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046.11Fリターンズ②

「おっ、宝箱」


一行が何度か魔物を狩ったあと、道の突き当たりに宝箱を見つける。


「今日は誰がやる?」


と言ったのはホラツーク。


このパーティーは斥候役が居ない代わりに、兄弟全員が同じ程度の解錠技術を有しているので、担当するのはその日の気分と流れで決めることが多かった。


「ホラツーク、やっていいぞ」


「私も、遠慮しておきましょうかね」


「…………」


全員棄権によって自然に担当がホラツークに決まる。


状況的に他の兄弟がやった方が良い場合を除き、自主的にやりたがるのはホラツークだけの場合が多いので、本人的には半ば予想していた結果だろう。


「じゃあ中身はなにかなー。そうだ、ミレーヌちゃんもやってみる?」


「ええっ? 私には無理ですよ!」


解錠道具を取り出しながら、視線を向けたホラツークに、ミレーヌは慌てて首を振った。


「そんなことないって、ちゃんと教えてあげるからさー」


「いいから、早くやれ」


「いてっ」


槍の柄尻で頭をこつんと叩かれたホラツークはヘインツへと抗議の視線を向ける。


「ヘインツ兄ちゃんは乱暴だなぁ、ってそっちはダメでしょ!」


先程まで柄尻が前を向いていた槍がくるりと半回転して刃先が前に向き、慌ててホラツークが宝箱へと向き合うとくるりと逆回転して元に戻った。


それから少しの間は、カチャカチャと解錠の音が響く。


「んー、よし開いた」


鍵穴をカチッと回し蓋を開けると、正しく罠が解除されていたそれは問題なく中身を見せる。


そこに入っていたのはロングソードが一本と銀のうさぎが一匹。


「これはアタリですかね」


ロングソードは魔力が込められているのがわかるのでおそらく高く売れるだろうとマスカリアスが推測する。


「最近よく見るね、このうさぎ」


「可愛いですよね」


一方武器に興味を示さない三男につられて、ミレーヌもそれに目を落とす。


拳大の銀で出来たうさぎは耳が長く、よく思い出してみれば11階の入り口でであったうさぎと同じ特徴であることに気付く。


それはとうぜん銀としての価値があると同時に、一部ではそのデザインが人気になっていた。


まあ結局は戦利品として一人で貰うには価値が高く、結局買取してもらった銀貨を人数で等分する場合がほとんどなのだが。


そんな銀のうさぎをホラツークが持ち上げて、彼女に差し出す。


「それじゃあこれはミレーヌちゃんにあげる」


「そんな、貰えませんよ」


自身だけ等級が低いにも関わらず分前は均等という時点で恐縮していた彼女がぶんぶんと手を振って遠慮する。


「だいじょぶだいじょぶ」


それにも構わず差し出したホラツークに、ヘインツが珍しく同調する。


「大丈夫だ、ホラツークの分前からその分抜いとくからな」


「ちょっとヘインツ兄ちゃん!?」


「あはは、兄さんたちは仲良しですね」


下から三番目までの兄弟とミレーヌがそんな話をしている中、長兄のフリンだけは手にいれた直剣を振ってその感触を確かめようとする。


そして実際に剣が風を斬ると同時に、フリンが呻き声をあげた。


「ぐあっ」


「フリン兄さん!?」


「どうしたどうした?」


全員の視線が集まるなか、膝をつくフリン。


その原因を、マスカリアスが突き止める。


「これは、おそらく呪われてますね」


フリンが膝をついた原因は、そのロングソードにエンチャントされていた使用者を蝕む呪い。


ただ呪いといっても軽い痛みが走るのと同時に身体の力が入らなくなる程度のものなのだが、街中なら解呪をしてもらえば解決するそれもダンジョンの中では一大事である。


「呪いって、そんなのあり?」


実際に装備が呪われているということはあるが、ダンジョンから出る武器が呪われているという話はほとんどされていない。


そしてその場にいる誰もが警戒していなかったのだから、長兄を責めることもできないだろう。


「とりあえず手離せないのか?」


「ぐっ……、無理だ……、離れん」


ヘインツに言われ手を開こうとするが、フリンのその右手は縫い付けられたように剣を手放すことができない。


おそらくそれもそれも呪いの効果だろう。


「じゃあ腕から切り落としてみるか」


「そんなのダメですよ!」


ホラツークの意見にミレーヌが制止の声を上げる。


実際にはこのダンジョンの中という状況で、問題なく動けるようになるなら一度腕を切り落として繋ぎ直すのは十分に一考する価値のある選択肢だ。


「しかしこれは、腕を切り落としても解呪はされないかもしれませんね……」


腕を切り落としても呪いが体側に残る、もしくは一度切って繋ぎ直しても腕は直剣を握ったまま離さない。


それはどちらも考えられる事態だった。


そしてそうなればミレーヌの魔力を無為に消耗するだけでなく、その瞬間に魔物に襲われ、フリンの治療が満足にできないかもしれない。


「このまま脱出するしか無さそうだな」


「すまん……」


「謝らないでくださいフリンさん、私たちはパーティーなんですから」


そんなやり取りを見て、下の兄弟二人が一歩離れた所でコソコソと内緒話を交わす。


「やっぱり良い雰囲気じゃない?」


「折角なんですから、応援してあげたらどうですか?」


「わりとミレーヌちゃんが溶け込めるように気を配ってたつもりなんだけどなー。やっぱり無口系イケメンは強いのかな」


そんな前後の会話の温度差の間で、次兄のヘインツが後ろに視線を向ける。


「ゆっくり話している余裕はないぞ、魔物だ。ホラツークは兄さんの代わりに前に出ろ」


「はいはい。マスカリアス、援護よろしくね」


「魔力に余裕を持って、なんて言ってる場合じゃないですね」


言いながらも三人は魔物と相対する為に体勢と陣形を整える。


なんとも運が悪く、退路のない通路で満足に動けなくなった者を庇いながらの戦闘に苦労の予感を覚える一行。


そして実際にそのあとは、とても苦労をすることになった。

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