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079.20F④

外では日が天辺を越えたころ、ダンジョンの20階層には一組の冒険者たちが辿り着いていた。


そこには大きな扉が設置され、入り口と同じように警告が刻まれている。


とはいえそれで引き返すような者ならわざわざここまで来ることもないだろうが。


その場に立つ冒険者は全部で5名。


「行くぞ」


短くそう言ったリーダーのエドガーが大扉へと手をかける。


20階層の階段を下りてすぐの場所にあるその扉は分厚く、しかしさほどの抵抗を感じさせずに開かれていく。


中は無人。


ここに辿り着くまでに追い抜かれてもいないので、おそらく自分たちが一番槍だろうと推測をする。


部屋の造りは10階層と大差なく、大広間の奥に祭壇が見える。


そして人間だけでなく、そこには魔物の姿も見えなかったが、一行は怪しむこともなくその中へと進んでいった。


部屋の中頃まで進むと、背後で扉が閉まる。


これも10階層と同じ流れであれば慌てる必要もないが、警戒は持続していた。


そんな中で、部屋の奥、祭壇の上に空間の歪みが生まれる。


【我が領域を侵す者は誰だ】


「グリムリーパー……」


黒いゆがみから生まれた鎌を持ち黒いローブを纏ったシルエットは特徴的で、一行はすぐにその正体を把握する。


今まで戦ったことはない相手だが、そのギルドで認定されている脅威度はリッチと同程度。


十分に勝ち目はある。


一行がそう判断したタイミングで、空間にもう一つの歪みが生まれた。


【我が主の安寧を妨げる者に死を……】


響いた声と共に現れたのは、もう何度も見た姿。


思わず冒険者一行は自身の獲物を強く握りしめる。


長い杖を握り、黒いローブを纏ったリッチはもう何度も撃退した相手ではあるが、だからと言って安心できるような相手ではない。


順番待ちで一体ずつ戦えるならまだ勝ち目も、と考えるが並ぶその姿を見ればそれも望み薄だろう。


実際に、魔物の双方が動き出す気配を察し、冒険者たちは先んじて行動を開始する。


エドガーはグリムリーパーへ、ウレラはリッチへ。


勝ち目が限りなく薄い状況でも最善の動きを判断し、即座に行動に移す。


『光の加護よ・太陽の恵みよ・あふれる力よ』


カニーナが連続で唱えた治癒師の術によって、三重の輝きが前衛の二人を包み込む。


長期戦は不可能と判断しての出し惜しみなし、全力のサポートだ。


それに呼応するように、そこにいる全員が短距離走を駆け抜けるかごとく、全力で魔力を燃やした。




「いや、無理っすよ……」


バーンと開かれた扉から吹き飛ばされるように室内をはじき出されたエドガーたちパーティー一行は、奮戦虚しく敗北してしまった部屋を見ながら愚痴をこぼす。


結局敗色が濃厚となったタイミングでリッチの発生させた突風により退場させられた一行だが、傷はありながらも五体満足、そして所持品も無事である。


「よう、ボコボコにやられたみてえだな」


そんな未だに床に倒れて起き上がってもいない一行を見下ろす人影があった。


「ネジルたちか」


そこにいたのはネジルたちパーティーの一行。


おそらく中が使用中で扉が開かないので、その場で待機していたのだろう。


エドガーたちは奮戦したと言っても絶望的な戦力差にさほど時間がかからず敗退したので、辿り着いたのはタッチの差だったのかもしれない。


「んで、どんな奴にボコられたんだ?」


「流石に言わねえよ。というかボコられてねえ」


やっと立ち上がれた現状で言っても信憑性はないに等しいが、とはいえ中の状況をわざわざ教えるつもりもなかった。


「どんな相手だろうが倒しちまえば関係ねえがな」


「賭けてもいいがお前たちもここに転がることになるぜ」


「おもしれえ、報酬手に入れたら一番に見せてやるよ」


冒険者らしくやり取りをして、ネジルたち一行が扉へ入っていくのをエドガーたちは見送った。


「さて、それじゃあ俺たちは少し休憩しておくか」


「そうですね」


今日の山場は敗北で終了した訳だが、ここからの帰り道がなくなった訳ではない。


戻りの19階層分、普段であればそこまで困難な道程というわけではないが激戦を終えた後に気軽に通過できるほど易しくもなかった。


ということで一行はあらためて、腰を下ろして休養をとる。


魔力を本格的に回復させるには睡眠をとる必要があるが、一時の休息でも多少は回復させることができる。


それだけでなく、前衛陣の肉体的な疲労も鑑みて全員は体を休めていた。


「しかしキツイッスね」


「そうだな」


「流石にあのクラスを二体同時は……、そもそも本来なら一体でも厳しい相手なんですが」


10階層では日常的に打倒しているリッチなのだが、それはあちらが本気で殺る気になっていないのが一番大きい要因である。


そして今では完封に近い形で通過できるとはいえ、それは十分に対策を立てたうえで全員がリッチのみに相対しているからできることだ。


前衛二人で隙を埋めるように連携する前提が崩れるだけでも戦闘難易度は大幅に上がり、それに比例して後衛への負担も増える。


そういった意味でも、二体同時は非常に難しい戦いであった。


「敗北のペナルティがないのはありがたいッスけどね」


「これで装備を没収されてたら攻略は絶望だったろうな」


グリムリーパー&リッチ相手に毎回装備が没収されていたら、割に合わな過ぎてそもそも挑戦をやめていたかもしれない。


そういう点では高すぎるハードルへの配慮を感じるわけだが、冒険者にダンジョンを攻略させる理由は一行には不明ではあった。


どちらにしろ、稼げるなら理由など問題ではないのだが。


「流石に今日はこのまま帰還だな。対策を練って明日もう一度挑戦しよう」


実際に対策を練ってどこまで通用するかはわからないが、完全討伐を果たさなくともあちらが撤退するラインを超えることはできるかもしれない。


そんな思いとともに、一行は作戦会議をはじめ、その途中で中からネジルたちが放り出されて来た。

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