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083.20F⑧

「みなさま、お疲れさまでした」


最後のリッチを討伐した後、疲労した合同パーティーのメンバーへと言葉をかける。


彼女一人だけ疲労せずに元気十分なのだが、役割は十分に果たしていたのでそれに文句を言う人間はいない。


それに、彼らの今の興味はもっと別のところにあった。


部屋の奥、祭壇の上に並べられているのは12枚のプレート。


そしてその前にはかなりの大きさの宝箱が置かれている。


「まずはプレートを確認するか」


本命は宝箱だが、その前にやることを済ませておいた方が良いだろう、という判断でエドガーが祭壇へと近づく。


予想通り、それは20階層を初めて攻略したことを証明する物だった。


10階層のプレートとは意匠が異なり、金のプレートに赤い塗料での細工が加えられ、更に埋め込まれたルビーは1つから2つへと増えている。


「見た目で分かりやすいのは良いですね」


「裏を見るとうさぎの刻印の両目がルビーになってるな」


赤色の細工が加えられたそれは、金色のみの10階層の物とは違いが分かりやすくデザインされている。


そのプレートに刻まれた直接自慢するつもりがなくとも、冒険者として一目でわかるような実績が提示できるのは有用な場合もあるかもしれない。


「今回は名前は聞かれなかったッスね」


「全員が10階層を通過してるからきっとそっちで把握してるのです」


「なるほどッスッス」


「プレートはちゃんと全員分あるな」


「ええ、間違いなく」


大所帯なので一旦確認を挟んだわけだが、全員が自分の名の刻まれたプレートを手に取って確認している。


「なら次は」


全員の視線が集まったのは当然、今回の目玉である宝箱。


わざわざ合同でパーティーを組む手間をかけてここまで来て、リッチ級を3体討伐したのだ。


待ち受けていた戦力からも、報酬への期待は高まる一同であった。


「そうだネジル、分配の前にこっちで使った矢は必要経費ってことでいいか?」


「ああ? そりゃもちろん良いわけねえだろ?」


事前に報酬はエドガーネジル各パーティー9人で等分と話し合いで決めていたが、経費を計上する話は聞いていない。


「そうは言うけどな、キュリウスの弓矢がなけりゃパーティーは壊滅してたぜ? なんと言っても前衛で残ったのは俺だけだったからな」


「それとこれとは話が別だ」


キュリウスの援護が無ければ倒せなかったというのは一面では正しいが、消耗品を必要経費とするなら事前に確認しておけという理屈も正しい。


そして事前に経費として含めるかという確認があったなら、おそらく全体の意見で否という結論に落ち着いていただろうという事実がまた面倒である。


そんな前提がありキュリウスは、予定通りに事が運べば矢を使わない予定だったのだが。


「ちなみに、使った矢の総額はいくらほどでしょう?」


「合計で金貨3枚分だな」


「そのうち再利用が不可能な物は?」


「……、金貨1枚分ほどだ」


「それでも安くはないのです」


金貨1枚といえば、払えないほど高額ではないが気軽に了承するほど低額でもないという微妙なラインだ。


「どちらにしても、宝箱の中身を確認してからにしましょう。この中身の金額次第で対応も変わってくるわ。それに、アーシェラ様をお待たせするのも悪いでしょうし」


そんなハイセリンの言葉に、当のアーシェラはそこまで気にしていないように答える。


「私は構いませんよ。急ぐ用事もありませんので」


とはいえ、彼女のパーティーは報酬の分け前を辞退している身だ。


わざわざこちらの交渉の時間に付き合わせるのも悪い、というアイコンタクトでエドガーとネジルの意見が一旦の合意に落ち着いた。


「それじゃあ開けるッスよ~」


ウレラが宝箱の蓋に手をかけ、待ちわびたそれを持ち上げる。


彼女が両手を広げたよりも幅がある宝箱は蓋だけでも結構な重量なのだが、流石の前衛の腕力でスムーズにパカリとそれは開けられた。


「おぉ……」


それを確認したメンバーの中から思わず声が漏れるほど、箱の中身は豪華に輝いていた。


金や銀の加工品にアクセサリー、他にも口紅など、毎日ダンジョンに潜っていても目にする機会がほとんどない物も含まれている。


その中でも目を引くのが二本の武器だ。


「これは?」


そのうちの一本、長く反った鞘に納められている武器を持ち上げたエドガーが疑問の声を上げる。


「それはカタナね。いいかしら?」


刀はダンジョンから何本も算出しているが、とはいえ王都に流通している武器の中では極一部であり認知度もそこまで高くはない。


受け取ったハイセリンが刀を抜くと、抜き身になった刃が広間の明かりに照らされて白銀に輝く。


「刃物の専門外でも、出来の素晴らしさはわかるわね」


実際に、この刀は美術品としてだけの価値で値をつけても、かなりの金額になるだろう。


「見た目はいいが、実用性はあんのか?」


「耐久性に関してはその見た目通りよ。込められている魔力は十二分、付呪されているのは切れ味の向上ね」


「具体的には?」


「おそらく十分な使い手が握れば、ドラゴンの鱗も切断できるんじゃないかしら。刃物としては一級品よ。金額にするなら金貨150枚以上かしら」


「そんなに」


「試し斬りしてみてえが、物がねえな」


「氷像くらいなら作れるけれど、売る前に万が一があっても困るわ。やめておきましょう」


そう言いながら、ハイセリンが刀を鞘へと納める。


「それじゃあ次はこっちを見てほしいッス」


ウレラが次に差し出したのは、宝箱に入っていたもう一本の武器。


そちらは至極ポピュラーなロングソードだ。


当然、財宝を売却する際には店で正式に鑑定をしてもらうのでここで調べても二度手間なのだが、それでも先にどれくらいの価値があるのかを知りたいという興味もあり、受け取るハイセリンに口を挟む者はいなかった。


「こちらは火の属性付呪ね。こちらは金貨200枚ほどかしら」


「おおー」


先ほどの刀と合わせて金貨350枚。


それだけでシルバー等級の冒険者の稼ぎとしては破格の物である。


「これ欲しい人いるッスかー」


ウレラが聞きながら右手を上げるとそれに釣られて何人かが手を上げる。


「金貨200枚払える人ー」


その言葉に今度は全ての手が下げられた。


「まあその点はあとでちゃんと決めましょう」


実際には9人分の分け前で金貨数十枚分は配分がある上に、一度売ってしまえば買い戻すには金貨200枚以上の金額がかかるということでどうするか決めるにも慎重を期するべきだろう。


それから他の物もざっくりと鑑定を終え、やっとひと段落になる。


「合計で金貨500枚ほどかしら。大量ね」


これだけの戦果があれば、先ほど話していた弓矢の必要経費を充てることの異論も出ないだろう。


「私は香水を貰おうかしら」


「あたしは疲労軽減の指輪が欲しいッス」


「それ役に立つのです?」


「探索じゃなくて休む時にほしいッスよ」


「あー……」


「俺が使うような物はねえな」


「刀は?」


「流石に実戦で握るには細すぎるだろ」


「それじゃあ俺が貰おうか」


「本気か?」


「ああ」


そんな会話をしながら報酬を全て専用のマジックバッグへと収納し、全員が帰還へと意識を向けたところでアーシェラが口を開く。


「そうでした。帰り道なのですが、先頭は他の方にお任せしてもよろしいでしょうか?」


「まあ問題はないが、なにか理由が?」


「ええ、私たちはあちらに用がありますので」


そうして彼女が視線を向けたのは広間の奥。


そこにはこの部屋に入るときに潜った入口とは別の、次の部屋へと繋がるもう一つの扉が鎮座していた。

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