酔った客の一人がこちらにこちらに近寄ってくる。


「おう、なんだテメーらは? ここは冒険者専用の酒場だぞ」


完全に酔っ払いだわ。


そんなルールが本当にあるのかは知らないが、そろそろ帰ろうと思ってた所だし丁度いいかと腰を浮かせようとすると更にその向こうから声が聞こえた。


「あら、ここが冒険者専用なんて初めて聞いたわね」


「なんだあ、テメェ……は」


反論されて勢いよく振り返った酔っ払いの語気が、すぐに縮んていく。


「ハ、ハイセリンじゃねえか」


「その人たちは私の知り合いなの。どいてもらえるかしら?」


「あ、ああ……」


ということで、酔っ払いの代わりに現れた彼女が、テーブルの空いている椅子に手をかける。


「ここいいかしら?」


「ええ、どうぞ」


帰ろうと思ってたところだけど、流石にこの流れでそのまま帰れないよなあ。


「助けてもらったお礼を言った方がいいですかね?」


「必要ないわ、私が貴方と話をしたいから声をかけただけだもの」


「そうでしたか」


ならお礼の代わりにしばらくお話に付き合おう。


「それで、そちらの女性は?」


彼女の視線が向けられた先には絶世の美女、ではなくルビィの姿。


「彼女は私のパートナーです」


「へぇ、貴女が」


「貴女が思っているような関係じゃないですよ」


「ふふ、そういうことにしておくわ」


そう言って意味深に笑う彼女は自分の想像が正しいと確信しているようだった。


「それにしても、貴方がこんなところにいるとは思わなかったわ」


「賭けをしていると聞いたので、その結果を見に来たんですよ」


まあ本当に気が向いたから来ただけで、普通はわざわざダンジョンから出てこんな所まで来ないので本当に偶然である。


「しばらく揉めていたけれど決着したようね」


「まさかお姫様が参加しているとは思いませんでしたが」


「そうね、あれも彼女の活動の一環かしら」


「そうかもしれませんね」


冒険者に馴染むという意味では、賭けに参加するというのも一定の連帯感を生むことができるだろう。


まさか賭けの賞金が欲しかったわけでもないだろうしね。


「そうだ、20階層攻略の報酬は最終的にいくらくらいになりました?」


「合計で金貨512枚よ。そのうちいくつかは参加したメンバーが個人で買い取ることになったわ。あれもそうね」


そう言って彼女が視線を送る先には、エドガーに握られた刀。


今は投げられた果物を空中で真っ二つにする芸当を見せている。


試し切り兼自慢かな。


まああれが有名になるならこっちとしてはありがたいけど、そのうち店員さんに怒られそう。


「私も香水を一つ貰ったわ」


「お眼鏡に叶うものがあったならなによりです」


「実用する予定はないけれど、アイテムとしては興味深いわね」


「そこまで特別なことはしていませんけどね」


おそらく彼女自身でも、同じ素材を用意すれば普通に作れるだろう。


まあそれでも、研究する余地がないとは断言できないけど。


しかしハイセリンと会話する機会が生まれたのはいいけれど、顔がバレてるとちょっと面倒かな。


まあこの顔を知ってるのは街中で会う可能性がある相手じゃ彼女ともう数名しかいないんだけど、なんて思うと背後から声を掛けられる。


「ごきげんよう、私も同席させていただいてよろしいでしょうか?」


見るとこの顔を知っている残りの数名が全員そこに立っていた。


「どうぞ、ただし目立つと困るのでお二人も一緒に座ってくださいね」


ということで、俺、ルビィ、ハイセリン、お姫様とそのお付き二名の6人で同じテーブルを囲むことに。


うーん、やっぱり顔変えようかな。


しかしこの面子で何話していいのか良くわかんねえな。


一応ハイセリンとお姫様で面識はあるはずだから雑談する分には問題ないだろうけど。


「そういえば、お姫様。王城には楽器型の魔導具があると聞きましたがご存知ですか?」


「ええ、出兵の際には楽団を用いて広範囲に魔法効果を付与することなどがあります。範囲型の魔導具という意味では頂いた杖と似た部分があるかもしれません」


「その話は私も興味があるわね」


なんて雑談をしながら、平穏に時間が過ぎていった。








20階層初攻略から数日後、ダンジョンの中でしていたちょっとした作業が終わったので、ルビィに声をかける。


「ルビィ、ちょっといい?」


「はい、どうかなさいましたか主様」


「あー、大した用じゃないんだけど、20階の様子はどう?」


「万事問題ありませんわ。現在もシルバー等級冒険者のパーティーが複数で攻略に挑戦しています」


「報酬はそこまで美味くないはずだけど、結構挑戦者多いね」


初回以降の20階層の報酬は難易度相応であり、合同パーティーを組む必要があることを考えるとその手間に見合うかは微妙なところだ。


既に何度か攻略されているので、報酬も冒険者の間では知られているだろうし。


「おそらく攻略のプレートに刻まれる数字が目的かと」


「ああなるほど、こっちとしてはコストのかからないおまけみたいなものだけど、そこに付加価値を持ってくれるならありがたい」


「そうですわね」


早期攻略だと自慢できたりするのかな、今度機会があったら確認しとこう。


「いっそ20階層の扉の前に、待ち合わせ用の椅子でも置いてみようか」


そのうち合同パーティーを組んでの探索開始ではなく、20階層の前で顔を合わせたメンバーで突入する、なんて流れになるかもしれない。


「ただし、今の探索者の数では難しいかもしれませんわね」


「そだね」


まだ20階層に到達しているのは10組にも満たないので、扉の前でランダムマッチングするにはちょっと待ち時間が長くなりすぎるだろうか。


「まあその辺は冒険者を増やす方向で考えていこうか」


「はい、主様」


人数が増えればそれだけ待ち時間も減る計算だ。


現在も王都の外からダンジョンを探索するために移籍してくる冒険者は増えているのでこのままその数を伸ばしていきたい。


「ともあれ20階層はひと段落したかな」


「そうですわね」


仕込みやら調整やらでだいぶ苦労したけれど、これでまたちょっとだけゆっくりすることができる。


「そうだ、ルビィ」


「なんでしょう、主様?」


「ちょっと片手出してもらえる?」


「かしこまりましたわ」


ということで俺の隣に座って手を差し出すルビィの指へ、取り出した指輪をゆっくりはめる。


「主様、これは?」


「作るのに苦労したんだけど、使うとお互いのいる場所に転送できるようになる魔法を込めた指輪。ちなみにお揃いね」


ということでルビィと同じ、シルバーのリングに青い宝石を付けた指輪が俺の指にもはまっている。


「ですがその技術は一度諦めたはずでは?」


一回同じものを作ろうとルビィに相談したときは、魔導書で使える魔術だけでは困難ということで断念していた。


「そのあと他の人間にちょっと手伝ってもらってね、あと専用の素材を用意して完成した感じ」


そのおかげで転移の巻物を渡すことになったのと、金貨がいくらかかかったのは秘密だ。


そもそも互いの場所に転移できるというこのアイテム自体、現状この場所から動かない俺にはほぼ必要のないものでもあるし。


じゃあなんでそんな物を作ったのかと聞かれれば、まあ趣味みたいなもの。


「というわけでデザインが気に入らないとかってクレームは聞けないからその点は我慢して」


「そんなこと思っていませんわ」


「それならよかった」


それから改めて、自分の指に納まっている指輪を確認したルビィが静かに微笑んだ。


「大切にいたしますわ、主様」


「うん、これからもよろしくね」

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というわけで二章完結です。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。


もし面白いと思ったから評価よろしくお願いします。

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