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064.金貨1000枚

「不可能だ!」


声を張り上げて反論するのはもう何度目かの声にして今一番立場が悪い人物。


「不可能ではないでしょう。当ダンジョンが出来てから本日までの王都の交通量の増加はおよそ日に200人。これだけで銀貨200枚、金貨にして6枚以上。さらに増えた人間のために持ち込まれる食糧、武具、資材などの関税。都市から持ち出されるダンジョン産の魔石、武具、装飾品の関税。これを全て数えれば日に金貨20枚はくだらないでしょう。そしてその数字は未だ増加傾向にあります。その他に当ダンジョンから冒険者により王都に持ち出された魔石の総額は金貨にして1万枚以上に上ります」


「しかし迷宮側も、冒険者から金品を得ているだろう!」


「得ているのは冒険者の資産であり、それには王都側に直接的な損失はひとつもないでしょう? そもそも冒険者とは必要とあらばどこへでも行く職業なのですから。損失を受けるとすればギルドの依頼が滞ること、もしくは冒険者による消費の減少でしょうが、現在はそのどちらも発生していません。それに冒険者から得た品のいくらかは、そのまま冒険者へと還元していますよ。これ自体はむしろ買い取りから再販売という過程を経て、王都への利益へとなっているはずです」


まあその理屈だと持ち出された金貨1万枚以上の6割くらいは冒険者の取り分で王都の利益ではなくなるんだけど、それを抜きにしても金貨数千枚の利益は生まれているはずだ。


「話を戻しましょう。金貨1000枚という数字は、当ダンジョンからの王都への影響を考えれば決して払えない金額ではないはずです。実際にその何倍もの利益がもたらされているのですから」


実際には税として国家運営に入る金額はその何割かだけだろうけど。


「しかし、実際問題では今すぐに金貨1000枚という数字を用意するのは難しい」


これは宰相様の言葉。


物理的に不可能ではない。しかしそれだけの金貨を吐き出してしまえば他の部分に負担がくるというのも事実だろう。


「そうですね。私も王都の市民に、もしくはこの国の民の暮らしに影響が出ることは望みません。でしたら、この問題の発言者に責任を取らせるのがそもそもの筋かと思われますが如何でしょうか」


「そのようなことをできるはずがない!」


と抗議の声を上げたのは、そもそもの発言をした張本人。


「そうでしょうか。モリスティール卿は教会との関係も厚く、王都の教会を取り仕切る司祭とも懇意の仲とか。おおよそ今回の発言も教会との関係のためにしたものなのでしょう。その見返りに、教会からも贈り物を受け取っていると聞いていますよ。実際に当ダンジョンから持ち出された金や銀、魔石の数々が屋敷に運び込まれているのはこちらでも確認しています。更に言えばその金で度々花街へと赴き、そのうえ時には街で女性を買い館へと連れ込んでいるとか」


「な、なぜそれを……」


「なぜそれをと言われましても、王都の民に調査を依頼したらすぐにわかるような情報にそんな不思議そうな反応をされても困りますよ。実際に言葉にしないだけで、ここにいる方々の全員がこれくらいの事実は把握しているでしょう」


逆にそんな事実が把握されていても追求をされない程度には地位と権力があるということの裏返しなのだけど、こちらには関係ないこと。


それにダンジョンに害意を持っている貴族の身辺調査なんてされて当たり前だと思うわけだが、本人にはそんな発想もなかったらしい。


まあそんなことに気を回すような知性があるなら、わざわざ失言もしないか。


「更に言えば金で買われた女性の一部は屋敷に入ったまま二度とは出てこないとか。こちらは実証はありませんが、もし私財の差し押さえで屋敷を捜索されればなにか痕跡が見つかるかもしれませんね」


「で、でっちあげだ!」


「それは調査をされればわかることでしょう。まあその行為がこの国の法で罰せられるかは存じませんが。少なくともワグナリス教の教義を考慮すれば、そちらからの批判は免れないかもしれませんね」


その相手が奴隷であれば、殺してもこの国の法では罰せられないかもしれない。


だが淫行に耽ることも無用に人を傷つけることも教会の教義に反することは事実だ。


なのでこの噂と教会の偉い人との関係が合わさると批判は免れない。


「そもそも教会との関係のために当ダンジョンから税を取るというなんの理もない提案をする時点で、忠を尽くす相手を間違えているのではありませんか? そう考えれば、個人で責任を取ることも自然な理屈かと」


国益のための発言であれば、個人へ責任を追及することにも情状酌量の余地もあるかもしれない。だが他の組織のためとあればそれは同情の余地もない背信行為である。


しかしその言葉に、王様は眉を動かす。


「余に命令をするつもりか?」


「とんでもございません。ただこちらとしては明らかに害意がある者を処分していただければ、これからの関係も安心してより円満なものとできるのではと意見を述べさせていただいているだけですよ」


この国の王様が魔族の言いなりになった、などという風説を防ぐためにも必要な確認事項。


ただそれは、結論の前の建前作りでしかない。


「よかろう。王国から迷宮への支払いは、モリスティール卿の私財をもって充てることとする」


「陛下!」


うーん、一件落着。


ということで後のゴタゴタはあっちで解決してもらうとして、こっちはもう用事はないのでスタコラサッサさせてもらおう。


「それでは当ダンジョンはこれまで通りに運営させていただきます。予め伝えておきますが、この国と、この国の民へと害する意思はこれまでもこれからもありませんので、ご承知ください」


まあ言えば信用される、とは思わないけど一応ね。


「それでは、互いに友好的な関係と、末永い繁栄をお祈りしています」


いや、友好的じゃなくていいから二度と会話しない関係がいいかな。




なんて俺の願いは数日で裏切られることになるのだけれど。

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