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目指すは異世界で最強の王道ダンジョンマスター。~王都徒歩5分『美人秘書』付き~  作者: あまかみ唯
二章

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070.料理

「ふぅ」


ソファーに横になって息を吐くと、近くにいたルビィに声をかけられる。


「お疲れですか、主様」


「そうだね、ちょっとだけ」


王城への呼び出しがあってからこっち、色々なことがあって結構心労が溜まっていたのを感じる。


俺は引きこもってダンジョンを作っていたいだけなのにちくしょうだれがこんなことを。


なんて言ってみても、ダンジョンを大きくすれば避けられない問題なのでしょうがない。


拡張効率を上げるには冒険者を増やすのが一番だし、冒険者を増やすには報酬を増やすのが一番だからしょうがないんだけどね。


おかげでダンジョン拡張自体は軌道に乗って順調に進んでるし。


とはいえ働きづめなら休みたくなるのが引きこもりの心情である。


つーか年中無休で労働させられている時点で引きこもりもくそもねーんすよ。


しかも24時間営業だし労働環境ブラックってレベルじゃねえ。


食事も睡眠も必要ないこの体じゃなかったら秒でやめてるわ。


なら定休日とか営業時間でも決めればって話になるんだけど、あんまりそういうことはしたくないんだよねえ。


そもそも休んだ分だけ拡張が遅れるっていうのもあるけど、それ以上に常に開いているっていう安定感は大切だろうし。


まあ夜は基本的に冒険者はほとんど来ないんだけどさ。


あと定期的に休むなんていう人間らしい挙動をダンジョンとしてあんまりしたくないっていうのもある。


運営してる人も疲れるんだな、とか思われたくないしね。


一応まだダンジョンマスターとして存在を認知されている相手は極一部だから、一般的には謎の存在になっているはずなんよ。


そういう感じは大事。これが無くなると気軽に話しかけられたりしそうだし。


いやもう一部の相手は気軽に話しかけてくるんだけどさ。


返して!俺の引きこもり生活を返して!って言いたくなるよね。


まあ言ってもしょうがないんだけど。


「それでしたら、しばらくの業務はわたくしが一人で処理しておきますわ」


「んー」


そうしたら実際楽にはなるんだけど、ルビィが忙しくなるんだよね。


まあルビィは忙しかろうが気にならないかもしれないけど、こちらとしてはあんまりその状況で心置きなくゆっくりするのも難しい。


あとルビィがいない状況でひとりで休んでてもぶっちゃけ虚しいだけって話もある。


「なにか主様を癒せる方法があれば良いのですが」


ルビィがおっぱい揉ませてくれたら元気になるよ、とは流石に言えない。


言ったら揉ませてくれそうだけどね、流石にね。


あとは膝枕とかかなー。


こっちは言ってもいいんだけど、あんまり何度も膝枕してもらうともう一ミリも動きたくなくなりそうで怖いんだよね。


「しかし何も思いつかないな」


元引きこもりなわけだが、ネットとゲームと読書を全て封じられると他の娯楽なんて思い浮かないレベルだ。


まあテーブルゲームくらいならこっちでも作ってて実際に遊んだりしてるんだけど、今はそういう気分じゃないし。


「ああそうだ、料理でもしようか」


「料理ですか?」


「うん、食事は娯楽の基礎だしね」


あっちで引きこもりに存在してて、こっちで再現できる娯楽といえばこれが一番かなって感じはする。


ということでキッチン台と、包丁まな板他色々を生成魔法で用意してみる。


「それじゃあルビィ、これを着けて」


「これは、なんでしょうか?」


「エプロンっていう前掛けだね。料理をする際に服が汚れないようにするやつ」


まあこの世界じゃ浄化の魔法があるから必要ないんだけど、ルビィは特にその点には突っ込まず首を通して身に着けてくれた。


そんなルビィを正面から見ると、上はドレスがエプロンに隠れて、一見何も着ていないように見えるのが素晴らしい。


もう今日はこれだけでだいぶ元気になったよ。まあ料理はするけど。


ということで本格的に調理開始しようかと思ったんだけど、ひとつ問題があった。


食材が全くない、のは生成魔法でどうにかするんだけど、火がないから基本的な調理のほとんどができないんだわ。


「どうしよっか」


「わたくしが、魔法で火を出しましょうか?」


「うーん、でもそれだとルビィがそれにかかりっきりになっちゃうだろうしなー。魔石を使ってもいいんだけど、それはそれでもったいないよね」


まあ火の魔石の正しい使い道と言われればその通りなんだろうけど、これからも毎回料理する時に魔石を使うのはちょっと無駄遣いな気がしてならない。


まあ食材の時点で無駄といえば無駄なんだけどね。とはいえ節約というか改善できるところは改善したい気持ちもあるわけで。


「木材燃やすのも匂いが気になるしなー」


これが外ならまだいいんだけど、室内だとそもそも煙とかどうなんの感があるし。


「それでは、それ用の魔物を呼び出してはいかがでしょう?」


「あー、なるほど。確かにそれは名案かも。なにか丁度いい魔物とかいる?」


「それでは、こちらなどはいかがでしょうか」


ルビィが開いた魔導書のページにはそのまま炎のイラスト。


名前をファイアーエレメンタル。火の精霊だね。


それは魔物でいいのか?と思わなくもないけどまあ魔物って括り自体がすごい雑だし気にしてもしょうがないか。


俺だって人間側の認識じゃ魔物だしね。


「というか結構必要な魔力量が高いね」


「別の魔物になさいますか?」


ファイアーエレメンタルの召喚に必要な魔力はおよそ1万。


魔力量的にシルバー冒険者とタイマンしたら良い勝負をしそうなくらいの必要コストだ。


流石にゴーレムとかよりは安上がりだけど。


「まあでも他のことにも使えそうだし、ひとまず呼んでみようか」


折角ルビィが選んでくれたんだし。


「それでは」


「うん」


ということで魔導書に手を重ねて、そのまま魔物を呼び出す。


この行為自体はもう100回以上繰り返してるから慣れたものだ。


呼び出された火の精霊は薄っすらと人型を取りつつ、すごいメラメラと燃えている。


「これって命令とかできるやつ?」


「ええ、大丈夫なはずですわ。本来ファイアーエレメンタルは気性が荒い精霊ですが、召喚主には従うはずかと」


気性が荒いとか怖いんだけど、まあ直接的な被害はなさそうだしいいか。


もし冒険者の前に出すならまた運用に気を付けないといけなそうだけど今は気にしないこととする。


「それじゃあ、この辺に小さな火を出してくれる?」


俺が鍋を置くために作った金属の土台の下を指定してそう言うと、彼?彼女?がゆらりと揺れてぼっと炎が生まれた。


「おー、すごい」


魔法的な飛んでったり爆発したり操られたりしない普通の火って久しぶりに見た気がするよ。


「もうちょっと弱火でお願い」


とリクエストをして、ちょうどコンロの強火くらいの勢いに調整してもらう。


「そんじゃー次は水ー、……水か」


火が火の精霊に出してもらえるなら水も水の精霊に出してもらえばいいのでは?


「それは名案ですが、火と水の精は相性が悪いので同時に運用するのは避けた方がいいかもしれませんわ」


「あー、相性とかあるんだ」


基本無生物系の魔物ばっかり呼び出してたから気にしたことなかったぜ。


というかそもそも喧嘩するくらいの知性がある魔物の方が少ないし。


まあそういう魔物を優先して呼び出してるんだけどさ。


こうなんというか、統率者の威厳的なものが存在しないのは自覚してるしね。


リッチとかも居るっちゃ居るけど。


「ちなみに喧嘩って命令したら止められたりはしない?」


「精霊の相性は本能レベルのものですので、難しいかもしれませんわ」


「そっかそっか」


んじゃ今はやめといた方が良さそうね。


「それじゃあルビィ、この鍋の中に水を入れてくれる?」


「かしこまりましたわ、主様」


ということで水の用意も完了。


「そんで次は、ほい」


「魚ですか?」


「うん」


魔法で作ったのはこっちの世界の赤身魚。


それを三枚におろしてから身を切り落として刺身の完成。


昔スーパーのバイトで何回も繰り返した工程だからお手の物である。


こっちの世界だと浄化魔法で魚臭さもすぐ取り除けて最高ね。


「そういえば、生成魔法で作った魚って寄生虫とかいるのかな?」


「おそらくいないと思われますわ」


「マジか」


じゃあ川魚も刺身で食べ放題じゃん。


そもそも川魚を刺身で食べて美味いのか知らないけど。


というかその理屈だと豚とか鳥も生で食えるのでは?


いやでも流石に怖いからそのへんはまた今度にしておこう。


「ルビィもやってみる?」


「やり方を教えて下さいますか? 主様」


「もちろん」


ということで、彼女の後ろに回ってキッチン台に向かい重ねるように手を添える。


ルビィの手はいつものように柔らかくて、何度触れてもドキッとするのは秘密。


「そしたらまずお腹に切れ目を入れて……」


順番に手順を教えていくと、普通に俺より上手い三枚おろしが出来上がっていた。


ルビィはなにやらせても優秀だなー。


これならルビィの手料理を食べさせてもらえる日も近そうだ。


「というわけで、完成~」


それから他の素材も用意したりして、一通りの行程を終える。


そして俺とルビィが向かい合う食卓には、料理ののった食器が置かれていた。


「これは、独特な見た目をした料理ですわね」


「そだね」


長方形に握った米に生魚をのせたそれは、日本人といえばのご存じの寿司である。


「ちなみに口に合うかはわからないから、好みじゃなかったら気にせず言っていいよ」


米+生魚とか馴染みのない文化圏からしたらかなーり人を選ぶ食い物だしね。


じゃあもっと食いやすいもん出せよって話ではあるんだけど、俺が食いたかったんだからしょうがない。


あとどうせ実際に食ってみないと反応もわからんしね。


そもそも使い魔の生態が謎だし。わりと王都で買ってきたものは素直に好評だったりするけど。


「それじゃあいただきます」


「いただきますわ」


ということで俺が手掴みで寿司を食べると、ルビィも倣って同じように口に運ぶ。


彼女の容姿自体は完全に外人さんだからちょっと不思議な光景だ。


別に文句があるわけじゃないけどね。


「うん、美味しい」


別にこっちの世界に来てからに不満があるとかいうわけでもないんだけど、やっぱりこうやって故郷の味を感じると懐かしくなる。


魚の味もあっちとほとんど変わらないし。


やっぱりすげえぜ、サーモン!


まあ他にも色々あるんだけどね、トロとかうにとか海老とかイクラとか、に似た物。


「ルビィはどう?」


「とても美味しいですわ」


「それは良かった」


わりとルビィは何食べても美味しいっていうけど、味覚の好みの基準ってどこにあるんだろう。


まあそもそも人の食い物の好き嫌いが何で決まるかなんて知らないんだけどさ。


「主様はどれがお好みですか?」


「そだね」


どれが、というのは目の前の寿司ネタの中でってことね。


「やっぱりこれかなー」


ということで10種類ほど並んでいるネタの中から選んだのは再びのサーモン。


うーん、おいし。


ちなみにさっきのは刺身で今度のは炙りね。


「なるほど」


そんな俺のチョイスを見て、ルビィも同じものを口に運ぶ。


「確かに美味しいですわ」


「好評なようでなによりだよ」


それから二人でそれぞれに用意した分を完食してから、今度はこちらから聞いてみる。


「ルビィはどれが一番好みだった?」


「そうですわね、やはりトロでしょうか」


「そっかそっか。それじゃあ今度はトロで別の料理でも作ってみようか」


「楽しみにしていますわ、主様」


「うん」


前世じゃ引きこもってからは人と食事することなんてほぼなかったけど、ルビィとならこういうのも悪くはないかな。


「ファイアーエレメンタルもありがとね」


料理を手伝ってくれた火の精霊にもお礼を言うと、反応を示すように心なしかその姿が揺れたような気がした。


気のせいかも。

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