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049.14F②

「宝箱ね」


一行が通路の行き止まりで見つけたのはひとつの宝箱。


罠はある程度回避する技能を持つ一行だが、宝箱の解錠は道中の罠の探知よりも難易度が高く危険性も大きい。


流石にこれをある程度は大丈夫といった確率で挑むのは無謀なことを知っているメリサは、モーガントスとヤスミーンに視線を向けた。


「二人とも、お願いできる?」


「はい」


「うん」


頷いた二人が、それぞれ魔法を唱える


『魔力探知』


『透視』


それぞれの魔法はリソースを消費する上に各人の個人技能も要求されるが、二つの魔法を併せて使えば宝箱の解錠の成功確率も信用できれるレベルまで高めることができる。


浅い階層では消費するリソースと得られる財宝の期待値から選ばれることのないこの手法でも、シルバー等級でも実用レベルの武器が出る14階層では十分にやる価値があった。


ただ実際に儲けを考えるなら一人頭の分け前が減るとしても探知や解錠技能を持ったものを連れてきた方がリソースを節約できる分だけ効率が良いのだが、四人は今のこのパーティーが気に入っていたので提案する者は居なかった。


「鍵穴から罠に術式が繋がっていますね。おそらく毒粉系の罠でしょう」


「たぶん手前から三番目のピンはダミーで、そこを押して開くと罠が作動すると思います」


鍵の仕組みは内部に数本あるピンを押して高さを合わせると鍵が回るようになるという単純なもの。


ただし今回の鍵には、ひとつだけ押すと罠が発動する仕掛けがあった。


「それじゃムーリス」


「はいはい」


メリサから渡されたロックピックを握って宝箱の前に座り込む。


指示された通りに手前から三番目のピンには触れずに、他のピンの高さを合わせてからぐいっと鍵穴を回した。


ガチャリと鍵の開く音がして、そのまま蓋を外す。


中身は金でできたルビー付きの指輪が一つ、銀のうさぎが二つ。


それを見たムリースは足を刈られた苦い記憶を思い出して少し渋い顔をするが、それはそれとして見たくないから持ち帰らない、というほどではなかった。


「武器じゃなかったわね、残念」


「指輪はエンチャントがかかっていますね」


この階層の当たり枠はエンチャント付きの武器なのだが、それはそこまで頻繁には見かけない。


そして宝箱に比べてずっと小さい中身の指輪は見た感じがっかり感があるが、これも素材が金でエンチャント付きであれば当たり側の中身だ。


少なくともリスクをとって宝箱を開けるに見合う価値がある。


そんな指輪を持ち上げたモーガントスが難しい顔で言う。


「鑑定してみないと使うのは怖いですね」


そんな言葉に、ヤスミーンも同調する。


「どちらにしても、詳細は鑑定してもらわないとわかりませんね」


武器などは実際に振ってみれば効果がわかることはあるが、アクセサリーの類はそういうわけにもいかない。


疲労軽減など詳細がわからないと確認しづらい効果もあるし、それにそこまで頻度は高くないが呪われていたら酷い事態になる、という話を他の冒険者から聞いていた一行は渋い顔をした。


実際にエンチャントがされていると一旦鑑定を頼む手間が面倒だと思う冒険者は多い。


買取に出すにしても実用するにしても、どちらにしてもその過程で鑑定料も取られることになるから猶更だ。


まあ、実際には呪われていなければ鑑定料以上の付加価値が生まれることは多いのだが、逆に大当たりも少ないのが冒険者の気質には合わないのかもしれない。


自身で鑑定ができればそれが一番効率が良いのだが、鑑定には魔導具が必要であるし、それに加えて本人の技能にも左右されるのでそれが出来る者はほぼいない。


「こっちのうさぎはエンチャントされてないな」


「ひとつで銀貨で20枚くらいかしら」


左右の手にひとつずつ載せて重さを量るメリサに、ムーリスが微妙な顔をする。


「なによ」


「別に、なにも言ってないだろ」


実際になにも言ってはいないが、表情の変化は伝わっていたメリサは不満そうな声をあげた。


「どうせあたしにうさぎは似合わないとか思ったんでしょ」


「自覚があるからそんな風に思うんだろ」


「なによ!」


と喧嘩が始まりそうになった二人の間に、モーガントスとヤスミーンが割って入る。


「まあまあ」


「メリサちゃん、そんなに怒ってたら顔が怖くなっちゃうよ」


「ちょっとやめてよヤスミーン、わかったから」


長らくの付き合いで二人の仲裁にもすっかり慣れたもう二人がその場をなだめ、メリサの眉間にできた皺をぐにぐにと揉むヤスミーンの手から逃れた彼女が仕切りなおすように言う。


「それじゃあ進むわよ」


「はいはい」




それからしばらくは無言で通路を進み、ムーリスとメリサが同時に足を止めた。


「敵よ」


彼女が感じ取った気配は4つ。


金属音が二つ、石に当たるような音がひとつ。


そして、カタカタと何やら聞き慣れたけれどここでは聞かないはずの音だった。


「ヤスミーン、防御をお願い!」


『光の盾よ』


治癒師のヤスミーンの魔法によって、一行の身体を保護する光が生まれる。


それから一瞬を置いて、通路の先の暗闇がパッと明るくなり、その赤い光源がメリサたちへと飛んでくる。


それは一行に届く前に地面に落ち、そのまま爆ぜると同時に爆音と熱風が全員を撫でた。


火球が地面に落ちたのは、まだ互いの距離が離れているからだろう。


それでもヤスミーンの魔法の防御がなければ爆発から距離の近い前衛の二人は火傷のひとつでも負っていたかもしれない。


『炎渦』


そこからお返しにと差し出した杖から放ったモーガントスの魔法は、前衛の二人の間から炎の渦を生み、伸びたそれはリビングアーマーの間を通って更に後ろにいた石犬とスケルトンメイジを焼き払う。


炎に耐性があるリビングアーマーは倒せてはいないが、魔法に弱い石犬とそもそも格下の魔物のスケルトンメイジは炎の渦に飲み込まれてそのまま床へと焼け落ちる。


同時に左右に分かれて飛び出したメリサとムーリスは、右手に握った剣を振るい戦闘を終了させた。


「しかし驚きましたね」


「メリサちゃんのおかげ」


「まあそれほどでもあるけど」


「はいはい」


褒められたメリサが胸を張ると、それをムーリスが軽く流しながら倒れた魔物を確認していく。


そこで一番目を引くのはスケルトンメイジ。


今までも9階層未満で目にすることはあった魔物だが、基本は睡眠の魔法を使う後詰めで、先制攻撃で火球を飛ばしてくるなんて話は聞いたことがなかった。


「ここまで来た冒険者なら、これくらい対抗できるだろってことですかね」


「かもな。シルバーの俺たちならともかく、アイアン以下は下手したら死ぬだろ」


基本的に人死にに配慮しているこのダンジョンで、9階層未満で火球が飛んで来たら低位の冒険者なら命を落とす危険性も十分にある。


それに対して14階層まで降りてきた実力のある冒険者なら、怪我はしても死ぬことはないだろうという配慮だろう。


「しかし結構厄介ね」


スケルトンメイジ自体はアイアン等級なら普通に対応できる程度の強さの魔物だ。


しかしこの暗い環境と狭い通路、それに罠の危険性と無視できない程度の前衛がいると、脅威度が外での遭遇よりも何段か上がる。


それでも後れを取るようなことはないが、どちらにしても治癒師のリソースが削られることは避けられなさそうだ。


「ヤスミーンの防御の魔法があればこの距離なら無傷で済むけど、それでも気を付けないといけないわね」


互いの接敵した距離によって、突っ込むのか一度退くのか防御するのか、判断を見誤れば大怪我に繋がる危険性もある。


「各々の魔力管理にも気を付けないといけませんね」


前衛だけで大抵の問題を解決できていた低層と異なり、そろそろ本格的に魔術師や治癒師も含めた全員の消耗を考えた探索を心掛けるようになる必要が出てきそうだ。


「まあ俺はやることは変わらないけどな」


「ムーリスは本当にバカね。ヤスミーンの魔力が尽きたらあんたが怪我しても治療してもらえないのよ」


「そこはヤスミーンのことを信じてるから問題ない」


「あ、ありがとうございます」


「ほんとバカ」


「まあまあ、どちらにしても今まで以上に気を付けて探索しましょう」


「本格的にダンジョンらしくなって楽しくなってきたな」


最後を締めたムーリスの言葉に、メリサはまたため息をついた。

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