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071.17F①

ダンジョンの最深部、17階層に二つの人影があった。


前を歩くのはロングソードを左に握り、右に盾を備えた男。身体には金属の部分鎧を身に着けている。


歳は17ほどだろうか。


短くそろえた銀髪の下には、警戒した鋭い視線が光っている。


その後ろに歩くのは長い杖を持った女。白いローブを身にまとう魔術師の彼女が持つ杖の先には、角度によって青にも緑にも輝きが見える鉱石が備え付けられていた。


歳は前を歩く男と同じくらいだろうか。


長く伸びた銀髪と落ち着いた顔立ちは、どこか前を歩く男との繋がりを感じさせる。


並んでいる二人を見れば、初対面の人間でも二人を縁者だと思うだろう。


そして実際に、二人にはとても近い血の繋がりがあった。


「兄さん、敵です」


「わかってる」


前方から現れたのはリビングアーマーが三体。


前衛職を2人か3人が普通のパーティー構成で探索されているこのダンジョンだが、前衛を務める剣士のユーリはそれを1人で受け持ったうえに後ろに抜けられないように立ち回っていく。


なぜ彼らが2人しかいないのかといえば、この階層を探索するのに必要な戦力をその人数で満たしているから。可能であればパーティーの人数は少ない方が分け前が増えるから。そして双子の兄妹である彼らの主に妹のヨルの方が、あまり他人とのパーティーを組みたがらないから、などの理由がある。


とはいえその二人行動を前提とした立ち回りにも限界はある。


リビングアーマーとの実力差があってたとしても、横に3人ほど並んで通れる通路を一人で塞ぐというのには不可能な状況は生まれてしまう。


そしてユーリが1体を処理し2体目も切り伏せようとしたタイミングで、リビングアーマーが彼の横をすり抜けた。


同時に、パッと目が眩むような明かりが生まれる。


『火炎流』


赤く燃えるような輝きは、実際にその色に相応しい熱を伴ってリビングアーマーを焼き尽くす。


そして炎の流れが通り過ぎた先には、地面に転がってバラバラになった鎧しか残ってはいなかった。


物理的に鎧を破壊したわけではないが、鎧に取り付いて動かしている霊を焼いてしまえば対処としては十分だ。


それと同時に、ユーリも2体目の処理を終え、戦闘は終了する。


「まったく、ちゃんとしてください兄さん」


「そう言っても無事に終わっただろ」


一瞬横を抜かれた兄に対するヨルの抗議だが、ユーリとしてはそれくらい妹だけで十分に対処できるとしての対応だったので軽く流す。


魔法のリソースを考えれば前衛のみで対応するのが理想だが、今の階層でこの編成なら流石にそれは高望みだ。


「よいしょ」


ユーリが膝を折って、リビングアーマーから魔石を回収しマジックバッグへと入れる。


実際にこの双子の兄妹コンビで故郷を離れ、王都に小さい一軒家を借りて暮らせるほどの稼ぎを出しているので、その立ち回りには安定感があった。




「これは……?」


疑問の声を上げたのはユーリ。


17階層をリビングアーマーと交戦した地点から更に進んだ地点、彼の目の前数歩先には、不自然な空間が広がっていた。


その空間を一言で表すなら闇。


腰にランタンを括る兄妹が近くまで寄ってみてやっと気づいたことだが、通路の一線を画す空間から先には全く物の姿が見えなかった。


それは暗いという表現を越えて、なんらかの仕掛けで一切の光を反射しないように作られているかのような完全な黒である。


試しにユーリが左の剣を差し出すと、それが刃の中頃で輪郭を失い闇に飲まれていた。


ある意味騙し絵を眺めるようなその光景を見るに、壁が光を反射しないだけでなく空間そのものが光を吸収しているようだ。


感覚でいえば真っ黒な液体で満たされた空間のようなものだろうか。


一応剣を引いてみれば、そこにはなんの変化もなく十全な状態で保たれている刀身が現れたので、危険はないと推測できる。


もし一歩でもそこに踏み入れれば、すぐ近くを歩く兄妹の姿すら視覚で判別することはできないだろう。


そして魔物の気配はないが、視界を完全に塞がれてしまえば罠を探知するのは難しい。


「どうする?」


まだ先に進んでいない通路もあるのでそちらに向かうという選択肢もある。


そんな意図をもって、いつの間にか隣へと並んでいたヨルへと問いかける。


「…………、このまま進みましょう」


「いいのか?」


「何か問題でも?」


問題でもと言われたら、どう考えてもこの安全を確保できないゾーンを避けて他の道を先に進むのが正解だろう。


しかしヨルはそんなことは分かったうえで言っているということを、ユーリも長い付き合いで理解していた。


ならばわざわざそんな理屈を説明しても、意見は変わらないこともわかっている。


「んじゃ行くか、ほら」


「なんですか、その右手は」


差し出された右手にヨルが眉を動かす。


「進んだら何も見えないんだろうから、こうしとかないと危ないだろ」


「私は魔力探知である程度は動けますが」


「俺が動けなきゃ困るだろうが」


「そこは兄さんがどうにかすればいいのでは?」


「どうにかならないからこうしてるんだろ。これを繋ぐかこのまま引き返すか、二つに一つだ」


「……、しょうがないですね」


暗闇の中で前衛が後衛の位置を把握できなければ、その中で立ち回るのは困難だ。


見えない空間でパーティーメンバーを斬ってしまったとなれば笑い話にもならない。


その点で手が繋がっていれば、互いの位置をある程度は把握することができる。


そんな合理的な判断でヨルが握った手の冷たい感触をユーリが確かめる。


「それでは、行きましょうか」


「俺が前の方がいいんじゃないか」


「兄さんはこの中ではまともに動けないでしょう」


「そんなことないが」


ということで、結局二人並んで一歩前に踏み出した。

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