043.エンチャントをしよう!①
「んじゃんじゃ、武器にエンチャントやってきますかー」
「はい、主様」
ということで並べましてはお弟子さんの装備。
場所はいつものコアルームにルビィと一緒。
お師匠さんの装備はちょっとレベル高すぎて気軽にエンチャできないのでこっちで慣らしていきたい、なんて本人に聞かれたら怒られそうな本音だけど仕事なので許しておくれ。
「それじゃあまずはこれ! 大盾!」
「武器ではないのでは?」
「ソウルシリーズなら盾は武器だから大丈夫」
というかわざわざこれにエンチャしたくて注文したのでまずはこれにすると決めていたのだ。
ちなみに鍛冶師さんに頼んだだけあって全面金属製である。
大きさは腰を落として構えればほぼ人間がすっぽりと隠れるほどなので重量がクソバカな一品。
「さて、何の効果をつけようか」
「主様の中ではもう決まってるのではありませんか?」
「まあそうなんだけどね、ルビィの意見も聞きたいかな」
「そうですわね、やはり耐久力の強化と重量の軽減でしょうか?」
「まあ鉄板だよね」
盾だけに。
「はい?」
「いや、なんでもないです」
誰だよ氷エンチャントしたやつ、って言われた気がした。
いやルビィはそんなこといわないけどさ。俺の心の中のネットの民がね。
「盾につける効果の片方はルビィの言った通り耐久力の向上ね。それでもうひとつは透視をつけようと思うんだ」
前提としてよく武器に使われる耐久力の向上は、その武器の形状を魔力で固定する術式を刻むというもの。
これをやったことで絶対に壊れなくなる、なんてことは当然無いんだけど、それでも刻んだ魔法なりの強度は上げられる。
まさに盾につけるのにはピッタリのエンチャントだ。
そしてこのサイズと強度の盾だと、エンチャントは二つで精一杯かな。
ちなみに装備の精度というか強度でもエンチャントの許容量は上がるんだけどね。
まあ要するに出来がいい武器ほど良いエンチャントが出来るってことかな。
それでも実用性を考えると多くて二つがギリギリだ。
「透視ですか……?」
そんな俺の提案に、悩ましい顔をするルビィに詳細を説明する。
「なるほど、それは良いアイディアかもしれませんわね」
反対されたら考え直そうかと思ったんだけど、ルビィも賛成してくれてよかった。
ということで、実際にテーブルの上に置いた盾へと手を添えて、エンチャントの魔法を施す。
普通にやるともっと細かい作業とか手順があるんだけど、俺は魔導書の補正でなにを施すか決めるだけで良いからお手軽だ。
「よし、完成。ルビィちょっと支えてもらっていい?」
「かしこまりましたわ、主様」
ということで持ち上げてルビィに支えてもらった物を俺は対面から眺める。
「うん、ちゃんと向こうが見えない」
下部は床に接地したままの盾は、ルビィの身体の大半を隠している。
ルビィの姿が見えねえ、おのれ盾。
ちなみに顔が上半分だけ見えているルビィはとてもかわいい、ナイス盾。
ということで確認を済ませて、今度は盾をぐるっと回ってルビィの隣へ。
「うん、こっちはちゃんと透過してるね」
「そうですわね」
向こうからあっちは普通の盾に見えたけど、こっちからあっちは盾が透過されて向こうがスケスケに見えた。
つまり相手から身を隠しながら、こっちからは様子を確認できる盾ってことだね。
まあダンジョンの魔物にはそういう駆け引きをするような相手はいないんだけど、盾に視界を塞がれないっていうだけでも一定の効果はあるだろう。
「良いエンチャントだと思いますわ、主様」
「ありがと、ルビィ」
二人で盾のこっち側からあっち側を眺めると、自然と顔を寄せる形になるのでちょっとくすぐったい。
「ところで主様」
「どしたの、ルビィ?」
「この重量はそのままでも大丈夫なのでしょうか?」
施したエンチャントは耐久力の向上と透視だけなので、ルビィに今支えてもらっている重量は鉄の塊そのままだ。
「それは冒険者のゴリラパワーに期待かな」
「なるほど」
まあゴールド以上の冒険者なら普通に構えたまま動けるんじゃないかな。
あとシルバー等級でも、重量級ファイターとしての戦い方は出来るんじゃないかと思っていたりする。
まあ持ち運びにはマジックバッグがあるし、スポット配置の簡易要塞としても使い道はあるだろう。
「うーん、満足」
もうルビィの膝枕でスヤァってしてもいいんじゃないかな。
ルビィにも褒められたしね。
「主様主様、まだ一個しか終わっていませんわ」
そうだった。
「それじゃもうちょっと頑張ろっか」
「はい、主様」
とういことで、エンチャントはもうちょっとだけ続くんじゃ。
「んじゃー次は槍かな」
「こちらは上と左右に刃が分かれていますわね」
「うん、十文字槍ってやつ。って言っても伝わらないか」
十文字があっちの世界の文字だからねえ。
「この形状だと突いた時に避けづらいってメリットがあるんだよね」
まあ実際に使ったことはないけど。
見た目がカッコいいからリクエストした一品だ。
「というわけでエンチャントなんだけど、これにも透視をつけようかな」
「透視ですか?」
「うん、ここをこうして。完成」
出来上がったのはまっすぐ伸びた正面の穂先、そこの先端2割ほどだけ透視の効果を付けた十文字槍だ。
「なるほど、つまりこれで間合いを見誤らせる、ということですわけ?」
「大正解」
届かないと思った刃が刺さってぐさーって狙いのエンチャントだ。
ちなみに実用性は知らない。現状だとダンジョンの魔物相手にはほぼ無意味だと思うけど、まあお外で野生生物とか人間とかと戦う時に使うかもしれないし?
あとおまけで切れ味の向上もエンチャントしておいたから、それだけでも無駄にはならないだろう。
こちらも武器によく使われる切れ味の向上は、武器の刃の方向に魔力の力を働かせるというもの。
このエンチャント自体はそこまで破壊力を生むわけではないんだけど、武器の破壊力と合わせれば効率的に物を切断することが出来る。
「ですが、魔力を見る者には効果が薄いかもしれませんわね」
「えっ、マジか」
ルビィに言われて確認してみると、確かに込められた魔力の存在が消えた穂先の分まで存在を主張している。
「なん……だと……」
「完全に予想してなかったわ。これなら切れ味向上は付けない方がよかったかな」
「透視の魔法をかける時点で魔力を帯びますので、変わりませんかと」
「そっかー」
「ですが、常に魔力を探知している者でなければ気付かないと思われますので奇襲に用いるには十分かもしれませんわね」
ルビィがフォローしてくれるけどどうかな。まあ実際一回切ったら返り血がつくだろうし変わらないかな?
「うーん、まあいいか。別に俺が使うわけじゃないし」
「左様かと思われますわ、主様」
ということで折角なので、部屋の中に丸太を用意して自分で斬ってみることに。
「せやっ」
槍を両手で握って構えて上からさっと振り下ろすと、その勢いのまま丸太がスッパリと断たれて刃先が円の動きで手前へと抜ける。
「結構切れ味凄いね、これ」
「そうですわね」
「勢い余って自分の足の先を斬っちゃうかと思ったよ」
振り下ろしたあと途中で止められてよかったわ。
「んじゃー、次!」
「槍ですわね」
槍といってもこっちはランス、つまり騎兵槍だ。
わかりやすく言うとモンハンのアレね。三角コーンをうにょーんと引き延ばしたようなやつ。
ちなみにさっきまで弄ってたのは英語で言うとスピアー。
あっちのスピアーも普通に馬に乗って使う。
わかりづらいわ!
ってなるけど、日本でランスが使われることはなかったから、わざわざ区別する言葉が用意されなくて今に至るんだろうね。タブンネ。
「これのエンチャはどうしよっか」
「そうですわね、雷の属性などがよろしいかもしれませんわね」
「うーん、採用!」
「思い付きだったのですが、よろしいのですか?」
「うん、いいんじゃないかな。面白いし」
雷の属性自体は扱いづらい属性筆頭なんだけど、ランスはその形状の性質上、必ず先端で相手を突くことになる。
「それなら先端にだけ雷を発生するようにして、あとは逆流してこない仕組みを作れば十分かな」
ということで先端に雷のエンチャントを、逆に手元側には雷耐性のエンチャントをつけてセルフ感電しないようにする。
いっそ素材を分けて絶縁すればよかったかなと思ったけど、今回はまずモノありきだったのでしょうがない。
気が向いたら今度はそんな感じのやつをお弟子さんに頼もう。
ということで完成したした槍の穂先で丸太をつんつんしてみる。
その先端が触れる度にバチッと放電の音がするのは結構威圧感があるかな。
「威力は控えめですわね」
「そだね。まあこれでも人間や動物相手なら役に立つとは思うけど」
一瞬で黒焦げにはならなくてもバチってなったら反射的に体がこわばるしね。
まあうちのダンジョンの魔物相手にはやっぱりほぼ役に立たないだろうけど!




