057.魔道具を売ろう!
「こんにちはー」
ということで訪れたのはいつも買取してくれている商会の店舗。
「いらっしゃいませー」
今日もいつものように、猫耳の店員さんが挨拶をしてくれる。
ちなみにここにはルビーの原石の調達とその他素材を頼みに定期的に来ているのですっかり顔なじみだ。名前は知らないけど。
「今日も素材の仕入れですか?」
「いえいえ、今日は買取してもらいたいものがありまして」
「なるほど、また蔵から出てきた物で?」
「今日はちょっと違って、作った物を見てもらいたくて来ました。これです」
言いながらマジックバッグから取り出したランタンを目の前のカウンターへ置く。
「ふむふむ、これは魔道具ですね。でも普通のランタンとはちょっと違うような……?」
「ええ、これは無垢の魔石を使い稼働するランタンになります」
俺が説明をすると、店員さんはちょっと驚いたような、もしくは感心したような顔をする。
「実際に使ってみてもいいですか?」
「もちろん、魔石は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
「それでは、ここを持ち上げながら捻ると下部が分離しますので、その受け皿の白く塗ってある方に光の魔石を、そうでない方に無垢の魔石を入れてみてください」
俺が使い方を説明すると、店員さんが奥の棚から自前の魔石を取り出してその通りに中に入れる。
そして再び受け皿の蓋を閉めると、ランタンのガラスの中にぱっと光が生まれた。
「本当に、無垢の魔石で稼働してますね」
鑑定用の魔道具で確認しながら、店員さんは驚いたように言う。
ルーペのようなその魔道具で、魔力の流れを見て判断したんだろう。
実際にそっちの魔石で稼働してるのを実証するのはちょっと面倒かなと思ってたけど、彼女が優秀でありがたい。
「ちなみにこれはどういった技術で?」
「残念ながら作ったのは私じゃないのでそれはわかりません。製作者曰く、なぜ無垢魔石を燃料とする仕組みを使おうとしないのか逆に疑問だと言っていましたが」
「こちらも詳しくはわかりませんが、光の魔石の機能を引き出したうえで、魔力を他の魔石に代用させる仕組みをこの大きさの部品で実装するのが難しいと聞いたことはあります」
十分詳しくない?と思うけどまあ実際には更に細かい仕組みが沢山必要なんだろう。
俺? 俺はルビィの助言と魔導書のサポートで魔法一発だったから詳しい理屈は知りません。
多分店員さんの言ったとおりに細かい部品に魔術を刻むのが難しいんだろうね。米粒に絵を描く的な?
「ちなみにこれ、他の技術者にも作れると思います?」
「そうですね……。こうして実物が有るのであれば不可能ではないかもしれませんが、すぐには難しいでしょうね」
「それはよかった。実はこれと同じ物がもう50あるんですけど、そちらも買い取ってもらえませんか?」
「それは、ずいぶん大きな取引になりますね。そこまで行くともうご自身で商会を立ち上げて取引した方が利益は大きいかと思いますよ」
つまり俺→猫耳店員さん→実際に使う顧客じゃなくて、俺→顧客の方が儲けがでかいってことね。
その分手間も増えるけど、実際に手間以上の利益が生まれるだろう。
まあ王都で物を売るなら商会を作って取引する権利を得ないといけないんだけど。
もしくは実際に店舗を作って商店としての許可を取るか。
「個人的にはこれであまり継続的な取引をする気もないので、買取してもらえるならそれで十分ですよ」
客を相手にする売る側になるには許可が必要だけど、こちらが客として買い取ってもらうならその手間も必要ない。
金貨にはそこまで困ってないしね。実際に今回は金稼ぎじゃなくてあくまで魔石の相場回復が主眼だ。
あとダンジョン側の人間が王都で店を持つとか絶対面倒ごとになるでしょっていうのもある。
「わかりました。それでは買い取りは50個として、1個につき金貨5枚でいかがでしょう?」
「そうですね、それでは1個につき金貨4枚の買い取りでいいので、ひとつ条件を付けさせていただけないでしょうか」
「お聞きしましょう」
「ええ、この50個はお渡ししてから10日以内に全て実用される顧客に販売してほしいのです」
これは早急に魔石の相場を上げるための措置。
少しずつ需要が増えるよりも一回ガツンと消費量が増えた方が市場へ与える変化も大きくなるんだよね。
なので更に小売りに卸したりするのではなく、直接使う人間に売ってほしいって話。
まあ結構な無茶を言っているのは理解しているんだけど、金貨1枚の割引も相当なので一考の余地はあるだろう、と思ったのだけど彼女にはそんな素振りは生まれなかった。
「そんなことでいいんですか? お急ぎでしたらお受け取りしてから5日のうちに全て売っておみせしますよ」
マジかよ。
「随分すぐ売れる見込みがあるんですね」
「ええ、こちらでしたら大口の取引を結べれば十分に売り切れる数字ですから」
すげー。
「それでは、もう一つ、最初の50個に加えて追加で50個も同額で買い取っていただきたいのですがどうでしょう?」
「そちらも同じ条件ですか?」
「いえ、こちらは急ぎませんが、一つの顧客に対して1個までとして、なるべく多くの人に売っていただきたいのです」
「なるほど、そういうことですか」
納得して耳をくいっと動かす店員さん。話が早くて助かるわあ。
「なるほど、そちらも問題ありません。合計100個買い取りさせていただきますね」
「よろしくお願いします。ちなみに魔石の消費量とか、実際の稼働時間とか確認しなくて大丈夫ですか?」
「ええ、実際に鑑定すればわかりますので。自分の判断を信じられないようなら商会の店舗を任されていませんよ」
やだ、カッコイイ。
あっちの世界の現代じゃ信じられないような価値観だけど、クーリングオフなんて存在しないこっちの世界じゃこれくらいの覚悟と判断が出来て当たり前なんだろうなあ。
ということでお互いに一礼をして商談成立。
「もしここまでお持ちいただくのが手間でしたらこちらで受け取りに伺いますがどうしますか?」
「それは大丈夫ですよ」
というか取りに来られても困る。
流石にダンジョンで受け渡しするのでなんて言えないしね。
ということで、それから納品の日程と詳細を決めて店を出る。
「それじゃあルビィ、なにか美味しいものでも買って帰ろうか」
「はい、主様」
これでしばらくすれば、おそらく魔石の相場も戻るだろう。




