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080.20F⑤

「しかしキツイな」


20階層が解放された翌々日、3日で計3回のアタックを終えたエドガーたち一行は酒場で卓を囲んでいた。


初見で二体に圧倒された初日、対策装備を用意して再戦した二日目、そしてそこから更に作戦を練った三日目。


いずれも継続戦闘時間は伸びているが、しかしそれでも攻略の目処はたっていない。


そもそもどの程度の傷を与えれば撤退するかもわからないのが判断を難しくしているのだが、もし勝利条件が撤退でなければシルバー等級冒険者がグリムリーパーとリッチのコンビを打倒するのは元より不可能に近いのが歯がゆいところだ。


更に言えば挑戦するのもタダではないのでそろそろ方針を明確にしなければいけない頃合いでもある。


装備や所持品が没収されないとしても、損耗した装備の修理や補填、使用したアイテムの分だけ赤字は大きくなっていく。


もっといえば、ほぼ稼ぎなしで20階層を往復すること自体が、普段の稼ぎを失っているのと同義だ。


もしこのまま無策で敗北を続けていれば赤字は増える一方であるし、今は依頼で王都に不在のゴールド等級冒険者が帰ってきてしまう。


順当に行けば翌々日にはユルスたちが依頼を終えて帰ってくるかもしれない。


そうなる前にどうするかを決めなくてはいけなかった。


「攻略する手立てはある……」


エドガーがそう呟きながら、思案を続ける。


問題は、だれを選ぶかだ。


「よう、エドガー」


「……ネジルか」


声を掛けられて振り返ると、そこには同じシルバー等級冒険者の姿。


騒がしい酒場の中でエドガーに声をかけたネジルはそのままテーブルにドンと手をのせる。


「ようエドガー、そっちの調子はどうだ?」


「ネジルさんこそ、調子はどうなんッスか?」


答えたのはエドガーではなく同じ卓のウレラ。


「こっちか? こっちはあと一歩って所だな」


「こっちも同じく、あと一歩って所だ」


「……」


「……」


エドガーとネジルが無言で見つめ合い、そのまま首に腕を回して顔を近づけた。


「そっちも同じ事考えてんだろ?」


「同じ事とは?」


「グリムリーパーとリッチは確かに強敵だ。だが一体ずつなら、倒せない相手じゃねえ。実際に10階層でリッチは倒してるしな」


そう、一体ずつなら対処可能なのだ。


「なら、パーティーを二つ用意して、それぞれ一体ずつ倒せばいい。実際に俺たちならそれができる」


「つまり、合同パーティーの誘いか。ネジルはそういうのは嫌いそうなイメージだったがな」


「俺だって余裕がありゃ増員なんてしたくねえさ。ダセェしな。だが、ユルスたちが帰ってくるなら言ってる余裕もねえだろ」


他のパーティーに先に攻略されるというのは最悪の事態だ。


その点ではエドガーとネジル、互いの意見は一致していた。


「それはそっちのパーティー全員の意見か?」


「わざわざこんなこと、独断じゃ言わねえよ」


まずネジルたちが合同パーティーを組む意思があるという情報だけでも、情報屋に高く売れそうな話だ。


合同でパーティーを組むならばその候補は限られているし、それを知れば他の20階層初攻略を目論むパーティーも動く出すだろう。


つまり、今この場でのエドガーの返答次第で大きく状況が動くこととなる。


「どうせそっちだってどこと組むか考えてたんだろ? 俺たちに不満でもあるのか?」


不満がないのかと言われればある。


具体的に言えばこのネジルの気質なのだが、本人にそういえば面倒なことになるのは間違いない。


それに実力という点でいえば、第一候補に挙がる相手であることも間違いではなかった。


「とはいえ流石に独断で決めるわけにはいかないな。この話に反対の者はいるか?」


エドガーが質問した相手は、同じ卓を囲むパーティーメンバー。


さてここで手の一つでも上がれば再考を、などと考えていたエドガーであるが実際にそうする者は一人もいなかった。


「よし、わか……」


「その話、私も交ぜていただけませんか?」


そう返事を遮られ、視線を向けたエドガーとネジルは揃って嫌そうな顔をした。


それは目の前にいるお姫様が特大の厄ネタに見えたからだ。




エドガーとネジルは、互いに顔を見合わせてアイコンタクトを送る。


その結果、話を持ちかけた側のネジルがしょうがなく振り返って相手をすることになった。


「あいにく20階層攻略のメンツはもう埋まったからお姫様の出番はないぜ」


そんなネジルのお断りの言葉に、アーシェラは涼しい顔で反論する。


「確かに10階層を突破しているパーティーが二つあれば、リッチとグリムリーパー双方に相対することができるでしょう。しかし広間にて完全に分断とはいかないはずです。それにグリムリーパーは未だ討伐されていない相手、予備の戦力はいくらあってもよいのでは?」


「それには足を引っ張らないだけの実力があるっていう前提が必要だがな」


「それなら心配には及びません。私の二人の騎士は冒険者にすればゴールド等級相当、10階層のリッチを退け20階層にも到達しています。更に途中のゴーレムも討伐済みです」


「ゴーレムを倒したのか」


「ええ、報酬は労力に見合わない小さな物でしたが」


冒険者の中で未だゴーレムを倒したという情報は上がっていない。


それは倒すメリットが薄いということもあるが、単純に強敵だからという理由もある。


魔物の格という点ではリッチの方がゴーレムより上ではあるが、余力を残して撤退するリッチと全力で探索者を排除するために向かってくるゴーレムでは後者の方が手強いのではと冒険者の間では推測されていた。


それを倒したのならば実力としては十分だろう。


「リーリエとナツメであれば20階層も十分に立ち回れると思うのですが、私の身を守りきれる確信がないと大広間へ入るのを許してくれませんので。戦力としては三人で二人分程度と考えておいてください」


「なんだそりゃあ。それじゃ分け前は出せねえな」


「それは問題ありませんよ。私を含めて、戦利品の配分からは外していただいて構いません」


「は?」


思わずネジルが声を上げる。


「お姫様の道楽かよ」


そこには明らかに不機嫌な顔が浮かんでいる。


一般の冒険者からしたらそんな感想があがってもおかしくはない。


しかしアーシェラは反感も気にせずに悠然と答える。


「金貨以外に求める物があるというだけですよ。それは冒険者も同じなのでは?」


確かに富の他に名声を求めるという部分があるのを否定はできないが、それはそれとしてやはり納得できない顔をするネジル。


そんな様子を見てアーシェラはエドガーの方へと視線を向けた。


「私達は分け前は要りませんが、リッチかグリムリーパーか、どちらかを受け持つことは出来ます。でしたら、私たちと組んだ方が利が大きいのでは?」


交渉を途中で乗り換えるような話になるが、エドガーたちからしてみればそれは十分に考慮する価値のある提案だった。


なにしろネジルたちではなくアーシェラと組めば、分け前を渡す必要がない分報酬は単純計算で倍になる。


となればあと考慮するべきなのは本当に20階層を攻略できるかという点だが、彼女の護衛が本当にゴールド等級相当であれば十分に可能性はある。


少なくとも、リッチの担当を任せることはできるだろう。


「とはいえ私としては攻略の可能性が高い方が望ましいのですが」


つまり三組合同パーティーを受けないならエドガーたちと直接交渉するという選択肢を見せられているわけだが、判断を委ねられたネジルは渋い顔をしている。


そんな彼の返事が来る前に、アーシェラの更に後ろから声が聞こえた。


「その条件でこちらは構わないわ」


そちらに視線を向けると立っているのはハイセリンを戦闘にしたネジルたちパーティーの一行。


野次馬を遠ざけるという意味合いでアーシェラの護衛の二人が少し距離を保って酒場の客の方へと注意を払っていたのだが、彼女たちは関係者ということで通れたのだろう。


「それでは交渉成立ですね」


「ええ、そちらもこれで良いかしら?」


視線を向けられたエドガーは、他に選ぶべき選択肢が無いかを確認してから頷いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お姫様は、冒険者としての名誉が欲しいわけね
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